十話
「****!」
「****!」
「****!」
俺の目に入るのは西洋風の建物、西洋風の人々。広場には何やら多分この世界を救った偉人であろう魔女っぽい銅像があった。
ここは勇者が好ましいだろ……。
まあ、いわゆるナーロッパ的世界である。この世界に来て初めて町を見た。そんな風景を俺はしっかり堪能したかった。
なのに大量の民衆が雄叫びを上げながら俺らを取り囲んでいた。
殆ど何を言っているのか分からないが危殆状態であるのは分かる。
なぜなら、俺たちは断頭台の上に首が据えられているのだ。
皮肉的にもこの街を見渡せる特等席であると言えた。
断頭台と言うのは元居た世界ではルイ十六世が開発したとかなんとかと伝播しているが、考えることはどこの世界も同じらしい。
こんな悪趣味な道具を開発してしまう世界に厭世感を抱かざるを得ない。
「全く天使を断頭台に掛けるなど、神話にもないですよおおおおおおっ」
天使と言えない野太い声を放った。
「おいおい。何を呑気なこと言ってんだ。テーマパークじゃないんだぞお。天使しい。助けろおお」
俺は全力で、隣に同じように断頭台に掛けられている天使に助けを求めた。元の世界に帰ろうとして断頭台に掛けられるなど冗談じゃない。
「馬鹿じゃないですかあああ。私だって助けてほしいんですよおお。あああああ」
喚きながら彼女も助けを求めた。
「天使パワーだとかなんとかで助けろよおお」
「使える天使パワーなんて全部取り上げられましたよおおお」
「知るかあ。何言ってんだあああ。天使だろおお。助けろおお。俺には余裕がないんじゃああ」
「使えないって言ってるでしょおおお。はっ。貴方みたいな犯罪にお似合いな死に方ですよおおお」
「お前こそてめえみたいな腐った性格にお似合いな死に方だあああ」
「はあ?言わせておけばあ。殺してやる。そんな断頭台ではなくて私自身の手で捻り潰してやりますわ」
「やってみろ」
俺はそう吐き捨てておいた。
彼女は強い口調で言ったが、だからと言って死ねと言っているわけではない。むしろ生きろと捉えられる。ツンデレみたいな表現の仕方である。
いいよ。なら生き残ってやろうじゃねえか。
そのためには情報が圧倒的に不足しているのだが……。
「で、天使よ。どうしてこんなことになっていんだ?流石に不意打ちにしても兵士を倒しただけで、死刑なんて仕打ちになるんか?おかしくない?」
「ああ。うん。おかしいよ」
天使は自明の如く頷いた。こうも鮮やかにすんなりと受け入れられたからやや調子が狂った。
「は?何が」
「彼らは私たちをスパイに仕立て上げたいらしい」
「は?どういう?」
「だからあっといっても貴方は言語が分からないのでしたね。良いでしょう私が説明してあげます」
上から目線でやや調子に乗っている気配を見せる天使は随分と気に食わないが、仕方ないので聞き入れてあげようか。
「まあ。さっきの兵士たちの会話や民衆の叫びである程度聞きかじったもので信憑性に欠けますが、この国とこの国の隣の国は冷戦状態らしいです」
「冷戦?」
また厄介な。
「ええ。王国のクソどもがとか、王国のスパイめ。だとかいろいろ聞こえてきましたので」
王国?なんだそりゃ?
