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脇役  作者: 柑橘ルイ
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脇役十六

「何かわかったか?」


 勇は手元にある五枚の紙で出来た札を眺めながら尋ねる、気に入らないのだろう眉間の皺がかなり深い。


「特に変わったところがなかったな、むしろ素晴らしいとさえ思ったぞ」


 晶も同様にある手元の札を見ながら答えていた、比較的良い手だが勇の表情が嘘か真か判別がつかず、このままか変更するか思い悩んでしまう。


「素晴らしい?」


 視線だけ向ける勇へ頷く。


「表や礼拝堂は金かかっていたけど裏は質素だったな、実は司祭らしき人に見つかったが良い人だったぞ」


「成る程な、じゃあマリアのアレはどうしてなったんだろうな?」


 手札から二枚外し札の山から同じく二枚くわえる、それでも眉間の皺は変わらない。


「分からん、今度はもっと深くまで探ってみるさ、まだ日にちは有りそうだからな」


「気をつけろよ」


 晶が頷いたあとしばしの沈黙が流れ、互いに視線を合わせて相手の真相心理を探る、そういえばと勇が口を開いた。


「ジャースと何かあったのか? 凄く不機嫌だったぞ」


 晶の動揺を誘うためなのかそんな質問をしてきた。


「あったな、少し怒らせた」


 無心に努めて冷静に晶は返す。


「怒らせた?」


「侵入する前にジャースさんがいてな、個人的なことだから一人でやるって言ったんだ、そしたら突然怒りだした」


 晶が説明を終えると同時に勇がため息をつく、その様子は馬鹿な事したなと言いたげである。


「あのな、守ってやりたい、何か手伝ってやりたい、そんな相手にお前はいらないと言われるは結構きついぞ」


 本格的に話すつもりなのだろう、勇は手札を伏せて晶は視線を向けた。


「でも――」


「でもじゃない、逆の立場になって考えてみろ」


 しばらく沈黙したあと晶は小さく唸った。


「分かったか? 分かったのなら早めに謝って、しっかりと話し合ってこい」


「ん、勇、ありがとう」


 気にするなと勇は片手を上げ、手札を見始める。


「俺はいいぞ」


「こっちもOKだ」


 二人は見つめ合い自分の手札を勢いよくテーブルに広げ同時にみせる。


 今回のベッド争奪戦はポーカーであった、トランプは紙を貰ってきて書いた手作りである。


「スリーカード」


「ロイヤルストレートフラッシュ」


「……」


「……」


「……なんだって?」


 晶はテーブルをみるとそこには綺麗に揃ったトランプが並んでいたのだった。


「本当に……ロイヤルストレートフラッシュ……だと?」


 ワナワナと体を振るわせ晶は勇をみるが、勇は頬をかくだけである。


「俺だって正直驚いたさ」


「驚いたと言うわりにはその落ち着きぶり……は! まさかお前……イカサマか!?」


 晶は勇に詰め寄り首元を掴んで持ち上げる。


「ちょ、ちょっと、ま、て」


 流石に体を上げることは出来なかったが首を絞めるという結果になった。


「そうまでして! 勝ちたい……のか……」


 興奮していた晶が唐突に萎んでいく、そっと扉を見るがそこにはなにもない。


 だが晶には分かった、扉の向こうにマリアがいることに、殺気が一直線に突き刺さり扉と周囲の壁がジワリと黒いナニカで侵食されていくを幻視する。


「何事にも偶然、奇跡というものはあるものだな! 素直に負けを認めて椅子で寝るさ!」


 しっかりと聞こえるよう張り詰めた声を晶は上げる、すると黒いナニカは小さくなっていった。


「今夜は、悪夢、確定だ……」


 憂鬱な晶の肩に勇が慰めるように手を置くのであった。






 ジャースは椅子に座りながら天井を見上げていた、頭の中では晶に言われたことが今でも渦巻き、思い返すたびに気が荒む、そんなとき扉を叩く音がした。


「ジャースさん、晶だけど少しいいか?」


「なのようだ?」


 無視しようとしたが、それでもつい返事をしてしまう、その声は酷く重い。


「教会でのことで謝りに来た、できれば面と向かって話がしたい、開けてくれないか?」


「ハン、別に気にしなくていいぜ、どうせオレには関係ないからな」


 ジャースは意趣返しで嫌みを口にする、晶は罪悪感からなのか黙り込んでいるようであった、少し溜飲が下がったジャースは入れと言おうとしたとき、気力を振り絞る感じで晶が扉越しに話しかけてきた。


