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脇役  作者: 柑橘ルイ
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脇役十五

 しばらく呆然と立ち尽くしていた晶は肩を落とす。


「怒らせるつもりは……なかったんだけどな……」


 気落ちして溜息をつくが、なんとか気合いを入れ直し塀を乗り越えた。


 誰にも見られていない事を確認すると極力音をたてずに窓へと近付き開けてみる。


(やっぱり鍵掛かっているか)


 微動すらしない窓だったが予想通りのため落胆は少ない、たまに通りかかる神官に気付かれぬよう、音をたてず次々と窓に手をつけるが全て開かなかった、しかし大まかな建物の構造は理解できた。


(一階建の長方形で裏口は無し、結構広いな、外側が廊下で部屋の中は見えないが採光はどうしているんだ?)


 侵入出来る場所がなかったため晶は表の入口へ向かう、影の薄さを利用し思い切って正面から入り込む魂胆である。


(流石に何処か奥に行ける所があるだろう、キリストの教会に似た感じだからな、ライレウスの石像あたりか両脇の治療室、神官がいるなら繋がっている可能性が高そうだ)


 窓を調べている時に神官が歩くのを見かけた事から、建物の後半は生活空間になっているのだろう、それならば治療室へ行き来しなければならず通路があるはずである、太った司祭らしき人物を目撃したのは生活空間の一番奥にあった扉であった。


 出入りする信者と患者に混じって晶も教会へ入っていく、長椅子に座り体調が悪いふりをしながらそっと治療室の中を覗く。


 治療室は神官が中央からやや奥側で椅子に座り、向かい合う形で患者が同じく椅子に座っていた、患者は手を怪我しているらしく巻かれている布が血に染まっており、そこに神官が手をかざし魔術で治療を行っていた。


(治療するためのだけの部屋なんだな、精々机があるだけで殆ど何も無い、神官の後ろは窓があるだけか……)


 その時別の神官が覗いていた治療室へ入っていく、そして治療を終えた神官と少し話しをすると入れ替わり、治療をしていた神官が出て行った、どうやら交代をする時間帯なのだろう、別の治療室でも神官が入れ替わっていた。


 そのまま治療室を出た神官達は、ぞろぞろとライレウスの像へ行くと一礼し左右に分かれ消えていった。


(あそこが入り口か!?)


 神官全員が居なくなって暫くたったあと、そっと晶は立ち上がると足音も立てずライレウスの像へ近づき信者の動きを真似て出来るだけ同じ動きをした後、平然と右側の神官達が消えた場所へ向かうとそこに入り口があった。


 晶が平然と入っていけたのは、人間以外とそういった動きには気に留めないことが多いのだ、逆に左右を見回したり、こそこそと背を屈めて移動したりするなど挙動不審な動きは結構めだつものである。


 入り口を潜ると直ぐに左へ曲がる、石造りの廊下を少し歩くとその先には、晶が侵入しようとした窓が並ぶ廊下が長々と続いていた。


(やばいな、殆ど隠れる場所が無い、扉も開けたら神官が居た、なんて事になりそうだ)


 晶の視線の先には長い廊下があるが、右側には窓があり反対側には扉と円柱が少し廊下に出ているだけの簡素なつくりの廊下であった。


緊張でつばを飲み込む晶は、誰が歩いてきても分かるよう耳を澄まし、足をも立てず足早に歩き出す。


(今の所誰も歩いていないな……患者が多かったから治療の魔術再度使えるよう休憩を図っているのか? はたまた別の理由からか……推測の域から出ないな)


 暫く無人の廊下を歩いていると左へ続く廊下があった、壁に張り付き人が居ないか廊下を覗く、そこは廊下が続き反対側迄続いていた、よく見ると左側の長い壁に扉の無い入り口がたった一つあり、右側の窓から光ら差し込んでいる。


(あの入り口はなんだ? 地下とかに繋がっているのか?)


 晶は入り口を覗き込むが薄暗い空間が広がり、明るさになれた視界では中が良く見えない。


(なにか明かりが欲しいな……そうだ! あの子に頼むか!)


 晶は飛んでいた小さな白い少女をみて小声で呼ぶ、すると白い少女は真っ直ぐ晶に近づき頷いたあと両手をかざし、光の出して室内を照らす。


 そこは倉庫のようであった、色々と書簡や机など見慣れたものもあれば、用途が分からない不思議なものまである、また日光に当てないようにするためか窓は一切無なかった。


(上手くいけば隠れること出来るか? 微妙だな……)


 整理整頓されているため動かすと分かってしまいそうであった、白い少女へのお礼に頭を撫でた晶が倉庫から出ると窓越しに人影をみた、すぐさま壁に張り付き窓を覗く。


(ここ中庭だったのか)


 窓の向こうは四角い芝生があった、そしてその壁に窓がありそこに誰かがいた、目を凝らすと全ての窓の向こうに神官がいたのである。


(全て神官の個室みたいだな……やばかった、廊下の扉開けていたら神官と鉢合わせしていたな)


 安堵のため息をついた晶は、窓から見えないようしゃがみながら移動を開始する。


 全員室内に居るのだろうか、シンと静まり返る廊下を慎重に歩くことしばらく、ようやく目的の扉に辿りついていた。


 最奥にあり見た目は他の扉と何等変わらない、しかし晶が迷い込んだ時に見たのは質素倹約な周囲と一線を欠くけばけばしい人と内装である。


(何か聞こえると良いが……)


