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脇役  作者: 柑橘ルイ
19/26

脇役十九

「やっと着いたな」


 あまり動くことない船の上だったため、固まっていた関節伸ばしながら晶は船を降りる、色々と意匠が凝った作りの港に足をつけると開放感があり、非常に晴れやかな気分だった。


「ここが最北の町、グリンか……意外と賑やかだな」


 先に下りていた勇が周囲を見回しながら感嘆の声を上げていた、晶も改めて町を見るとそこには数多くの人が行き来しており、また大きな港には豪華な船が少数泊まっている。


「ここには近くに火山がありますから温泉が湧きます、それを求めて多くの人が来る古くからある観光名所ですよ、これでも少ない方です」


 マリアが案内係の如く手をかざしながら勇へ説明をしていた。


「これでも少ないのか?」


 いまだ周囲を見回す勇は疑問を口にしていた。


「そうだな、魔王が現れてから魔物も活発になった、陸路でいくにしろ海路で行くにしろ危険だ、此処までたどり着けるのは護衛を雇える金持ちの商人か貴族ぐらいだろう」


 ユナの答えに晶は納得していた、実際に海上では蛸やイカなど海洋生物の姿をした魔物に襲われていたのである。


勇達が撃退し晶は気配を消して戦闘を観察、何か敵の弱点とかを探し出してみたりと実地で訓練したりしていた。


「流石に寒いな、一旦どこかに入って温かい物でも飲みたい」


 港であるために風が強くまた気温も低い、保温性の高いマントをしているがかなり冷え込み晶は首をすぼませる。


晶達の姿は全身白色になっていた、正確には白色のマントを羽織っているためそう見えるのだが、ジャースと晶は白い雪の世界では黒は目立ちすぎ、隠密性を高めるため雪とおなじ色の白い服を着ているのである、ちなみにジャースは流石に極寒の地で砂漠での格好は危ないので、動きやすいように少し薄手の長袖長ズボン、その上には保温性の高い厚手の毛皮のマントを羽織っており、そのマントは全員に支給されていた。


「確かにそうだな」


 寒さになれていないはずであるジャースは同意しているが、背筋を伸ばし確りと立っているため寒がっているようには無い。


「あそこがいいかも……温まりたい……」


 微かに身体を震わせながらメイが指差した先には、こじんまりした店があった、コップの看板が掛かっているため飲食関係とわかる。


「そうだな、そこで今後の行動も検討するか」


 勇が先頭を歩きだす、寒がっているはずだが毅然と歩いていき、それに続いてマリア達も向かって行った。


「……」


 皆の姿を見て晶は少々困惑していた、首をすくませて腕を組み、少しでも熱を逃さないようにしているのは晶だけであり、自身だけが寒がっているのはおかしいのかと呆然とするのであった。


「どうした?」


 その姿を見たのかジャースが不思議そうに晶へ声をかける。


「いや、なんでもない」


 正気を取り戻した晶は首を傾げるジャースと共に店へと入るのだった。


 一枚扉を押し開くとカウベルが緩やかに響く、音に気付いた店員が視線を晶達によこし、いらっしゃいませと挨拶をするその声は低く穏やかであった。


 カウンターとテーブル二つほどの小さな店であり、一番奥にあった丸テーブルの周囲に座る、晶はメニューからミルクティーらしきものを頼み一息ついた。


 人間考えることは同じような物になるのか、この世界では似ている料理が数多く存在しており、いままで旅をして徐々に何が何に似ているかを晶達は覚えいった、ミルクティーもどきもその一つである。


