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脇役  作者: 柑橘ルイ
13/26

脇役十三

「ここまで人が多いとは思わなかったな」


 王都の門を潜った先にある、おおきな通りの賑わいにジャースは感嘆の声を上げていた。


「王都というぐらいだから一番人が多いと思うが?」


 ジャースの驚きようから、晶は疑問を浮かべる。


「そうだ、全ての道はこの王都に繋がっているからな商人もよく来る、それに伴って警備も強化されているから治安もかなり良い、それゆえに住民も多くなる。結果的に世界で一番人が居る都市だろう」


「なるほどね」


 王城へ向かいながらのユナの説明に晶は納得していた。


「そういえば王にこれまでの事を報告するけど、いきなり行って大丈夫なのか?謁見の間で報告となるとそれなりに準備が必要じゃないのか?」


「いや勇殿は部屋で寛いでくれればいい、報告は私がやるからな、船の件も私がしておこう」


「わかった、しかしずっと部屋に篭りっぱなしというのも健康に悪いな……思い切って大通りの店でも見て回るか」


「それいいな、結局初めて来た時はしっかり見て回っていないからな」


 勇の意見に同意する晶は記念にジャースに何か買ってやろうと画策する


「でもあの入り組んだ道で迷うぞ」


 晶は防衛用に入り組んだ高級住宅街を思い出していた。


「大体道は覚えているから大丈夫だ」


「……さすが勇、としか言えないな……」


 一度しか通っていないのに覚えていることに晶はもはや呆れるほか無かった。







「さて……此処は何処だ?」


 頭をかきながら晶は周囲を見回す、そこは豪邸に囲まれた細い路地であった。


 王都に着いた翌日の朝にユナが部屋へと尋ねにきた、どうやら船を準備するのに少し時間が掛かるため数日待って欲しいとの事、そのため暇つぶしもかねて大通りへと繰り出したのだ。


 ユナは詳細を伝えるために城に残り、メイは図書館へ行き、マリアは教主へ報告しに教会へ向かったため、残った勇とジャース、そして残った勇、晶、ジャースの三人は大通りへ向かったのだった。


 しかし現状は晶ただ一人だけ、しかも複雑に入り組んだ高級住宅街という最悪な場所である。


「やばいな、ちょっと眼を離した間に二人とも居ない……この年で迷子とか……」


 こんなとき影が薄いのが問題になるなと、一人乾いた笑いを浮かべながら角を曲がるが、先には斜めに別れた二股の分かれ道である、かれこれ十数回ほどの分かれ道に晶は大きくため息をつく。


「ええい! 何で似たような場所がいくつもあるんだよ!ってこれも防衛のためだよな」


 頭を抱えるが進まなければ何も変わらない、なんとなく商店があると思う方向に予想を立てて歩き始めた。


「あの隅っこの雑草……壁の染み……完璧に覚えたぜ」


 髪を掻き揚げ宣言する晶だったがそれもそのはず、本日5度目の同じ場所に出てきただけである。


 歩けど歩けど同じ場所、同じ風景にイライラし始める晶だったがあるものが目に入り天啓がひらめいた。


「そうだよ! 土に関することだから土地に関しても詳しいかもしれん!」


 視線の先には手の平サイズの茶色い少女が、白の長袖ワンピースをなびかせて歩いている姿である、つまり茶色いの少女に頼んで道案内させようということである。


「なあ人が一番多い、賑わっている所分かるか? そこに向かって欲しい」


 ジッと見詰め言い聞かせるように頼み込む、同じく見詰め返す茶色い少女は暫く視線を合わしたあとおもむろに歩き出した。


「やはり分かるのか、個人の特定が可能なら捜索も出来るかもしれんな」


 上手くいったことにご満悦の晶は、茶色の少女の後を歩いてく。


「こっちか」


 三股を直進し――


「薄暗いな」


 裏路地を歩き――


「ギリギリ……だな……」


 建物の間を通り抜ける


 段々と奇妙な所へ進んで行く茶色の少女に不安を覚えながら後を着いていたが、ついに立ち止まてしまう。


「……そこ……いくのか? 見つかったら大変だぞ……」


 豪邸の塀を直立で、歩いて登る茶色い少女に、目的地に向かっているのかと危機感をおぼえるが、自信ありげに躊躇無く進んでいく姿を信じて塀を乗り越える。


 しかしそれが間違いと気付くのにさほど時間はかからなかった。


「お前……いや、勝手に理解したと思ってたオレが悪いさ……」


 肩を下げて頭を抱える晶の目前には、芝生の上で大の字になり昼寝を敢行する茶色い少女の姿があった。


「はぁ……とにかく見つかる前に庭からでるか」


 裏庭のような小さな庭だが、そこそこに木が植えてあるため、なんとか隠れているが見つかるのは時間の問題である。


「やば!」


 塀を乗り越えようと手をかけたとき、窓に人影を見つけ直ぐさま元の場所へ退避する、しかし運悪く服に枝を引っかけ音をたててしまった。


 息を殺し様子を伺う、やはり聞こえたのだろう、人影が窓を開け放つ。


「あれ? マリアさん?」


 開けた人物はマリアであったが様子がおかしかったため、声をかけることを躊躇してしまう。


(勇が近くにいるのか? なんだか病んでいるな)


