月に添う花
9月、夜は涼しい。
私は、相変わらず定職は見つからず。
深夜のコンビニでアルバイトをしていた。
コンビニのアルバイトは。
私が予想するよりも、覚える事が多く。
毎日四苦八苦だった。
もともと接客の仕事は苦手だった。
「そうも言ってられないし・・・」
思って、ポロリと独り言。
今日は、朝ではなく、深夜上がりだった、翌朝から用事があったからだ。
夜道
この前の、ビデオ屋の女の事。
まだ、引きずっている。
夜道
思い出す、やっぱり怖い。
少し早足で歩く。
ビデオ屋はここから遠い、今は忘れておこう。
深夜の街、アーケードを抜けて、少し外れにさしかかった。
空を見上げると、雲はなく、月夜。
金色に光る月から、優しく光が届いて、夜道を優しく照らす。
鈴虫の鳴き声が、遠くから聞こえてくる。
もうすぐ十五夜だなぁ。
風情があるな、と思った。
「ゆっくり夜空を見上げる機会は、意識しないとあんまりないな。」
またポロリ、独り言。
ゆっくり歩こう。
上を向いて歩こう。
なんて、のんびりした気分になっていた。
視線を下ろす。
踏切だ。
いつも通る踏切。
深夜だから、電車も来ない。
踏み切りの、真ん中辺りを通過した。
もうすぐ、渡り終える。
また空を見上げる。
急に、足首を捕まれたような感覚があった。
「歩く」
というしくみは、何気ないように思えて。
と言うより、人間が動くしくみというのは、全てがとても複雑で。
特に意識していない場合、少しでもテンポを乱されればこうなる・・・
とっさに急回転した頭は考えて、そして。
「どしゃ」
思いっきり転んだ。
遮断機のバーが下りていたら、多分へし折っていたと思う。
とにかく顔が痛い。
手もつかず顔からいったのだ。
「痛たぁ・・・」
またポロリ、今度は涙も出た。
電車は来ない、そんなことあってたまるか。
何より情けない、惨め。
鈴虫の鳴き声だけ、遠くから聞こえる。
なんだか急に力が抜けて、起き上がらないまま、目線を横に向けた。
線路脇に、花が添えてあった。
供えてあった。
月明かりに照らされていた。