「さてと、これからどうする? 前と同じように、色々町の人から話を聞いてみるか?」


 勇が椅子に腰掛けながら全員に問う。


「そうですね、やはりその方法が一番いいかもしれませんね」


 マリアも同じ意見なのであろう、湯気が上がるコップで手を温めながら頷いていた、寒い地域ゆえなのだろう、昼間から酒類も販売されていたが流石に頼んではいない。


「よし、これを飲んでから聞き込みを開始するか」


 勇が決定を下し全員了承していた、その手元には晶と同じコップがあり、届く匂いからコーヒーもどきを飲んでいるようである。


「いや、その前に宿屋の確保か」


「兼集合場所……でもある」


 勇が思い出したように顔をあげ、メイも同意しながら頷いていた。


「では少し聞いてこよう」


 ユナが席を立ち、静かにカウンターに居る店員の下へ聞きに行く、思いのほか分かりやすいにあるのか少し話すと直ぐに戻ってきた。


「どうやらこの近くには無いが、もっと奥に、火山側へ行ったところに色々と宿があるそうだ」


 ユナが口にしながら席へと座る。


「あー、そういえば此処は温泉街でもあるんだったな? でも結構値が張りそうだな」


 マリアの説明を思い出し、裕福な層しか来ないならそれ相応に宿も豪華になっていそうだと口にしながら晶は渋い顔つきになる。


「その辺りも聞いてきた、すこし奥待った所にあるパウノという一般向けの宿が良いらしい」


「よし、ここからそこへ行きながら情報収集するか!」


ユナの言葉から勇が意見を出し、全員同意するのだった。






「ところでユナさん、少し良いか?」


 晶がコップを置き、肘を立てて目の前で手を握る姿はさながら悪役といった感じである。


「ああ、いいぞ」


 ユナはゆっくりと飲みながら答えた、ジャースは椅子にもたれながら啜り、興味があるのか暇なのかその視線は晶に向く。


 勇が飲み終わるのを切欠に次々に情報収集へ出かけ今居るのは晶、ユナ、ジャースの三人であった。


「勇とうまくいっているのか?」


 一瞬の沈黙の後、ようやく晶の言葉を理解したのだろうユナは一気に噴出した。


「い、いきなり何を言い出すんだ!」


 コップをテーブルに叩きつけるユナの顔は真っ赤に染まっている。


「だってそうだろう? 色々と手助けしてきた身だ、気になるのは当然だろ?」


 勇に惚れた女性達のゴタゴタを楽しむ晶は砂漠の祭壇で勇に惚れたユナは対象へ入れていたのだ、当然同じく勇に惚れているマリアも色々と手を回しているのである。


 晶はアドバイスという形で引っ掻き回すため、しっかりと覗いていることは黙っている、こうして本人から聞いておけば、勇と本人しか知らないことを知っていてもおかしくはないという思惑もあった。ちなみにマリアにも同じ事をしている。


「う、うむ、まあ、親密にはなってきているな」


 こういった話は余り得意ではないのだろう、顔を赤くして恥ずかしそうである。


(あ、あれで!?)


 晶は内心で驚いていた、王都で教会の件が終了した僅かな時間や乗船中にも二人きりになるように仕向けその様子を見ていたが、ある程度の距離までしか近づかない、手も繋がない、そんな状況だったのである、それで親しくなったと言えるのだろうか? 


「そうなのか? 当然手を繋いだりしているよな?」


 そんな驚愕していることを晶は顔に出さず平然と質問する。


「そんなこと出来る訳がないだろう!」


 ユナは羞恥心からか吼えまくった。


「そうか……それは残念なことだ……」


 晶は残念そうにため息つきながらおおげさに首を振る。


「どういうことだ?」


 晶の態度から何かを感じたのだろう、ユナは問い詰めるように身を乗り出しいてきた。


「実はマリアさんが勇と町を二人きりで楽しんだと聞きいてね……なんでも仲睦まじく腕を組んでいたとか……」


 残念そうに話す晶だがそのマリアと勇の姿は、王都でマリアを教会から離すために勇に頼んだ事である、腕を組んでいたことは勇に後から聞き出していた、そしてそのことは勿論秘密であり、ばれない様に密かに進行していた。


「な、なんだと」


 余りの驚きに仰け反るユナの後ろには雷を幻視しそうだった。


「だからユナさんも頑張れよ、大丈夫だ、勇はユナさんのことを嫌っている様子は無い」


 晶は安心させるように微笑み応援する。


「今皆バラバラに情報集めている筈だからな、勇も一人になっている可能性が高い、ちょうど良い機会だよな」


 囁く晶の顔は天使、後ろには悪魔の尻尾が見え隠れしているようである。


「そうか、そうだな、私は騎士だ、いつまでも怖気づくわけにはいかないからな」


 晶に唆されたとは気づいている様子は無く、むしろ気合を入れてもらったと感じたのだろう、ユナは一気に飲み干しさっさと出て行く。


「なあ晶、何をやっているんだ?」


 ユナと晶のやり取りを見てジャースは疑問を口にする、その手あるコップにはまだ中身が残っているのだろう、湯気が上がっていた。


「何を、とは?」


「さっきのユナとのやり取りだよ、大分前だが同じ様にマリアもけしかけていただろ?」


 晶はユナだけではなくマリアにも同じようなことをしていたのである、勇と出かけ協会へ戻りにくくするためもあったが、勇との仲を進ませるためもあった、その結果の一つがマリアと勇が腕を組んでいたことなのだ。


「そうだな、ジャースさんには言っておくか……」


 晶はテーブルに肘をたて、コップを持ちながら話し出す、ジャースも体勢は変わらなかったが目は真剣に見つめていた。


「そんな真剣な話じゃないから気軽に聞くだけでいいさ、勇は見ての通りほぼ完璧な男だ、容姿は完璧、成績優秀、運動神経抜群、困った人を見過ごせない優しさを持っている、弱点が殆どないな、あるとすれば自分に向けられる好意に鈍感な事ぐらいだな。当然小さいころから多くの女性から好意を寄せられてきた、そうなるとあまりいい気がしないのが男性側だろう、そのなかにも自分は居たんだ」