 マリアの雰囲気が、あの底冷えする感じに変化していたのだ。


大概その状態になるのは勇が側にいることが多いのだが、いる様子はなかった。


「どうした? マリア」


マリアは外を探るように見ていたが、声がかかると窓を閉め、歩きだしたた。


「なんだろうな……? 凄く無機質な感じだ……」


 晶は先程のマリアの様子に違和感を覚えていた、いつもの病んでいるのに加え、人形のような印象を受ける。


 廊下を歩くマリアを目で追っていくと、豪華な司祭のような服を着た中年男性と部屋へ入って行く、扉は窓の反対側にあったため中の様子がわずかに見えた。


 悪趣味なまでに金をふんだんに使った椅子に、踏ん反り返りながら座る大男がいた。


 大男と言っても筋肉に覆われたものではなく、醜いまでに脂肪を蓄えた太った男である。


 マリアが部屋に入ると直ぐに扉を閉められたため、どうなるのか分からなくなったが晶の眉間に皺がよっていた。


(少ししか分からなかったが、なんだか無駄に私腹を肥やしているように見えたな、それにマリアさんの様子も何時もよりおかしかったし……)


 マリアの病んでいるのを何とかしたいと考えていた晶は、目撃したことを勇に伝えることにする。


 こういった問題は勇に任せたほうが上手くことが多く、晶は出来る範囲でサポートするだけである、そして終わった頃には助けた人――女性場合だと特に――が勇に惚れる、という事もまた多かった。


 上手く解決すればマリアのヤンデレも治り、勇のハーレムも安泰だとほくそ笑む。


(そのためにも早く勇達と合流しないとな……多分教会かそれに準ずるものみたいだし、入口に人がいそうだ)


 晶の予想は合っており、入口には人の出入りが多かった。


 幸運にも表の道から外へ繋がる城門が見え、それを目指して歩けば大通りにたどり着けそうであった。


 




「やっとここまで着た」


 見覚えある城門に辿り着いた晶は安堵のため息を付く。


 勇とジャースが先に行っていれば城門前の商店が並ぶ場所にいるはずである、いなくなった晶を捜しに城へ行っていたとしても、いつかはここへ来るだろう。


「勇なら目立つから、さがしてみるか、この人だかりだとオレを見つけ難いだろうしな」


 苦笑しながら晶が歩きだす。


「なんだ?」


 暫く歩いていると小さな人だかりがあった、しかし今はそれどころではないと無視しようとするが、目的の人物が人ごみから見え足を止める。


「あいつあんな所でなにしているんだ?……まあ、見つけやすかったけどな」


 喫茶店らしき場所の外にあるテーブルで、注文もせず座っている勇に呆れる晶が近づくと、向かい合うようにジャースも座っていた。


(ジャースさんも居たのか……二人とも様になっているな)


