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脇役  作者: 柑橘ルイ
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脇役十二

「ふー、今回は本当に危なかったな」


「先ほどの感覚は勇者様の効果みたいですね」


 武装を解除した勇は汗をぬぐい、マリアは自分の身体を見回しているその二人の会話の中に、晶にとって聞き捨てなら無い言葉があった。


「感覚と効果とは何だ!?」


「どわ! 何なんだ突然!?」


 晶は詰めより、勇の襟元を掴んで思い切り前後に振り出した。


「さっきから感じていただるさあったが、勇の武装解除と同時に消えた! 関係あるんじゃないのか!?」


 早く話せとばかりに晶は益々勢いをつける。


 実は勇の装備にかけられた最初の封印が解かれたと同時に晶に倦怠感が襲い掛かったのだ。


「勇が武装するたびにだるく感じるなんて嫌だぞ!」


「と、止め、はな、話せ、ない」


 ガクガクと勇を振っていた晶だったが、突如後頭部を掴まれた感触と共に悪寒が走り動きを止める。


「なにをしているのですか?」


「マリアさん、頭部が割れるように痛いのですが……」


「でしょうね、痛くしていますから」


 殺意を伴ったマリアの言葉が晶の背後から聞こえ、それと共に掴まれた後頭部が激痛と猛烈な力で締め付ける感覚と共に、嫌な音を聞いて生命の危機に瀕しているのを晶は感じているのだ。


