四話
「岡村チハヤの人生ダイジェスト……。舐めてます?完全に土曜の七時の編集じゃねえか」
「まあ。まあ。黙ってみようか。自分の人生を客観視できるんだよ?いいじゃないか」
そういわれれば納得できないが納得したように思えるかもしれないと思った。
なのできちんと座して眺める。
「まず誕生。一歳。二歳……ここは特に何もないから、早送りしましょうか。面白くないですし」
「おい。俺の純潔でかわいいときだろしっかり見ろ」
そんな忠告も聞かずにリモコンの早送りボタンを押した。
幼少期をすっ飛ばして幼稚園、小学校をも飛ばした。
「はい」
中学後半まで飛ばされた。
「おいこれって……」
「人の悪事をその人の前で見るのは最高ですわ」
中学後半は俺が一番盛っていた時期。大体の罪を重ねてしまったと思っている。そんな時期がこの鏡に映し出されている。
「ほほお~ん。こんなことしているんですかあ。最低ですねえ。わら」
「あああああああ」
叫んだ。最悪だ。恥ずかしくて死んでしまう。もう死んでしまっているが、もう一回死にたい。
そうだ。この、これを壊せば……壊せば……。
ああああああ。あああああ。
ガコッ。
鈍すぎる鈍すぎる音がここに響き渡った。
「痛ったあ。あ、駄目だ。家にタンスはないけど、タンスの角に小指ぶつけたぐらい痛い。死ぬ死ぬう」
「ちなみにここで死んだら、二度と生き返れないから覚悟してくださいね」
「なんだ?脅しか?」
「いやいや。脅しになんてなりませんよ。案外人間って丈夫なんですよ?」
「そうらしいが、この鏡の映像を止めろお」
「はあ。貴方に言われて誰がやめるんですか。面白いからやめませんよ」
「絶対そっちが本音だろ。ぶっ殺すぞ」
「はいはい。騒ぎ立ててください。この空間では私が上なんですからねえ」
くっう。ムカつく。歯ぎしりして、攻撃を加えられないことを悔やむ。
どうにかしてこいつを屈服させたいのだ。紅涙を見たいのだ。
どうにか……。あ。そういえば……。
俺はその天使に近づいてやる。おどけた感じ雰囲気を醸し出し大変ムカつく限りである。しかし、ひとたびこうして手を彼女の一部分に伸ばしてやれば……「あ」と言って顔を紅潮させることが出来る。
ふにゃふにゃ。
多分こんな効果音が正しい。
「うん。あーあ。目分量でわかっていたが……大してないのな」
「あああああああああああああ。わ、私のセイクリッドなお胸を汚らしい下民の分際でなに触ってんだ。ゴらあ」
天使は身を翻した。およそ天使から出るはずもない怒声であったため俺は大きく怯んだ。
「殺す殺す殺す殺す殺す」
目にハイライトが入っていない。
「ちょ、ちょっとマジの目にならないで……。ほんの冗談じゃないか」
「冗談?乙女の純潔を奪っといて」
「天使は乙女なのか?純潔なのか?」
「お前ゼッタイ殺す。覚悟OK?」
「NOお。ゼッタイNO。一生かかってもNO」
ああ。一生は終わってしまったわけだが、一生の危機だ。
ピロピロン。パチンコの音ともスマホの着メロとも取れない変な音が流れた。
どこから、どこから……とキョロキョロする。
鏡の表面が大層にデコレーションされていた。そこには『貴方の次の人生は……』と表示されていてその下に『結果を見たければここをクリックしてください』と怪しいウェブサイトみたいな構成になっているのを目撃した。
こうやって文章に起こすと時間が余っているように見えるが、ホント刹那のタイミングである。
「タンマタンマ。あの鏡の感じ俺の人生が決まった、多分決まったから。ね。停戦、停戦しようか」
俺は手を挙げた。停戦の合図である。
「はあ。お前に制裁を加えてからでしょう?何言ってんですか?殺しますよ?」
まずい。目が本気だ。
どうすることもできない。先の行いを後悔……などしていない。天使を胸を揉むと言う実績を解除したのだ。後悔なんてするものか。
後悔しなくてもいいようにない頭で捻り出さなければ……。
