呪い 2
翌日、彼女の姉は亡くなった。
飛び降りた、近くのマンションから、頭から落ちて、遺体は見るに耐えないほどだったらしい。
全て、友人から聞いた。
友人は、いい感じに、顔色が悪く見えた、話しながら涙をぽろぽろ流していた。
当時私は数人のグループでいつも行動していたので、彼女と私達、友人グループで葬儀にも参加した。
私は、罪悪感に震えた・・・。
私に、祓う能力があれば、あの時点で、彼女の姉を救えたかもしれない。
もっと他の、本物の能力者が、偶然にも祓うことだけが専門のプロの能力者があの場所に呼ばれていたなら。
あの場所で、彼女の姉を救えたかもしれない。
もしもあの日、遠方ではあるけれど、義兄に、いや母に電話で相談していれば・・・
私はそれほど正義感のあるタイプではない、それに、彼女と姉の事情はあまりよく分からない。
昨日も、呪いだけを視る事に気を取られて、そこまで探る事は出来ずにいた。
でも、友人には、いや、目の前の人殺しには。
怒りと恐怖心、それと幾許かの嫉妬心に似た複雑な感情を抱かずにはいられなかった。
「祓う」
それは、諫早の家系を継ぐ人間にとって、とても重要で、私に欠けていたもの。
私が継ぐはずだった諫早の、退魔の座は、養子として迎えられた兄が継いだ、
私は元々そんな物には興味がなかったし、これで諫早の家から逃れられると思っていた。
でも。
義兄には、心良い感情は持たなかった、憎いとすら思った、嫉妬だ、私は兄を呪いさえしていたと思う。
無論、それが実行に移される事はなかったけれど。
「呪う」
ということ。
やはり始まりは友人の、何らかの感情だろうか?
呪いにも、何段階かのレベルがある、ちょっとした嫌がらせや、気分を落ち込ませるなんて可愛いものから。
人格を狂わせたり、強いものならば人を殺す。
私の家系は、「祓う」側の家系だ、そんなものがあるのだから、友人は「呪う」側の家系なのか?
私は多分、このまま彼女と友人関係を続けざるを得ないだろう、ニセモノの霊能力者としてだ。
繰り返してしまうが、私が何か解っているそぶりを見せたら、彼女は次のターゲットを私にするつもりかもしれない。
実際、「視える」友人として、あそこに私が呼ばれたのだから、私がもし本物で、呪いの存在に気づいてたと思われれば。
彼女は私に呪いの矛先を向けてくる可能性がある。
でも、そうだとしても、なんでそんなリスクのある事をしたのか?。
私が本物の能力者なら、少なくとも呪っている事自体は私にはバレてしまう。
うろ覚えだけど、呪いの術式は、基本、他の人間に知られる事を禁じている。
でないと効果が薄れるからだ、術式によっては、呪い自体が術者に返る事もある。
あれだけの事が出来る術者が、私の事に気づかないとも思えないし・・・
私は、友人を見つける時、そういった因果を持っていないか、指向性をもって観察していた。
もしそうなら・・・ こんな話を一緒にできる友人がいたら・・・
なんて期待していたからだ。
でも友人は糸も、因果も、いたって普通だった。
あの日まで、まったくそれに気付かないなんて。
・・・おかしい。
色々解せなかった、私はより注意深く、でも気付かれぬよう、友人を観察することにした。