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流れ神 1

ちょこちょこ覗いて下さる方がいるみたいで、嬉しいです。


また話が長くなりそうです・・・


心霊オムニバスみたいなのを書きたかった初志はどこへ・・

 秋、昼番のアルバイトからの帰り道。


私は駅前のアーケードを通り抜けて、頼まれたお土産をスーパーで購入した後、夜になるともう、めっきり冷える帰り道を急いだ。


頼まれ事の主は、猫じい。


結局、家に居ついてしまった猫じいは、家族には飼い猫として可愛がられ。


なぜか猫じいと会話のできる私は、なんだかんだでお願いを断れず、なけなしのお金で、こうしてお団子を買って帰る。


とりあえず利子さんの言うことを信じた自分は、深く考えずに、同居人、いや同居猫との生活を半年ばかり楽しんだ。


猫じいは、年寄りだ。


夏の間、ことに付けて昔話をしてくれた。


昔あの場所には、あんな建物があった、昔あそこに住んでいた誰々は、とても気前が良かった等等。


私が良く行く公園のことも、そのいわくも、知っている様子だった。



 それにしても、仕事を辞めてから一年以上経つ、結局アルバイト暮らしになってしまったけれど、そろそろ見切りをつけないとなぁ。


なんて考える、最近音沙汰のない友人も、バイト先で、晴れて社員として迎えられた。


最近では家にお邪魔するする度、飾ってあるフィギュアの数が増えている。


利子さんもなんだかんだで、本業の景気は良さそうだ。


「今度、就職の事について、占ってもらおうかな・・・」


ポツンと、独り言



「お兄さん、そこのお兄さん。」





見ると、アーケードに作られた小さなブースに、運命判断という看板、一瞬、利子さんかと思ったが、声が違う。


手招きしている声の主は、いくらか年上に見えるけれども、なんとも妖艶な雰囲気のする女性だった。



「よかったら、無料で占い致します。」


まるで考えを読まれているようなタイミング、利子さんのお陰で、占い師という、ある種の胡散臭さへの猜疑心が無くなっていた自分は。


「え、いいんですか?」


と、立ち止まり、勢い良く返答した。


「この辺りでは、あまりやらないんだけど、それに今日はお客さんも少ないから。」


「もし当たってたら・・・、宣伝してくれると、嬉しいな。」


利子さんが、お姉さんとしたら、この人はお姉さま、だろうか、なんとも妖艶な魅力を漂わせるその声に。


無意識に、こくんと頷いた。



それらしき紫のクロスの敷かれた、小さなテーブル。


テーブルを挟んで、彼女と対面に置かれた小さな椅子に、吸い込まれるように、座る。


テーブルの上には、形はいびつだけれど様々な色をしている石が、曼荼羅のような文様のある盤の上に散らばっていた。





彼女が盤の上に手を翳した瞬間、石がぼうっと光りだしたのだ。


「え?、これすごいですね・・・ どんなしくみなんですか??」


とっさに聞いてしまう、今まで、おかしな物は割と沢山見てきたけれど、悲しいかな・・・


こういった、ファンタスティックな現象には遭遇したことが無い、


利子さんの実験とやらも、ビジュアル的にはお香から煙が昇るとかその程度だし。


逆に派手すぎるこれは、石の中にLEDでも仕込んでるんじゃないかと邪推してしまう。


「仕掛けじゃないのよ、これは、魔法。」


「占いのお客さんなんだから、素直に信じてちょうだいね。」



「はい・・・」


また無意識に返事をしていた。


優しい口調で言葉が返ってくる、なんとも、魔法という、胡散臭い言葉に対しても、これ以上の事を邪推する気が失せるような、魅力的な声色。

見ると石の光方の強弱、光る順番は規則的なように見える、それに光り方は、機械的な感じではなく、なんとも、石の内側で星が煌いているような、摩訶不思議な輝きだ。


「この石はね、私が魔法を使って力を込めてあるのよ。」


「そこに、お客さん、貴方ね、その人の人生、これからの命運を投影する。」



「・・・・・」


規則的に光り煌く石の輝きに、見入ってしまう・・・。



「随分苦労されているのね・・・、今まで。」


「特に、他人には伝えにくいような、お化けとか、そちら側の凶相が強いのね。」


「最近は、悪い思いをする事が、少し減ってはいるようだけど。」


「なるほどね・・・。」


「協力者を装う人間には、注意した方がいいわ。」



??