 黙って座っているが二人とも容姿が良いため格好よく決まっている、しかし晶はなぜだか不快な気分なったため、二人の間に強引に割り込むように声を上げる


「二人ともこんな所に居たのか?」


 瞬間周囲から残念そうなため息が漏れた、よくよく見ると遠巻きに見ているのは主に女性であった。


 どうやら二人を絵画の如く眺めていたのだろう、そこへ雰囲気をぶち壊す邪魔な男、晶が割り込んできたために、観賞は終了となった事が残念で仕方が無いようである。


「それはこっちの台詞だ! 何処に行ってたんだ!? お蔭でこいつと歩き回ることになったぞ!」


 目頭を吊り上げてジャースが詰め寄る、どうしたことかと晶は指を差される勇を見るが、分からないのか肩をすくめるだけである。


「まあまあ落ち着けって、何でそんなに不機嫌なんだよ?」


「なんでって……それは……何かが違ったからか?」


 晶に理由を聞かれたが、どうやら本人もいまいち理由が分からないらしく、首を傾げるのだった。


「なんだよ勇、そんなにも面白いか?」


 二人のやり取りを眺めていた勇は顔を手で隠していたが、隠し切れず口角が上がっているのが見えていた。


「くく……いや、なんでもないさ、知らぬは本人達だけか、と思ったぐらいさ」


 笑いを堪えきれないのか、はたまた笑っているのがばれたからか、手を外してニヤつく勇に二人は訝しげに睨む。


「そう睨むなって、二人きりにしてやるからさ」


「はあ!?」


「ちょっとま――」


「というわけで3時間後に又此処でな」


 止めるまもなく勇はさっさと立ち上がり、片手を上げながら颯爽と去っていく。


「どうする?」


「どうするといわれても……ジャースさんは城への道は覚えているか?」


「いや、あれは……」


「だよなー……」


 ジャースの返答に肩を落とす晶だったが直ぐに気を持ち直し手を差し出す。


「なんだよ……?」


「せっかくだから色々見て回ろうか?」


 晶の提案に逡巡したがすぐに手を取った。


「それもそうだな」


 先ほどの不機嫌さは無く、何処と無く嬉しそうなジャースであった。






「さてと、何処行こうか?」


 歩き出した二人であったが、何処に何があるのか把握できていないため、直ぐに足を止めてしまっていた。


「何処か……とりあえずナイフを見ておきたいな、王都で売っているものなんだ、結構いいものがありそうだ」


「今持ってる奴は売るのか?」


「これは売らないさ、昔から使っていて手になじんでいるからな、やたら頑丈だから研げばまだまだ使える、あくまで予備として持つだけだ」


 ジャースは後ろの腰に差してあるダマスカスナイフを抜く、波打った模様が浮き出る刀身は光を反射し、鋭利さはいまだ衰えている様子は全く無い。


「なるほどね、っとあそこがそれっぽいな」


 晶が指差す先に剣の形が彫られた看板があった。


「いらっしゃい」


 店内に入ると痩せた細身の男がカウンターに居た、晶は筋骨隆々の大男が居るかと思っていたが、ひょろっとした男で思わず凝視してしまう。


「お客さん? なにか?」


「いや、此処の武器は貴方が作っているか?」


 武器の販売は作った本人がやるものだと思い、晶はつい聞いてしまう。


「いいえ、これらは奥で親方が作ってます」


 聞かれることが多いのか、気分を害した様子も無くにこやかに対応する店員である。


「私は見習いでまだ打たせてもらえませんから、精々練習にこんな装飾品を作る程度です」


 店員が指し示す方には金属製の首飾りや指輪、耳飾りなどもある、それらはかなり精密に作られていた。


「へえ、結構細かい所まで作られているな」


「ありがとうございます、お恥ずかしながら見習いが長いですから、無駄にこういったことばかり上手くなりまして」


 頭をかく店員にジャースから声がかかる。


「一本もって良いか?」


「良いですよ、何でしたらその丸太で試し切りも可能です」


 ジャースは一本のナイフを持つと立ててある丸太へ向かう、その姿を見ていた晶は目つきを鋭くし、店員に耳打ちする。


「店員さん、その装飾品を一つ売ってくれないか?」


 実はジャースに何か贈ろうと前々から画策していたのだ、男らしいジャースは化粧も女性らしい服装もしない、真っ先に目指したのは武器屋であるほどだ。


 そこで晶はなにか装飾品を付けさせようと考えていた、突っ返される可能性が高いが返せない状況、つまり突然にかつ無理やり握らせて自分は受け取らないとするのだ。


「ええ良いですよ」


 店員も空気を読んだのか声を潜めて対応する


(さて、何にするか……首飾りは既に黒い牙が首に掛かってるし、腕輪か? でも結構大きめだからな、光って隠密中にばれる原因になりそうだ、じゃあ耳飾か? ……咄嗟に外せそうに無い……あとは……)


「この指輪で頼む、いくらだ?」


 晶が選んだのは表面に鱗の文様が掘られただけの単純ながら細かな指輪であった。


「いえ、今回は無料としますよ」


「いいのか?」


「はい、実は買ってもらえるは今回が初めてなのですよ、此処に来る客はこういったものに興味が無いというのもありますが、それでも初めて買ってもらえて嬉しいですから」


 余程嬉しいのか、店員は若干涙目になりながら丁寧に晶へ手渡す。


「このナイフをもらおうか」


 丁度ジャースも決まったのか店員元へ来る、その手には何の変哲も無い普通のナイフがった。


「はい、ありがとうございます」






 店から出たところで晶は握りこぶしをジャースへ突き出した、当然ジャースは疑問に思うだけである。


「手、出せ……」


 今になって指輪を渡すという行為が非常に恥ずかしくなった晶は、そっぽを向きながら片言に話す。


 首を傾げながらジャースが手を出した瞬間に、強引に手首を掴みその勢いのまま指輪を握りこませた。


「……これ」


 虚を突かれた感じのジャースは未だ理解できていないようである。


「やる」


「はあ!? ちょ、ちょっとまて、こんなのいらん!」


 ジャースは素早く晶の腕を掴み返そうとするが、晶は頑として手を開かなかった。


「こんな物オレに合う筈無いだろ!」


「だったら捨てるなり売るなりすれば良いだろ!」


「この!」


「ぐぬぬ!」


 睨み合い互いに力を込める、しかし晶の無駄な根性に参ったのかジャースが諦める。


「はあ、わかったよ、つければいいんだろ! つければ!」


 グチグチと文句を言いつつも指輪を大事そうに扱い指に嵌め、手をかざしていた。


「な、なんだよ……もう返せといっても無駄だからな!」


 ジャースは顔を赤らめて吼えるが、嬉しい晶には全く効果が無かったのだった。


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