「で? 何を?」


「突然の倦怠感は勇が原因かと追求を……」


「勇者様に害を成したのは?」


「勢いあまって……」


 頭部が終末を迎えそうな音を奏で、晶の脳裏に走馬灯が映り始める。


「やめとけよ」


 しかし叩く音と同時に痛みから解放された晶が振り返るとそこにはジャースが居た。


 マリアを睨む瞳は通常よりも何割か鋭くなっている。


「盗賊風情が邪魔をしますか」


「自身の仲間に対して、安易に怪我を負わせる奴がなにを言うか」


 二人の強烈な圧迫感を撒きちらしながらの睨み合いに、晶は耐え切れないと即刻でその場を離れていく、そこには勇も青い顔をしながら避難していた。


「勇……おまえもか……」


「流石にあの傍には居られないな」


 晶と勇は息を整えながら流れ出た冷や汗を拭うのだった。


「さて、さっきの話だが、効果ってどんなのだ?」


 一息ついて落ち着いた晶は再び勇へ問いだたしていた、流石に先ほどと同じ目に合いたくないので揺さぶったりはしていない。


「勇殿が宝玉を使用したと同時に、力がわいて怪我も体力も回復したな」


「でも……勇が解除したら……怪我も疲労ももどった……でも……一時的なものみたい……」


 声がした方へ晶が振り向くと、いつの間にか傍に居たユナとメイが身体を見回していた。


「そうなのか? オレは物凄い脱力感だったが……」


「もう一度やってみるか?」


 無意味にだるくなるが御免こうむりたい晶だったが止める間も無く、勇は口にすると同時に再び武装する。


「……」


 倦怠感に襲われた晶が無言で勇達を睨みつける、しかしそこには全員眉間にしわを寄せて目を凝らしていた。


「どうした?」


 晶が声を出すと同時に勇達が肩を跳ね上げ目を瞬かせる。


「その脱力は正解みたいだな」


「そのようだな、目の前に居るが一瞬分からなくなったな」


 勇の説明を繋げるようにユナが口にする、声から感心しているのが分かった。


「でもこの倦怠感は正直味わいたくないぞ」


 戦闘の度に、正確には勇が宝玉を使う度に味わうかと思うとあまり嬉しくは無い晶であった。






「さて、次の封印は……凍てつく吐息に晒されし山の恵み、深く沈み、青き世にて目覚めを待つ、だっけ?」


「ええっと、そうですね」


 確認を取るためかはたまた勇の言葉だったからか、ジャースとの睨み合いを唐突に放棄したマリアは書物をめくり探し出す。


「凍てつく、だからなあ、寒い地域か? まあ、とりあえずそのあたりは宿屋に戻って話そう、流石に疲れた」


「そうだな、疲労困憊では良い案も浮かばないだろう、一旦宿へと戻ろう」


 背筋を伸ばす勇の意見に同意するユナの言葉にメイ達も同じく疲れているのだろう、頷き返していた。


「じゃあ、オレは此処までだな」


 片手をあげ、役目が終わったと背を向けるジャース、その胸元には取り返した黒い牙が胸元で光っている。


「ええ!? ちょ、ちょっと待て!」


 共に旅をするとばかり思っていたのだろう、驚きの声を上げる晶が引き止めるようにジャースの肩を掴んでいた。


「なんだ?」


 振り払ってしまえたが、なんとなく出来なかったジャースは首だけ振り返り晶に問かける。


「一緒に来てくれないのか?」


 晶はジッとジャースと視線を合わせてきた、その瞳にはどこと無く寂しさが浮かんでいた。


「なんでオレがお前と一緒に居ないといけないんだ?」


「それは……その……」


 ジャースの言い分に晶は理由が思い浮かばないのだろう、言葉を詰まらせるだけであった。


「それともなにか? オレに傍に居て欲しいのか?」


 子供みたいなことを言うのかとからかい口調だったが、ジャースは晶の目を穴が開きそうなぐらいにみつめかえす。


「そ……だよ」


「うん? なんだって?」


 晶がなにごとか呻くが、しっかり聞こえなかったジャースは耳を寄せる。


「そうだよ! 一緒に来て欲しいさ! 短い間だったけど様々なこと教えてくれたり、傍に居て守ってくれたり、色々気に掛けてくれたりしてくれたからな! それに健康的な褐色肌や細く引き締まった野性的な身体、逃してたまるかってんだ!」


 晶は恥も外見も捨てるような勢いで一気にまくし立てた、恥ずかしいことを言っていると自覚があるか晶の顔はとても赤い。


「お、お前! 自分で何を言っているのか理解できているのか!?」


 思い切った晶の言葉に度肝を抜かれたジャースは仰け反る、そして自身の顔が熱くなっていくのが分かった。


「理解しているさ、一緒に来てくれるか?」


 恥を捨てた晶は腕を捕まえ、逃げられないようにして真剣な目つきでジャースと視線を合わせる。


「……分かったよ、一緒に行ってやるよ」


 ぶっきらぼうに言い返すが晶の嘘偽りの無い態度にジャースは嬉しく思っていた、そして唐突に触られていることに恥ずかしさを感じ、腕を振り解きながら了承する。


 ジャースも短い間だったが一緒に砂漠を歩いているとき、その白い肌や弱い様子から放って置けずついつい構ってしまうのだった。


 時に晶が冷静に判断、行動に移すのを見て安心したりもする、なによりひ弱な晶は自分が傍に居ないといけないそして傍に居たいという気持ちが有ったのである。


 そんな時に晶の言葉を聞いて嬉しく感じ、自分もまたいつのまにか離れがたいと思っていることに気が付いた。


「本当か!? ありがとう!」


 晶は笑顔になり、素早く握手をして上下に激しく振り始めた、物凄く嬉しいそう何が良く分かる、その様子を見てジャースの表情は穏やかに微笑むのだった。


「あ、でも黒い牙のことはいいのか?」


 振る手を止めて晶が眉を顰めるが、ジャースは気にするなと首を振る。


「別にいいさ、オレが、正確には女性ということなんだろうが、頭なのが不満みたいだったからな、言葉にしなくても態度や雰囲気で大体分かる。丁度いい機会だから抜けるさ、もともと先代の頭だった親父の指名で頭やっていたが、いつかは反抗してきただろう、親父を慕っていても拾われたオレを慕うとは限らないさ」