利子さんの事だろうか?


この人も、人の縁のようなものが見えるのだろうか?


てことは、やっぱりこの人は本物の、そういった方なのか?



「ちょっと、目先に悪い事があるかもしれないわ・・・」


「かなり危ない事かもしれないから、気をつけなさい。」



「えっ!?」



考え事をした頭は、今の言葉に引き戻される。


その後すぐに、過去の経験がまた頭をグルグルまわり始める、あぁ・・・



「一体、何があるんでしょう・・・?」



「それは・・・、そこまでは分からないの、ごめんなさい。」



彼女は表情を曇らせて、その後、はっと気がつくようにこちらを見つめる。



「でも、この後宗教に勧誘するとか、そんな事はしないから、私はそういう類ではないから、安心してね。」


「は、はぁ・・」


心が晴れない、いやな経験がまだ頭の中をグルグルしている。



「そうだわ、お守りをあげるわね。」


「お守り?」



盤の上の石とは別に、彼女は小さな鞄から、大き目の真珠ほどの大きさ、形の、黒く輝く石を取り出した。



「多分、暫くは常に持っていた方がいいと思う、少なくとも、この一ヶ月くらいかしら。」


「お金は取らないから、安心して頂戴。」



「いいんですか?、こんなもの頂いて?」



「ええ、でも必要が無くなったら、返してくれると嬉しいな、大切な物だから・・」



盤上の、星のように輝く石とは別質の、黒く吸い込まれる様に輝く石。


私はその石と忠告を受け取って、宣伝よろしくね、と笑顔で見送る彼女に、お礼を言いながらアーケードを後にした。




帰り道、確かに、いつもの夜道なのに、すこし嫌な感じがする。


おかしなことに遭遇する時に感じる、時間が引っ張られているような、いやな雰囲気・・・。


さっきの占い師が言ってた事は、利子さんの事だろうか?


でも、なにか悪い事をする人だとも思えないし、まさか猫じいの事だろうか?


でも多分あれは人間じゃないし(笑)





自転車を漕ぐ、漕ぐ・・・






特におかしな事もなく、帰宅した。


部屋に入り、上着を掛ける、団子を頼んだおかしな猫さんはどこかな?


部屋を見回す。



「・・・おい」



声がする、あまり聞かない声色の声。





びっくりして振り返ると。


なんだ猫じいか...


「じい、団子買ってきたよ。」



「おい!」



猫じいの声色がいつもと違う、今までにないくらい、機嫌が悪そう、いや、鬼気迫ると言った感じがした、なにか悪い事でもしただろうか?



「そ、その石・・・、どこで拾ってきたんじゃ?」


「こ、これ?」



見えてもいない石の事を、話す猫じいに驚きつつ、ポケットからさっきの石を取り出す。



「も、貰ったんだよ...占い師の人に。」


「それは・・、いつものおてんばの子じゃないだろう!?」


「え?」


「今すぐすてろ!!」


「え!?」






「すてろ!!!」



その刹那、光速のごとき早さで飛びかかってきた猫じいが、私の右手に引っかき傷を作り、同時に持っていた石を弾きとばした。


一緒に持っていたスーパーの袋も、ばしゃん! と床に勢い良く落ちた。


お団子は、この猫に頼まれたものなのに!


咄嗟に石を拾おうとする私に猫が怒鳴りつける。



「ひろうな!」


「さわるな!!!」



むすっとして、そのまま石を拾おうとする自分を見て猫爺がまた飛び掛ってくる。


「ダメなんだっ!!」


「こらっ!!この猫!!!」



バタバタと猫と格闘する自分は、傍目にはとても愚かに写るだろうか、そう思った瞬間、猫じいは咥ていた石をそのまま飲み込んでしまった。



「・・・」


「・・・」




二人? の間に気まずい沈黙が流れる。


あんな石飲じゃってるけど大丈夫かな・・、いやいやなんで飲むんだ、そこまでしなくても・・・この猫は・・



「すまないにゃあ、これは・・・あぶないんだ・・・特におまえさんが持ってるのはあぶないよ。」


急にしゅんとした猫じいが、さっきと変わって申し訳なさそうに話してくる。






後から思えば、あんな事になったのは、自分のせいなんだ。





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