そんな時間はないわけで、とりあえず考えなしで足を踏み出した。まず、あいつと距離を取らないことには何も始まらないのを知っているのだ。
「待て。大人しくしろ」
彼女のこんな無力な言葉を無視して俺は一つ思いついた。
思いついたと言うより当然そうなるべき結果のようだった。俺は『結果を見たければここをクリックしてください』を押そうかと考えた。
そう決めれば早いのだ。俺は天使の妨害をなんやかんやで振り払い。床に滑りこみ鏡の前へとたどり着き思いっきりそこを押した。
「やめろおお。押すな。押したら……」
浄玻璃の鏡はクルクルと読み込み中となった。
『結果を出します。結果は転移です。転移先を演算します……。演算が終わりました。第六億四千十七世界をランダムに選出しました』
そこの天使よりも透き通って純粋で従順そうな声でアナウンスされた。
「第六億何とか世界?」
全くもって想像もできない世界である。
「あーあれね。端的に言うなれば、魔法とか魔物とかあるファンタジー世界ですかね」
面倒くさそうに天使は言った。
「ま、まじで?」
おっと。ここにきてからなんだか気になる単語なのだが。
「魔法って火とか氷とかが生み出せる奴?」
「そーだよ。そーだよ。どうでもいいでしょう。魔力なんて言う非科学的な能力。何でもかんでも魔力というやらで片付けるないでください。ちゃんと研究するのが浪漫でしょう。まあ魔力なんてそんなもんですよ。ただの情弱の知性のない説明ですよ。何度もそんな転移者に説明して来たんだから端折らせてくださいな」
天使はどうでもよさそうに適当に言った。非科学とか研究だとか非科学的な存在の天使が言っているのか。
相当魔力と言うやらの言葉が嫌いらしい。
『転移にあたり、あの世黄泉彼岸委員会条項四〇七条に従いある程度の能力を付与します』
「ふぁあっ。能力⁉」
俺は一番興奮した。魔法?魔法みたいのがもらえるのかと期待をした。
「待て待て、待て」と浄玻璃の鏡を取り上げる。
「そんなことさせてたまるか」
ピッピッ。と画面操作する音が聞こえる。
「やめろよ。何すんだよ」
「黙ってろ」
彼女は結構に焦っている。
『管理者権限を行使します。設定を変更しますか?』
「イイェイス」
「NOおおおお」
よくわからないが、しかし否定しないと駄目と思った。
行動でも示さないと駄目だと思ったので、彼女の腕を掴んで操作を邪魔しようとした。
『はい。変更を確定しました。能力の変更をしました。ランダムから貧乏、能力魔力減少、不幸に変更しました。戻りまして転移を遂行致します』
「はあ?」
おいおい。効能を聞かなくてもゴミ能力に変更されたのが分かるんだが。
「おいおい。ほんまにいい加減にしろよ。このクソ天使がああ」
「お前でしょう。チハヤさん。私のお胸さんを揉んだ罰です」
「揉んだ罰が人生一回無駄にしろとか鬼畜の所業以上だろ。このたわけが!」
『転移の準備が完了しました。対象者を転送致します』
無慈悲な声が流れる。
「嘘だろ」
「ハハハハハ。馬鹿め。私をコケにしてくれた罰だ。これでせいぜい異世界ではじめに出てくるモンスターに惨殺されな。ハハハハハ、ハーハハハ」
ムカつく声がここに轟く。天使ではなくて悪魔の笑いだ。
殺してやりたいが、転移の準備が進んでいるらしい。それは分かる。俺の足元に魔法陣らしく六芒星が浮かんできて周辺を包み込もうとする。
こんな奴に最後にやられっぱなしは嫌だろう?そうだ。最後にどうなるでもいい。
「転送!」
彼女がそう叫ぶ。
これがチャンスだ。
俺は彼女の腰あたりの衣服に手を伸ばし、下方向に下ろした。
彼女は転んだ。転んだあたりで俺は転送されてしまったのだった。
その後のことは全く知らない。
まあ。予想なんて簡単だけども。
プロローグはこれでおしまいです。
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