「でもタウロを怨んでいたみたいだったけど?」


「ああ、アイツが頭の証を、親父の形見を持っていったからな、これだけは誰にも渡すつもりは無い」


 ジャース首から提げている一本の黒色の牙を見詰める、優しかった父親との楽しかった思い出が浮かび上がっていた。


「そうか、わかった、とりあえずいっしょに行けるよう、勇達を説得しに――」


 振り返った晶は言葉が途中で切れ、なにごとかとジャースは視線を追うと先にはニヤつく勇の姿があったのである。


 マリアは興味なさげだったがユナとメイも興味があるのだろう、眼を輝かせて晶達を凝視していた。


「お前の気持ちは良くわかった、頑張れよ! いやー晶に女の話が出るとは思わなかったな、全然聞いたこと無いから心配だったんだ」


 勢いよく晶の肩を叩く勇は、非常に嬉しそうである。


「ちょっとまて! 確かに一緒にいたいと思っているが、好きとか多分そんなのではなくてな――」


「よし、戻るか!」


 晶が弁解をしているが、それをニヤつきながら無視する勇は妙な興奮状態で先陣をきって歩き出すだけである。


「勇者、一言いいたいことがある」


 晶が説明を諦めたときジャースは勇の隣に忍び寄る、その顔には仲間やそういった類の心を許した感じは無く険が混じっていた。


「なんだ?」


「オレが行動を共にするのはお前達のためじゃない、勘違いするんじゃねえぞ」


 つまり勇に従うつもりは無いということなのだ、未だ仲間だと思えない勇者達へ言い放つジャースの視線は鋭い。


「何を言っているのです?」


 ジャースの言葉と態度が気に食わないのかマリアが食って掛かっていた。


 瞬間二人の間に再び一触即発の雰囲気がながれる始めるが、今度は直ぐさまは勇が間に身体を割り込ませ強引に払拭していた。


「ああ、分かった、俺としても晶を守ることに専念してくれると嬉しいからな」


 ジャースの冗談ではない様子に勇も真面目に返答し、再び歩き始めるのだった。





「さてと……これからどうするかだが……」


 町に戻った晶達は一晩休んだあと、来た時と同じく近くの食堂に集まっていた。


「祭壇で少し言っていたように、とりあえず寒い場所、北へ行こうと思う」


「そうだな、情報を得るためまずは最北の町グリンに行くのがよいだろう」

 

 勇に同意するようにユナも頷いている。


「砂漠から極寒の地か……王都から此処までも結構掛かったけど、今度はもっと掛かりそうだな」


 先は長そうだと思いをはせる晶はため息をついていた。


「確かに時間はかかるが、途中から海路になればそれほどではないな」


「王都を挟んでほぼ反対にある……グリンに港が有るから……王都からは船で行くのが一番早い」


「なら一度王都へ行ってそこから船に乗ってグリンへむかう、ということになるかな」


 ユナとメイの説明から勇はおおよその検討を付けているようであった。


「勇者様が言われた道順でいいと思います、それにこれまでの経緯を教会に報告もしないといけませんから」


「うむ、王にも報告をしないとな、その時優先的に船を貸りられるように進言しておこう」


 任せておけとユナは胸を張っている。


「わざわざ貸してもらうのか? 普通に定期運行している船に乗った方がいい気がするが」


「確かに定期運行している船はある、しかしその場合だと他の港へ立ち寄りながら行くことになる、それでも海路が早いがグリンへ直接向かった方がもっと早い」


 他の港へ立ち寄らず直接向かうにはそれなりに自由に出来る船が必要なのであり、そのため一隻船を借りたほうが都合が良いのである。

 

「王都か……」


 腕を組んでジャースがボソリと呟くを聞いた晶は何かあるのかと眉を寄せる。


「どうした?」


「いや、生まれてこのかた砂漠周辺から出たこと無いからな、一体どんな所かと思ってな」


「この町に比べたら、人、物、建物、土地、色んなものが多いな、よく言えば活発な町、悪く言えばゴチャついているな」


 王都の情景を思い出しながら説明する晶だったが、比較となる町が此処しかなく上手く伝えられない。


「想像もつかないな」


 王都を想像しようとしているのか眉間に皺を寄せるジャースであった。





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