「他人のような扱いしてごめん、オレはジャースさんが居てくれて嬉しい、そして他人なんて全く思ってない、それだけは覚えていてくれ」


 ジャースはそこまで言うならしかたがないと機嫌を良くしながら扉を開ける、しかしすぐ許すのは若干しゃくなため、仏頂面である。


「ジャースさん……」


 晶の堪えた顔をみてこれぐらいで良いだろうと仏頂面をやめる。


「大分堪えたみたいだな、許してやるよ」


 晶が胸を撫で下ろすのをみてジャースは頬が緩んでいた、ふと見ると晶が片手に何かを持っていた。


「そんなにも紙もって何するんだ?」


「ああこれか? 親睦をもっと深めようと思って持ってきた、すまないけど部屋に入れてくれるか?」


 ジャースは首を傾げながら部屋へ向かえ入れるのだった。


「これはちょっとした遊びをするための紙だ」


「遊び?」


「オレ達の世界にあるカードゲーム、ポーカーというやつさ」


 得意げな顔で晶は白紙の束を広げる。


「今からカードを作るからその間これを見て役を把握してくれるか?」


 文字が書かれた紙を数枚ジャースは受け取り、内容を把握しほくそ笑んだ。


「なるほどな」


「わかったか?」


 晶の言葉にジャースは頷く。


「しかしなぜかこの世界の文字が読み書き出来るが、召喚の際何かされたのか?」


 自分で書いた文字を見ながら晶は首を傾げていた。


「異世界からの召喚だからな、意思疎通は出来ないと困るだろう、それなりに魔術が施されている可能性は高いな」


「やっぱりそのあたりだろうな、まあ今考えてもしかたない」


「確かに、晶、今夜は長くなりそうだな」






 城を出た晶は大通りをもくもくと歩いていた、露店も店にも立ち寄ることなく脇目も振らず一直線に歩き続け、潜り込んだ教会へたどり着いた。


 周囲を窺うことなく教会の像の下へ、そして一礼した後に右の通路へ入っていく、途中に神官が歩いてきたが足を止めることなく、また隠れることもせず平然と進み続け最奥の扉を叩いた。


「晶です」


「入って良いぞ」


 失礼しますと一声かけた後、金色の部屋へと入り恭しく椅子に座る太った男へかしずいた、太った男の隣には司祭が立っている。


「確りと勇者へ報告したか?」


「はい、素晴らしき教祖様のことを伝えております」


 晶の言葉に太った男、教祖はニタリを笑う。


「しかしこやつが勇者の友人とは、何とも良い物を手駒に出来たものであるな」


「マリアとこの者によって勇者も引き込みやすくなりました、ライレウス様のお導きにございましょう」


 ライレウス様ありがとうございますと司祭は祈りをささげている。


「少しよろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「勇を私とマリアさんでこちらへ連れてきてはどうでしょうか?」


 かしずき顔を上げた晶の意見に教祖は顎に手を当て思案していた。


「既に教祖様に裏は無いと報告しております、そして今回は更に深くまで探ると伝えております。当然素晴らしき教会にございますので、そのまま伝えることになりましょう、そして私とマリアさん二人で説得すれば流石の勇も来るに違いありません、教祖様のお力によって勇も素晴らしき信者となりましょう」