 耳を押し付け、目を閉じて意識を集中する。


「おい……ま……くく……」


(くそ、よくわからん)


 わずかにしか聞こえず晶は悪態をつく、より聞こえるようさらに耳を押し付ける。


 それがいけなかったのだろう、扉が軋む音をあげた。


 中から向かってくる足音が聞こえた晶は、直ぐさま駆け出し曲がり角へ身を隠そうとするがいささか遠く、辿り着くより前に背後から扉が開く音がする。


「貴様何者だ!」


 周囲へ報せるゆえか、かなりの大音声での警告とともに追い掛けられ、危機感がつのった。


 目を付けられたため、一度完全に視界から消えなければ影の薄さが利用できない、しかし単純な形の建物と廊下で隠れる場所無く、晶は全力で出口は走る。


(やばい! 神官達がでてきやがった!)


 静かだった廊下に突然怒鳴り声が響いたのだ、室内に居た神官は何事かと顔を覗かせていた。


「そいつを捕まえろ!」


 命令に反応した者が捕まえようと飛び掛かるが、逃げに徹した晶はギリギリ避けながら走り抜ける。


 しかしこのままでは通路を塞がれてしまうため、何とかしようと走りながら頭を捻ると一つ名案が浮かびすぐさま行動を開始する。


 すれ違いざまに足を引っ掛けたり突き飛ばしたりして次々と転倒させると、後ろから迫ってきた神官達は倒れた神官を起こしていた、その間に走り差をつける。


 死に物狂いで走りぬけ目的の倉庫の中にすぐさま入ると同時に、適当に小物を掴んで窓へ投げつけ割る、しかし晶はすぐさま倉庫に戻り入り口の側でしゃがみ込んだ。


 足音を立てながら神官達が来るが割れた窓に近づいている。


「中庭に逃げ込んだか!?」


「探し出せ!」


「全員で取り囲んで逃げ道をふさぐぞ!」


 神官達の言葉を聞いて晶は上手くいったとほくそ笑む、暫くじっとして中庭へ神官達が移動したと思いそっと抜け出そうとするが足音が一つ聞こえすぐさま元へ身を隠す。


 そっと廊下を見るとそこには司祭がいた、迷い込んだ時にマリアを呼んでいた人物であった。


(ええい邪魔だ! 早く中庭にでもいってろ!)


 再び倉庫でしゃがみこみ足音が消えるまで暫く耳を澄ます。


「捕まえたか?」


「いえ、まだ捜索中です、それ程広くないので時間の問題だと思いますが」


「そうか……」


 沈黙が続いたあと再び足音が聞こえ始めた、その音が徐々に倉庫へと近づいてくる。


(気付かれた!? いや見られていないはずだから確認でもしてきたか!?)


 晶はすぐさま倉庫の隅っこでしゃがみ込んでいた小さな黒色の少女を呼び、掌に乗せてある程度の高さまで持ち上げると、黒い霧のようなものを出してもらった。


 倉庫を覗き込んでくると予測し、黒い霧で顔を覆うことによって暗くて見えないと勘違いさせるためである。


「暗いな、明かりが必要だな」


 予測は的中しうまい具合に成功し、司祭は顔を引っ込めた。


(思った以上に上手くいったな、頃合をみてさっさと出るか)


 胸を撫で下ろす晶は暫くジッとする、そして足音も聞こえなくなったのでそっと廊下を覗いた。


「ぐ!」


 突然頭部に痛みが走り視界が暗くなっていった。






 髪を引っ張られ痛みと共に覚醒する、見上げるとそこには晶の髪を侮蔑の表情で掴んでいる司祭がいた。


 そこは先ほどいた薄暗い倉庫ではなく、目が痛いほどの黄金色に染まった部屋であった、前を向くと太った男、窓越しに見たあの醜い男がふてぶてしくふんぞり返りながら晶を見下ろしていた。


「残念だったな」


 髪を掴んでいる司祭が口を開く。


「な、なんで」


 縄で縛られ身動きの取れない晶は僅かな抵抗とばかりに睨みつける。


「何をしたのかは分からないが、暗い部屋としても何も見えないほど暗いはずがなかろう、そこでおびき寄せるため一芝居うったところ鼠が顔を出した、ということだ」


 身を隠すための黒い霧が逆に存在を露呈してしまったのである、自分の浅はかな行動に思わず晶は舌打ちをしてしまう。


「それで? オレをどうするつもりだ?」


 晶の顔面が床にたたきつけられ、再度顔を上げさせられる。


「主様の御前であるぞ、言葉に気をつけろ」


 威圧する司祭は無表情であり、それが一層凶悪さを増していた。


「まあよい、そのような口ぶりも我によってまともになる」


 主と呼ばれた太った男がそう言うと司祭はかしずく、しかし晶の髪を掴み太った男へ顔を向けたままである。


「神官以外も扱ってみたかった所だ、楽しみであるな」


「何をするのか知らないが、オレはお前の下につくつもりは無いぞ」


 僅かに髪を掴む手が動くが、太った男が手を挙げ静止する。


「それを言っていられるのも今のうちであるからな」


 ニタリと太った男が笑うとあるものを掲げる、それは晶も見たことがあり用途もすぐさま分かった。


「喜べ、主様がお前を使ってくださるそうだ、存分に仕事をこなすがよい」


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