鏡の話
利子とは、あれから何回か会って話す機会があった。
彼女は自分の占いや、スキルアップの為の実験台に、私の事をよく利用して、いや活用していた。
なにやら、おかしな儀式めいた事をしたり、特製の変なドリンクを頂いたりした。
彼女曰く。
「これで・・、君の寿命は延びるッ!」
だそうで、魔よけだかなんだかに効果があったらしい。
確かに、体調や心象は、昨年よりどんどん良くなってる気がする。
まぁ、気楽な暮らしをしていると言う事もあるんだろうけれど。
友人も、あれからすっかり元に戻って、相変わらず元気にやっている。
やっぱりあの時、彼女は何かしらの儀式を行って、その結果、友人は救われたのだ。
占いで生計を立てているという彼女の実力は、やはり本物なんだろうと思う。
アルバイトででも雇ってもらえないかな、なんて思う時もあるのだが、ちょっと情けなくて言えないでいた。
ある日、あの時の鏡の事を尋ねてみた。
友人を助けて貰った時、利子が使った鏡の事だ。
やっぱり、ちょっと儀式的な道具なのだろうか?
「あれはね、親から貰ったの、結構大事なものなんだよ。」
「だから、最後に、貸しだよ! って言ったの。」
「鏡はね、魔術的に、もう1つの世界を作り出せるの。」
「そこに、ちょっと力のある人間が細工を加えると、そういったモノにとっては、まるで極楽浄土に感じるような世界を作り出せるの。」
「無論、擬似的なものなんだけどね、永く留まることは、出来ないと思う。」
「その後に、しかるべき供養をしたりする訳。」
「あの時に彼の傍にいたモノはね、かわいそうなモノだったんだよ。」
「同じ事を繰り返すタイプではないね、ふらふら彷徨うタイプかな・・、どっちかって言うと、ね。」
「元々は多分、人間だったと思う、死因というか、そうなった原因はね、多分、寂しいとか、後ろめたいとか、後悔。」
「君の友達とはね、あの時は波長が合ってたんだよね、でもね、結局、見てわかるでしょ?」
「友達はあんなふうになるし、そういったモノも、決して、慰められる事は無い。」
「あのままほっといたら、多分、最後は友達も・・」
少し聞いた事を後悔した。
「そういうのが、どんどん雪だるま式に大きくなっていくこともあるんだよ。」
「無論、そうなったら、私なんか素人の手には負えないから、協会の人とか、もっとプロの人が処理するんだけどね。」
聞けば聞くほど・・・
実際その光景を見た人間としては、あまり詳しくはなりたくないと思ってしまう。
協会、という言葉にも突っ込まない事にした。
「除霊、ですか?」
「ううん、もっと手荒だよ。」
「本当に有害なものは、もっとこう、魔術的に排除する感じかな。」
「消すの、排除する。」
「慰めるとか、供養するとかじゃなくてね、もっとこう、物質じゃないんだけど。」
「ソレを構成する大元から粉々にする感じ、元々、生きてないけど、殺すの。」
よくわからない・・・
「私もあんまり知らないし、君もあんまり知らなくていいと思うよ。」
「私の家は、そういった事に関わりがある家系なんだけど、でも、私はあまり好きじゃないし。」
「だから、占い師なんてやってるんだけどね。」
少しの沈黙のあと、彼女が思い出した様に続ける。
「あ、そうそう、鏡の話に戻すんだけどね!」
「本当に能力がある人間なら、鏡の中に、本物の別世界を作りだせるんだって。」
「無論、魔術的な話だけどね。」
「あの鏡も、結構、力のある身内が造ったものだけど、そこまではいかないんだ。」
「私ね、占い師をしてるでしょ、たまに、曰くつきの品の鑑定みたいな事もするんだけど。」
「良い意味でも、悪い意味でも、そういったモノが結構あるんだよ。」
「いつかね、お金が貯まったら、そういったものをコレクションしたいの!」
「君も、その1つかな(笑)」
「物ですか・・僕は・・(笑)」
ポロリと呟く。
彼女の最後の一言は、自分を限りなく不安な気持ちにしてくれた。
言わなかったけれど、私も彼女のことを、心の中の、おかしな友人コレクションの中に加える事にした。