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脇役  作者: 柑橘ルイ
17/26

脇役十七

 太った男、教祖は頬を腫らしながら驚愕に染まり、晶を指差していた。


「馬鹿な! お主は我の催眠術にかかっていたはず! 何か企む様子はなかったとマリアからも聞いておるぞ! そうであろう!」


 教祖に問われるとマリアは無表情にかつ淡々と話し出す。


「はい、晶さんが素晴らしい人物だと隣の部屋で聞きました。その後はポーカーなるゲームをしたのち就寝なされました。」


 マリアが答え終わるときには晶は口角を上げていた。


「聞いていると思ったよ、マリアさんの部屋へ尋ねたら勇の部屋側に居たこと、そして勇とベッドの取り合いの時に部屋へ来た、そのことから盗み聞きしていると判断したんだ。だから口では催眠にかかったふり、本音は筆談でしたのさ」


「ポーカーをやったのは筆談をごまかすためだな、流石に話しとポーカーやりながらでは無理だったから終わったあとだけど」


 晶に続き勇も説明に加わる。


 晶がポーカーをやりだしたのは紙と書く物を手に入れるためである、また何に使うのかもトランプ製作だといえば良いのだ。


 ちなみに始めるまえに晶は催眠術にかかった振りをしていると、紙に書いて勇へ伝えてある。


「しかしマリアさんの病んだ原因を探ったら思わぬ内容が出てきたな」


 晶はもしかしたら宗教は何処も同じようなものかもしれないと呆れていた。


「お前達なぜこのようなことをする! 教祖様はなにも悪いことはしていないではないか!」


 突如司祭が教祖を支えながら睨み、怒声を張り上げる。


 その内容に晶は鳩が豆鉄砲を喰らった顔になるのであった。


「……この金ぴかな部屋と貯まりまくりの脂肪から、ライレウス教を私物化しているのは明らかだとおもうが?」


 勇も予想外だったのだろう、目が点になっている。


「何を言っている! 神官と同じ質素な部屋ではないか!」


「これで質素!?」


 一瞬何処も金で埋まっているのかと晶は驚くが、侵入したときにはそのような部屋は見ていないのを思い出す。


「なあ、お前は教祖の外観がどう見える?」


 もしかしたら司祭も催眠にかかっているのかと晶は試しに質問した。


「外観? 引き締まったお身体に優しさ溢れる穏やかなお顔、それに――」


「分かった、もういい」


 まだまだ続きそうだったので晶は中断させ予想通りだと溜息をつく、勇も理解したのか同じ態度であった。


「司祭もかけられていたのか、しかし催眠術は見ているものも変化させるのか?」


「電気が流れていなくても、流れていると感じさせる事が出来るらしいからな、別の物を見せる事も可能かもしれないな」


 勇の言葉に司祭も被害者かと哀れみの視線を晶は向ける。


「マリアさんを治すついでに司祭も治しておくか」


「そうだな、さて、今晶が言ったがマリアの催眠を解除してもらおうか?」


 勇は詰め寄ろうとしたが教祖が不気味に笑い始め、躊躇してしまう。


「なぜ我がそのような事をせねばならぬ」


「なに?」


「我の力はこの教会の神官すべてに及んでいる! ここで呼べば神官達が来るだろう、いかに勇者とて数には敵うまい!」


「じゃあ鍵かけておこう」


 いうやいなや晶は部屋の鍵をかける。


 この部屋は外から見えぬようにするためか窓は一つも無かった、そのため入口は扉しかない、神官達を呼んでも晶が鍵をしめたため入れない状態となった。


 状況を理解したのか教祖は青ざめる、しかしかぶりを振り叫んだ。


「ま、まだだ! マリアよ! 勇者達を捕らえろ!」


「しまった!」


 無理に抵抗すると怪我を負わせしまうため、マリアに襲われると非常にまずい、それでも避けきるためか勇は直ぐさまマリアへ視線を向け身構えていた。


「残念だったな」


 しかしそこにはマリアを縛り上げたジャースがいたのだった。


 勇と話を終えた後、晶はジャースのところへ謝りに行った、そのときマリアを利用されるのを阻止するために、隠れながら着いてきて欲しいと話し合っていたのだ。


その際同じようにポーカーと筆談を行っている、ジャースに頼んだのは晶としては念のためという部分が大きかったがそれが功を奏した。


「し、ししし、司祭、ゆ、うしゃを、勇者を!」


「く、申し訳ございません、特別に鍛えてあったマリアでもあの状態にされるのです、私ではどうしようも……」


「……」


万策尽きたのか、もはや教祖は二の句を上げることは出来ない様子である。


「いい加減マリアの洗脳を解いて貰おう」


 勇が再び詰め寄るが、教祖は口を堅く閉ざし顔を背ける。


「な! こっちを向け! 催眠を解け!」


勇は顎を掴み揺らすが頑として口を開く様子が無い。


「この!」


イラつきながら勇は拳を振り上げる、しかしそれを晶は掴み止める。


「晶!」


「ちょっとこっちこい、ジャースさん、そいつら逃げないよう見張っていてくれるか?」


「わかった」


訝しげな顔をしながらも、勇は大人しく晶に連れられ部屋の隅へ移動した。


「あいつら放置するのか!?」