「ちなみにここの国はトートロイジア帝国と言うらしいです。我が祖国トートロイジア帝国に栄光あれと言っていました」
「知るか」
名称なんて正直どうでもいい。そもそも聞いたって何もピンと来るはずがないし、それよりも危機なのだ。
「もう一つちなみにここはその帝国の首都のナライタと言うらしい……」
「ハイハイ。そんなのわーた。わーた。どうでもいいから、どうに早くしろ。死にたくねええええ」
どんどん、その帝国民の罵詈雑言らしきものは高まっていると感じる。
そろそろ断頭台がその役割を果たすのではないかとビクビクしている。
「あの一つ言い忘れていたんですよ。私、天使ですから首切られたぐらいで都合よく死なないようにできているんですよ」
「おい。お前。俺を見捨てる気か?嘘だろ?もしそうするんだったら末代まで呪ってやる。俺の人生を賭けて苦しみを味わわせてやる……絶対に」
すぐ近くにある断頭台には全く恐れをなしていない様子であるのに、おー。怖いと言って俺をおちょくった。
「そんな非人道的なことしませんよ。断頭台は人道的らしいですが」
「結局殺す気かあああ」
「しませんよ。しません。見ててください?天使は万能なんですよ」と彼女は言って首を上下に動かした。
何しているのかと戸惑いを隠せずにいるが、メリッ、ボキッなんて言う木から悲鳴が聞こえた。
え……まさか。
その海老ぞりの背筋ポーズで断頭台を破壊しようかと目論んでいるのか?そんなことが……。
バッキッ。メリメリ……。バコンッ。けたたましい音が響き渡った。
同時に天使は立ち上がった。
取り囲む民衆の罵詈雑言の嵐は無くなり、呆然としていた。
俺も釣られてか知らないが呆れかえっていた。
我に返ったと思われる民衆の中一人が「*******ッ!!!!!」と叫んだ。
「失礼ですね。能力持ちではありません。天界では体力基礎は得意だったんです。単純なフィジカルですよ?」と訂正を図ったがそれも無駄。
腰を抜かして指をさして「******っ!!!!!」と多分「この化け物だっ!!!!!」的なニュアンスの言葉を吐いているのだろう。
化け物と分かった瞬間、人々は混乱した。逃げだすものも多々あった。
断頭台を起動する人も狼狽えてしまっていた。その一方で恐怖感があったのだろう。
その人は断頭台に繋がる縄を躊躇なんて一切せずに切った。
俺の方を……。
「えっ。ハッ?」
するするとカッターが獲物を捕らえた猪のように俺の首に目掛けて猪突猛進してくるのが分かる。
俺の人生は終わっちまった。と覚悟も決めた。
「まずっ」
そう発してからの天使は早かった。
刹那的に彼女は俺に下ろされたカッターを左手一つで手掴みで止めた。
「危ないですねえ……」
彼女は平然と言い放った。
これが民衆のさらなる恐怖の増進に結びついた。
カッターを止めた左手から出るはずの大量の流血は全く見られない。
どんなやつだよ。ああ。天使か。
「ハハハッ。ハハハハハハハハハッ」
腰に手を当て、高らかに彼女は叫んだ。
「悪魔だ……」と思わず俺はそう形容してしまう。おそらくそこにいる人間は皆一概にそう思っただろう。
「失礼な、私は立派な天使ですよ」
「ヘッ。笑わせる。帝国民だっけそいつらが逃げに逃げているが……」
「良いじゃないですか。好都合ですよ。この混乱に乗じて脱出しましょう」
にやりと不敵な笑みを浮かべた。天使のしていい顔ではない。けど、その判断には賛同する。
「ではまずその首の枷を外さないとですね。時間がないので、仕方ないですね……」
彼女は腕を上げた。そして振り下げた。
勿論全力で。
「えっ。ちょまっ」
彼女の拳が向くのは首の位置である。
さっきの断頭台を破った天使だぞ。そんな馬鹿力で首根っこを万が一間違って間違いが起こったなら、死だ。
おい。せっかく生き残ったのに、こいつに殺されてたまるかあああ。と、心の中ではしゃしゃり出ることは可能なのだが、現実はそうもならない。
俺はごく普通の反応として、目を瞑った。
バリンッ。
そのような音が響き渡る。
「……」
「……」
「いつまで目を瞑っているのですか?ビビりですか?」
「ち、ちげーよ」
「ほお。かわいいとこあるんですねえ」
くっそ。言いたい放題言いやがって。でも争っている場合でもない。俺は逃げ惑う人間どもを見る。じゃあ、と。俺は、断頭台に足を掛けた。別に足を切り落としたいからではない。
「はははっ。でもこれで俺はあ。自由だああ。ざまーみろっ。この物部様を愚弄するからそのようなことがっ」
言語の壁があるから言いたい放題言ってやる。
「くそ、ボケ。すけこましっ。このクソ天使がああ……」
あ、まず。つい本音が……。
「おい。なんだと?もう一遍言って見ろ?」
眼極まった眼をしていらっしゃるのですけれど、あのお?
「くっそおおおお」とキャラ崩壊も甚だしいその雄叫びを上げて、拳を振るった。振るったけど、止まった。
「へ?」
なんて、頓狂な声を上げる俺なんかに興味はなく、民衆の方に向けていた。
「今はこのようなことをしている場合ではないようですね」
「そうなのか?ただ、お前に寸止めプレイと言う性癖があることが分かっただけなのだが……ぶふっ」
殴られた。躊躇いもなく最悪な天使だ。
「とにかく私たちは狙われているっぽいと言うことです」
キリリ。こんな擬音が付くくらいには姿勢を正した。
「民衆が私たちの仲たがいを見て、今こそ攻撃だと、帝国最大級の魔法砲弾を持ってくるとかなんとか……」
「まずっ」




