呪い 1
利子視点
私は、職業として、占い師をしている。
もともと、諫早の家系は、代々が霊能者のような事をしていて。
私は長女だったので、小さい頃は、出雲やら青森やらに、一人で修行に出されたりもした。
もっとも、私が跡取りになる事はなかったけれど・・・。
私には実力がなかった、特に祓う方の能力がなかった。
探るのは特異なほど、得意だったけれど、私の家系、もとい、協会の維持構成に必要な人員には当てはまらなかったらしい。
私も、あんな事を代々生業にしている集団は大嫌いだったし。
小さい頃は、もっとアイドルとか、お花屋さんとか、お姫様とかケーキ屋さんとか・・・
・・・・・とにかく。
夜中に、使用前の卒塔婆をマイク代わりにして、アイドルのように読経したことも絶対内緒だ。
・・・・じゃなくて。
私は学生時代、今よりもっと多感だった頃、自分の能力を、私自身のアイデンティティのように周りに吹聴していた事がある。
その時は、占いなんかよりもっぱら、心霊がらみの相談の方が喜ばれた。
私は、視ることや、たぐる、ことについては、家系の中でも、異様に思われるほど長けていたから。
今思えば、あまり踏み込んではいけない所まで、当時は視ていたし、それをそのまま本人に伝えたりもした。
そんな頃。
友人の姉に、一人、心霊現象で悩まされている人がいると聞いた。
新婚の姉だ、私は彼女と、彼女の姉の新居へ招かれ、相談を受けた。
視ればすぐに分かった。
彼女の姉は、殺意を持って呪われている。
結果として、遅かれ早かれ死ぬだろう。
まるで大きな百足のようなモノが、彼女の姉の体にとぐろを巻いているのだ。
百足の足は、彼女の姉の皮膚に無数の穴を空けながら、そしてその顔は、今にも首元に食いかかろうとする形相だった。
私は、自身を、ある種の経験豊富な人間だと自覚していたけれど、こんなモノは今まで見たことない。
百足は、それ自体が因果の糸にように、尾を長くしていた。
無意識にその先を視た私は、あまりにも近しいその因果に驚く。
呪っている本人は、今、一緒にいる妹。
さすがにこの時は、私はすぐ伝えるべきなのか迷った。
友人は多分、私が、もっともらしい嘘でもつくと思ったに違いない。
その時理解したのだ、私は結局ピエロだ、そういった役回りを期待されて、ここへ連れてこられたのだ。
心底腹が立った。
「分からない」
とでも伝えて、帰ってしまおうかと思った。
でも、彼女の姉の衰弱は本当に酷かったし。
人道的な考え、とは剥離している事には気づいていたけれど。
一体、どんな方法で、私の友人は彼女の姉に呪いをかけたのか。
それは、その原理に対する好奇心は、私をこの場に留まらせる理由になった。
あれほどの強い呪いを、周りに、私にさえ気付かせもせず展開する。
もしそんな事が出来れば。
私の友人は、呪術者としても、それを隠す術者としても、私を遥かに上回る。
私は、そんな人間と今まで身近にいたという恐ろしさと、どこか嫉妬めいた感情に支配された。
無論、彼女が呪いの術者だったら、の話なのだけれど。
もしそうだとすれば、私もその標的になる可能性は十分にある。
「お菓子を作るんです・・・、クリームを・・かき混ぜるでしょ?」
「そうすると、ボウルの中のクリームから、人の顔が・・。」
「たぷっ」
「と出てきて。」
「口の部分をパクパクさせながら。」
「死ね、死ね、死ね、死ね。」
「って何度も、言うんです。」
「玄関の呼び鈴、が鳴るでしょ・・・」
「それで、インターホンに出ると、カメラにはだれも写らないんですけど。」
「大音量で、死ね!! 死ね!! 死ねぇ!!!! って・・・。」
「ぁぁぁぁああああァァァァァあああああ!!!!」
「お姉ちゃん!落ち着いて!!」
「きっとこの家のせいだよ!、こんなこと、引っ越してからなんだから!!」
「ねぇ利子!! ・・・どうすればいいの!?」
まるで茶番、でも起きている事態は深刻だ、このままでは友人の姉は確実に死ぬ。
「・・・・難しいけど、探ってみる・・。」
「あと、あんたはあんまりお姉ちゃんと一緒にいちゃダメだからね!」
「お姉ちゃんは、旦那さんに付き添ってもらって・・・。」
そう伝えて、その日は友人宅を後にした。
呪いの原理を私は知りたかったし、なぜあそこまでされるのか分からないけれど。
彼女の姉の事も気がかりだった・・・・。
続