「そんな訳あるか、勇にやってもらいたいことがある」


 首を傾げる勇に晶はあるものを見せた。


「それって」


「そうだあいつが持っていた五円玉だ、こいつであいつに催眠術かけろ」


「効くのか?」


「正直わからない、けど勇なら催眠術のかけ方とか詳しいだろ?」


「光の反射だったり反復運動による思考の低下だったり色々あるが……そうだな、やるだけやってみよう」


「ジャースさんこっち来てくれ」


 晶は巻き込まれないよう呼び寄せ、五円玉を受け取った勇は教祖へ向かう、そして五円玉を無言で揺らし始める。


「な、なんだ? 我を操ろうというのか!? 止めろ! 止めろ、そんな、もの、我、には……き……か……」


カクンと頭を下げる教祖だった。


「自分でやっておいてなんだが、効くものだな」


 あまりの効きの良さに呆れ果てる勇であった。


「そんなにも簡単なのか? 晶もやり方分かるか? 分かるならオレにもやり方教えてくれ」


「どうだろう? 勇ほど簡単にはいかないかもしれないな?」


 催眠の様子を見たジャースが聞くが、晶はやっても効果が薄いか時間が掛かる、というか効かない可能性が高いと考えていた。


「予想だがアレは多分思い込みによる効果が高いと思うぞ、先代勇者、正義の味方で英雄の素晴らしい人物だ、かけられた人達は勇者の力は絶大という認識があるはず、つまり勇者から受け継いだ力にも絶大な効果があると多分思い込んでいるだろう」


「確かに催眠術は疑う人より、素直に信じている人の方がかかりやすいらしいからな、勇者から受け継いだ、というのがミソなわけだ」


勇の補足に晶は頷く。


「たぶん勇者から受け継いだと言わずに同じ事をやっても、かからないだろうな」


「だったらそれを言えば効果はでるのか?」


ジャースはそう言うが晶は首を横に振る。


「その辺も人が言っても勇者に何の繋がりもない、根拠がない時点で疑われて効かないだろうな、それにひきかえ教祖は立場から信じ易い、教祖自体も今まで成功してきた催眠と勇、というか勇者そのものが行った事が酷くかりやすかった原因だと思う」


 なるほどとばかりに感心するジャースであった。


「さっそくマリアの催眠を解除させるか」


勇が教祖へ命じようとした時ジャースが口を開いた。


「直接マリアにかけて解除したら良いんじゃないのか?」


「「あ」」






「王様も結構奮発したな」


勇は船を見上げながら感心しているようだった、あれから数日経ち、船の準備ができたので港へ行くと、晶達の目前には立派な船が横たわっていのである。


「もとは王族が使う船だったのだが、使いやすさや頑丈さを求めて改修したものだ、本当はもう少し時間が掛かるところだったがライレウス教から資金と人員の援助があったから大分早くなったな」


「そんな大事なもの改造して大丈夫なのか!?」


 王族の船を使用したことに驚きを隠せない勇は目を見開いていた。


「大丈夫……余り使って……いないから……有効利用って……おっしゃていた……それに……まだ他にも……船は……ある」


「それなら良いが……」


 メイの答えを聞いても勇は不安げである。


「ふふ、安心なさって下さい勇者様、さあ行きましょう」


「お、おう……」


マリアに腕抱き抱えられて、船に乗り込む勇の顔は緊張に彩れている。


 後ろを歩く晶はその様子をみて溜息をついてしまうのも仕方なかった。


 マリアの催眠は解こうとした、しかしどう解くかが問題であった、元に戻れとすると、元とはどんな状態かわからない、また、催眠を忘れろ、としても催眠時の行動を覚えているので、行動の理由に矛盾が生じ苦悩、過剰なストレスで異常をきたす恐れがあった、全て忘れさせるのは問題外である。


 そこで取ったのが催眠をかけている部分――五円玉を揺らすから本人が眠るまで――を忘れさせたのだ、催眠時の命令とそれに伴う行動を全て覚えているため、自己嫌悪するなどの不安要素が懸念されたがその時はそれが最善であった、事実マリアはかなり塞ぎこんでいた、しかし勇達の励ましにより元気になっていったのである、たが一つ問題が残っていた。


「勇者様の隣、勇者様の隣、ふふ、フフフフ、フフフフフフフフ」


 顔を引き攣らせた勇に腕を絡ませるマリアが不気味に笑う、船内に個室が用意され、勇の隣の部屋はマリアになっていた、その事が嬉しいのだろう。


「結局治らなかった、というか催眠術なくても病んだ……天然か……」


 教祖も予定外みたいなこと言っていたなと晶は溜息を再度つく、本来の目的はマリアのヤンデレを治すことであったが、達成することはなかった。


 代わりにライレウス教の教祖を改心することが出来た、改心と言っても勇が催眠をかけ、司祭が言っていた人物像にしたのだ、もちろん五円玉は没収してある。


 部屋にあった金の装飾などは全て売り払い質素な暮らしをしているらしい、先程ユナが言ったがライレウス教からの援助は教祖の指示だろう。


「天然物なら仕方がない、勇のハーレムの安全は勇の双肩にかかっているのだ!」


 勇への信頼という丸投げをする晶であった。


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