団地の話
夏の終わり頃。
友人からいい知らせがあった。
私は昔から写真が趣味なので、かねてから撮影スポットというか。
「写真撮るのにいい所ないかな?」
なんて話をしていたので、友人から、
「すごく雰囲気のいい所があるよ。」
との知らせを貰ったのだった。
そんなに遠くは無く、友人はドライブの途中でそこを見つけたのだという。
団地だった、正確には社宅だったらしい、古くなったので取り壊しが決まったようだ。
住宅地から少し入った所、林に囲まれて、4階建ての団地が6棟ほどあった。
夕方に行くことにした。
夕方のほうが、雰囲気があるからだ。
調子のいい友人なので、写真を撮るのに一緒に来てくれた。
ちょっとした写真家気取り、友人はモデル気取りといった具合で。
おかしなポーズをとって笑いを誘った。
最近は
「廃墟萌え」
なんて言葉もあるくらいで、確かに古びた建物には魅力があると、私も思う。
ちょっと怖い気持ちもあったが。
似たような事を考える人は他にもいたようで。
同じ様に写真を撮りに来た人がいる様子だった、なんというか人の気配がある、車は他にも数台停まっていた。
夕焼けとマッチしてとてもいい写真が撮れた。
写真もあらかた撮り終えて、そろそろ帰ろうかと言う話になった。
団地は6棟あり、左右に三棟づつ。
私と友人は真ん中を区切っている部分にいた。
立ち位置から見て敷地の奥側にある棟、
入り口は、ほとんど全て、板のようなもので塞がれていたが、奥の一棟、一箇所、塞がれていない入り口があった。
ちょっと気になって目を向けていると、ひょっこり現れた中年の男性が、普通に団地の中に入っていく。
「ここまだ住んでる人いるじゃん・・」
「迷惑じゃないかな・・」
友人に告げると。
「えっ」
といった返事と半笑いの顔。
なんというか、一瞬でノスタルジーもへったくれも無くなったような気がして。
ただただ恥ずかしいような、申し訳ないような。
そんな気分になった。
停まっている車も全て、住民の物のように思えた。
そんなわけで、ひっそりとその団地を跡にした。
友人は帰り道
「死にたくなる団地」
などど不謹慎な冗談をかましていた。
私はこの場所を教えてくれた友人に感謝して。
「ばか」
と返した。
家に帰って数日後、先日撮った写真を見てみようと思ったとき。
カメラのレンズフードが無くなっていることに気づいた。
あそこで落としたのかも。
私は思った。
プラスチックのレンズフードでも、単品で買うとなると値段は結構するもので。
かねてから貧乏無職の私は、しぶしぶ取りに行くことにした。
怖いというより、民家の敷地に勝手に入るような申し訳ない感じ。
後ろめたい・・
一人でささっと取りに行って、無かったらすぐ帰ってこようと思った。
団地に着いた、また夕方。
平日だからか、とても静かに感じる。
自分はレンズフードを探して、先日友人と散策した場所を回った。
団地は6棟あり、左右に三棟づつ。
私はまた、真ん中を区切っている部分にいた。
レンズフードはそこにあった、カメラに取り付けてみる。
「やっぱり自分のだ。」
ちょっとニヤニヤしていた。
蝉なの蜩なのか、林から鳴き声が響いて。
涼しい風が背中から前方へ抜ける。
時刻は夕方。
古びた団地だけど、人の気配があり、怖くは感じない。
「こういうところは文化財にでもして、保存したらいいのに。」
なんて一人事をつぶやいたりした。
こないだ人が入っていった入り口の所。
なんとなく目を向けていると、またひょっこり現れた中年の男性が、また普通に団地の中に入っていく。
やっぱり住民だなと思った.
カメラを持って来ているし。
ちょっと時間もあったので、あと少し写真を撮ろうとファインダーを覗いた。
夕焼けの空を一枚
夕焼けをバックに団地を一枚
団地の屋上に人がいる
さっきの中年の男
倒れるようにそのまま落ちた
音はしなかった
あわててカメラを下げると、人影はどこにもない。
だれもいない。
さっきと同じ、でも音が無い。
怖い
急に襲ってくる感覚
急いで車に戻る、なぜだか日が沈んだらもう終わりのような気がして、車まで走る。
途中停まっている他の車が目に留まった、よく見れば内装はボロボロ、廃車のような感じだった。
急いで車に乗り込んで、震えながら帰った。
写真も全部消して、なにもかも忘れることにした。
しばらくの間、あの時の中年の事が気がかりで新聞を見たりしたが、何もなし、何の噂も聞かない。
あの場所で何があったのかも私は知らない。
この事は友人には話していない。