電車の少女 2
単線の高原鉄道。
一両編成だからなのか、乗客は数人だけれども。
結構満員に思える。
壮年の女性。
年配の男性。
制服を着た学生が数人、流行の携帯ゲームで遊んでいる。
雰囲気はいいけれど、やっぱり「今風」だな、と思った。
高原鉄道の名前通り、どの駅でも、途中停車して写真を撮りたくなる光景の連続だった。
田んぼの中の無人駅。
キャンプ場近くの無人駅。
午後の日差しが、車内を仄かなオレンジ色に照らす。
電車の揺れは結構激しくて、ちょっとしたアトラクションのようだった。
修学旅行で行った、某遊園地の、ビックサンダーなんとか、あれに近い。
山道の途中で、景観のすばらしい場所を通り。
私は、
「わぁっ」
と背面の窓の景色に釘付けになった。
ガラスに顔を押し付けんばかりの勢いだったが。
平然としている地元民の様子に、恥ずかしくなって、ちょっとしらけて、我に返った。
カメラを出したら、もっと白い目で見られるだろうな、と思い、写真は撮らなかった。
終点はすぐにやってきて、すこし大きいというか、先ほどの電車よりは、本線に近い電車に乗り込んだ。
それでも、ローカル線っぽい路線を選んで、あえて遠回りした。
対面式の、小豆色の長椅子、端っこの席に、手すりに体をもたれさせながら。
足をぽーんと前に投げて、少しだらしなく座る。
複数両編成だったので、客も上手いことばらけて、一車両を独り占めしているような感じだった。
ただ、鈍行で行く列車の旅は、二時間目からは苦痛になる。
写真も結局、乗り換えた駅でしか撮らず。
途中からは景色にも飽きて、うとうとしはじめた。
夏の午後、西からの日差しが下りる車内。
舞っている埃も目にはっきりと映る。
車窓からは。
田んぼ。
道路。
田んぼ。
野焼きの煙。
無人駅。
たまにちょっとした有人駅の繰り返し。
目を瞑る時間が長くなって、時間がどれくらいたったかも良く分からなくなる。
途中で、母と小さい娘の親子連れが乗ってきた。
目を閉じる。
開くとまた駅に停まっている。
さっきの客が下りていく。
目を閉じる。
開くと、女の子だけがまだ、走っている車内に座っている。
その時は特に気にしなかった。
目を閉じる。
開くと、私のすぐ左側、小柄な人の気配がある、多分、さっきの女の子が座っている。
どきっとした。
半分寝ぼけながら。
迷子かな?
と思っていた。
「おとうさん」
「おかあさん」
多分女の子が喋ってる。
「おとうさん」
「おかあさん」
・・・・
少し怖くなって、目は覚めていたけれど。
寝たふりを続けた。
「おとうさん」
「おかあさん」
何度も、同じ声が聞こえる。
「おとうさん」
「おかあさん」
怖いと思いながら、自分はなぜか、昔の事を思い出した。
「おとうさん」
「おかあさん」
田舎に預けられた時の、気持ち。
「おとうさん」
「おかあさん」
最初の日は、ご飯も食べれずに、泣き明かしたこと。
「おとうさん」
「おかあさん」
代わりをしてくれた、祖父と祖母のこと。
胸が痛い、やめてほしい。
「おとうさん」
「おかあさん」
「寂しいの?」
急だったけど、目を開いて、話しかけた。
車両には誰もいなかった。
自分は少し泣いていた、夢だと思った。
後から考えると、答え方としては悪手だったと思う。
それから一時間程、電車はそれなりの大きさの地方駅へ到着。
そこからまた急行に乗り換えて、母の待つ家に帰った。