 口を潤すためコップに口をつける晶。


「少し話が飛ぶが、オレは十二の時に影が薄く幽霊みたいだといじめを受けていたのだが、正義感の強い勇はオレを助けに入ったんだ、最初はオレと間逆の性質とモテまくっていたことから嫉妬して口をきかなかったり、勇を無視していたりしていた。それでも勇はそんなことを気にせず、しつこく話しかけたり誘ったりしてきた、そしてついにはオレが根負け、さっきも言ったように勇はもてる、でも嫉妬した男性側から何か酷いことをされたという事がないんだ、せいぜい嫉妬の視線を向けるだけ、つまり男性からもなんだかんだで好かれているんだ、女性にばかり優しいというわけでは無かったからな。オレも結局勇のことを嫌うことが出来なくなった、それに見ていると結構楽しい事がわかってきてな、まあそこで嫌うことが出来ないのなら勇で楽しいでやろうと考えて、勇を取り巻く女性たちをそそのかし、仕込んで、勇が困る姿や女性たちの取り合う姿を見て楽しむことにしたんだ」


 ようは晶からすると恋愛小説や主人公がしっかり設定されているゲームのように、主人公に感情移入するのではなく、傍から見て楽しむ、そんな感覚である。


「なるほどね」


 納得したのかジャースは何度も頷いていた。


「確かにあいつ等見ていると面白いな」


「だろう」


 お互いにニタリと笑う、晶に新たな――勇達でからかい楽しむ――仲間が増えた瞬間であった。






「お、居たな」


 晶の視線の先には、勇とユナの二人が店の中に入る所である。


 飲んだあと晶達がおこなった事は伝説などの情報収集とユナの捜索であった、話を聞いたついでにユナの目撃情報も聞き出しあとを追いかけていた。


「オレ達も入るか」


 晶は音を出来るだけ立てないよう扉を開き店に入っていく、中は結構煌びやかであった。


色とりどりのガラス製品や様々な布製品などが並んでおり、幸運なことにお思いのほか身を隠しやすく風景に溶け込み勇達に近づいていった。


「店主、少しいいか?」


 ユナがエプロンを掛けた体がふくよかな女性に話しかけている、この女性しか居ないので店主と判断したのだろう。


「はい、いらっしゃい」


 商品の点検をしていたのだろう、店主は振り返り返事をする。


「少し聞きたいことが――」


「あら! 美人さんだねぇ、ははん、お隣の美形な彼氏に何か買ってもらうのかねぇ?」


「え! あ、あの、その……そんな……」


 ユナが話を聞こうとしたのを店主は途中でさえぎり笑顔で喋りだす、その際勇のことを彼氏などと言われ、不意を突かれた形だったのだろうユナは顔を赤くしてしどろもどろな返事をするばかりであった。


 その様子を不思議そうに見ていた勇が見かねたのか、ユナに代わり話を切り出す。


「いや、彼氏彼女の間柄じゃないよ、それよりも話を――」


「そうなのかい? いやぁ勿体無いねぇ、二人が揃うととても様になるのに、それだけ美男美女だと回りも放っておかないんじゃないのかい?」


「ですから話を――」


「なんだったらこの際付き合ったらどうかね? いいと思うけどねぇ? それとも何かい? 他に誰か好きな人が居るのかね? だったらしょうがないねぇ、それでも振り向かせるのが面白い所だと私は思うよ」


 店主は余程話し好きなのかはたまた恋愛事が好きなのか次々に遮って話しまくる、ついに勇は駄目だと顔に手を当てて首を振っていた。


「ユナ、別の所いこう……ユナ?」


 勇が声をかけたが反応が返ってこない、それもそのはず其処には真っ赤に染まり硬直しているユナの姿があった。


「彼氏……付き合う……」


 その口からはなにかボソボソと口走っており、少しはなれた晶達にも全てではないがぶつ切りで聞こえる単語から勇と恋仲と思われ恥ずかしがっているのが分かった。


しかし勇は気付いている様子は無く、焦っている様子と表情からユナが怒り心頭などと勘違いしているのが晶には理解できた。

 

「えーと、とりあえず出るぞ!」


 そのうちにぶち切れると勝手な思い込みによる危機感からだろう、勇はユナの手を掴み逃げ出すように店を出て行った、そしてそれを笑顔で見送る女店主であった。


「すごくニヤニヤするな」


 勇達の後をおって店を出た晶は口元を片手で覆い表情を押さえ込んでいる。


「いつも凛とした奴が、あんなにも恥ずかしがりやとは思いもよらなかったな」


 同意するようにジャースの口調も楽しげである。


「だな、さて見失う前に追いかけるか」


 追跡を続行する晶とジャースは情報収集もそこそこに勇達で楽しむのであった。


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