「なるほど」


「早急すぎると思いますが?」


 教祖が成功するのを想像したのか笑うが、司祭は眉を顰め教祖へ忠告を促す。


「王都に滞在しているのも時間の問題だな、少々計画が変わるが良い機会である、かまわん、つれて来い」


 教祖の言葉に晶は頭を下げ返事をするのであった。






 翌日教会の前に勇は来ていた、左右を晶とマリアで挟んでいる。


「此処がライレウス教の教会か」


 見上げる勇は荘厳な教会に感嘆の声を上げていた。


「あとで中をご案内いたしますよ、さあ、中へ入りましょう」


 マリアは勇の腕を抱えこみ歩き始め、勇もつられて教会へ入っていく。


「此方でございます、少々おまちください」


 マリアが扉を叩き入ってよいか伺いをたてる、中から了承の声が聞こえ扉を開けた。


「な!? なんだこれは!?」


 扉の向こうは金色に染まった悪趣味な部屋である、それをみた勇は驚愕に染まった、その一瞬の隙を突かれ腕を後ろで縛られる。


「あ、晶!?」


 振り返るとそこには縄を持った晶が無表情に立っていたのである。


 勇は突き飛ばされ室内に入り強引に椅子へ座らされる、真正面にはふてぶてしい太った男が座っておりその隣に司祭のような男が立っていた。


「よくぞやった、褒めてつかわす」


「「ありがとうございます教祖様」」


 嫌な笑みを浮かべる太った男へ、マリアと晶は礼を述べていた、どういうことかと二人を見るがマリアはかしずき、晶は縄をもって勇の後ろに立っているだけだった。


「どういうことだ!?」


 激昂する勇だが、優位にいる所為か教祖は笑うだけである。



「なに、そやつら二人はライレウスの信者、いや我の手駒なのだ、そうだ特別にお主には教えてやろう」


 よほど機嫌が良いのか饒舌に話し出す。


「本来はマリアと勇者が婚姻を結び、我が教会の権力を上げることにあった。今は王に負け次点に甘んじているが勇者、またはその子供、魔王を殺した勇者の血を引くものを祭り上げれば民衆はより教会を信仰するだろう、そうすれば王を超える、権力を手にすれば我はより金が我が元へ集まってくるのだ」


「じゃあマリアの様子がおかしいのは……」


「我が仕組んだのであるな、少し度が過ぎているのは予定外だったが、まあよい、本来はその予定だったが途中で良いものが手に入った、その馬鹿者であるな」


 教祖が指差したのは勇の後ろに居る晶だった。


「勇者の友人が手に入り、親しくなっているマリアも居る、そこで二人を使用すれば疑いもせず勇者は此方へ連れてくることが可能だとわかった、そして我が力を持って勇者を信者へ変えれば、勇者が信仰する宗教として民衆から支持される、つまり本来よりも早く権力が手に入るということである!」


 興奮してきたのか教祖が両手を挙げ派手に振舞う、その姿を勇は鼻で笑うだけである。


「そんな都合よくいくか、話を聞いて俺がライレウス教を信仰するわけがないだろう」


「くくく、ははははははははは!」


 勇の言葉に教祖は馬鹿なことだと言いたげに盛大に笑い出す。


「なるのだよ、この我が力を持ってしてな!」


 教祖は懐へ手を突っ込みあるものを取り出した。


「そ、それで、晶とマリアを?」


「そのとおりだ! これは先代勇者が我が一族に伝えた秘術である! 先祖は勇者を敬い使わなかったようだが我は違う! 我が有効に使って進ぜよう」


 教祖が掲げるその手には。




 紐でつるされた五円玉があった。




「……」


 あまりに下らないので勇は言葉に出来ない。


「さあ我が僕になるがいい!」


 勇へと近づいた教祖は真剣な顔つきで五円玉を揺らす。


「あなたはだんだん眠くなる、あなたはだんだん眠くなーる」


 真剣にやる間抜け面に脱力する勇は頭を下げる。


「くくく、かかったブゴッ」


 次の瞬間教祖の顔面を思いっきり振りぬいた。


「きょ、教祖様! 大丈夫ですか!?」


 椅子の位置にいた司祭が助け起こしていたが、重くうまくいかないようである。


 ちなみにマリアはあまりの出来事にあっけに取られていた。


「な、なぜ、だ?」


 なんとか上体を起こした教祖は勇を指差す。


「あんな催眠術にかかるかよ、なあ晶」


「全くだ」


 立ち上がる勇の後ろには、切られた縄を持つ晶が立っているのであった。


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