間話
ある日、僕はいつぞやの、友人のおかしな知り合いの件について、利子さんに尋てみることにした。
あまり思い出したくは無かったけれど、利子さんなら、ひょっとしたら、心当たりがあるかもしれないと思ったからだ。
「えっ・・君も関わってたなんて・・。」
「やっぱり、知ってるんですか?」
「私が直接見聞きした訳じゃないんだけど。」
「科学的な実験なのか、はたまた、何かしらの儀式の結果なのか。」
「このあたりの地域で、神と呼ばれるモノが顕現する、そういった事があったの。」
「理由はわからないけど、この地域で。」
ご当地物の神様・・・なんだそれ・・・
「八百万みたいな感じですか・・・?」
「ううん、そうじゃなくて、もっと宇宙の起源とか、ゆらぎとか、そういうことに直結してるモノらしいの。」
「もともとあるものじゃなくて・・・。」
「物理法則とか、当たり前に存在するものが、形をもって顕在化した、みたいな感じだと思う。」
「スケールでかいですね・・・。」
「私は関係ないよ、一応、一般人枠だからね、これは兄から聞いた話なんだけど。」
「とにかく、この地域で散発的に、そういった現象が起きたの。」
「その時期にこの辺りの、なんていうかな、霊的な地場がめちゃくちゃに荒らされて、その処理の為に、兄の所属している協会の人達が動いて。」
「私はその時に、兄から話を聞いたの。」
「利子さん、お兄さんがいるんですか? 初めて聞きましたよ。」
「うん、兄は養子なの、私は兄が家に来てから、あまり時間を置かないで家出しちゃったから、あまり兄弟って感じはしないけど・・」
「兄は、本来私が継ぐはずだった家督を、私の代わりに継いでいるの。」
「家出しちゃったから?」
「・・・・・そうよ、すいませんねっ!」
顔を赤らめる利子さんを見るのは、これが始めてな気がする。
「でも私女だし!あの家にずっといたとしても、どうなったか分からないし!」
「才能だって・・」
「なんていうかな、私の、もっと凄い版みたいな、プロみたいな人たちはもっと、組織的にあれこれしているんだけど。」
「言っておくけど、これは内緒だからね、私の家は、元々そういった事に関わってきた家系だから、それを取りまとめる組織とも繋がりがあるんだけど。」
「でも、とにかくあの時はすごかったよ、知らないだろうけど、世界中からそういった関係の人たちがこの町に集まってたんだよ。」
「当時の新聞とか、関連した記事だけを集めるとね、凄いよ・・」
「でも結構昔の話だし、その話は結局、ひと段落したはずなんだけどね。」
「君の話だと、それ結構最近だよね?」
「ちょっと時期がズレるんだけどな・・・」
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やっぱり、あれには関わるべきでは無かった、少なくとも一般人である自分は。
あの時逃げ出したのは、正解だったんだ。
自分の中で結論してから、自分で話を振っておきながら、これ以上この話をするのも怖くなってきた。
これ以上、この話に関わるのは良くない。
自分も、あの日湯気を上げていた、赤い水溜りのようになってしまう可能性が、無いわけではないんだ。
利子さんの顔色も、会話の感じとは裏腹に、この話をする前とは、明らかに違うように見えた。
彼女すら、関わりたくないと思う程、異質なもの。
ただ、確かに、自分達が関わったあの件は、結構最近の事だったので、ひょっとしたら・・
そう思えたが、あまり考えないことにした。
あれこれ雑談を終え、利子さんの新しい占いとやらの実験も終わり。
帰り間際だった。
「あ、そうだ、言っておこうと思ってたんだった!」
「??」
「猫のおじいさんは、大切にしなよ。」
「え?」
「今日会った時ちょっと驚いたけど、その繋がりは、大切にした方がいいと思うよ、悪いモノじゃないし。」
「私にも今度会わせてね!」
そういえば、話をしていないのにバレている。
先日から、変な猫が家に住み着いているのだ、いや、やっぱりあれは住み憑いているが正しいのかな・・・。
特におかしな事も起きないので、極力気にしないようにしていた。
どうやら猫じいの姿は、他の人にも、猫として認識されているらしい。
でもなぜか、母も、姉も、猫じいの事を、おじいさん、とか、じいちゃん、と読んで可愛がるのだ。
それに動物が大の苦手の母が、猫じいを可愛がるのが理解できない。
昔、ベランダにやって来た野良猫を、凄い剣幕でホウキを片手に追い払った母がだ。
猫じいめ、上手くやったな。
続