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Angeloser -エンジェルーザー-天使に押し付けられた能力で無双をできる訳でもなく…  作者: 野村陸翔
プロローグ

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1/9

一話 

 俺は何でも持っていた。


 金も、地位も、名誉も、人から羨ましがられるものは大体全て持っているのだ。

 俺は世界有数のコングロマリット企業モノノベ財閥の社長の娘の結婚相手の父方のいとこの兄弟の生まれだ。遠いとか言うなよ?こんだけ遠くとも養える潤沢な利益のある企業なのだ。


 遠くとも勝ち組。今現在、働かなくても一般人よりもいい生活を送っているのだ。

 しかし、しかしぃだ。ただ、それのみだ。一般人よりもいい生活を送れる程度なのだ。


 俺はもっとお金がほしい。お金が欲しくてたまらねえ。

 酒池肉林。酒池肉林計画において全く金が足りねえんだよ。

 札束のお風呂や、タワーマンションの最上階からワイングラスをぐるんぐるん、両手に花を携えて王者の道を歩んでいくのだ。


 ハハ……グヘへ……。ハハ……。ハハハハハ……。


 笑いが止まらねぇぜ。止まらな過ぎて腰が死ぬところだったわ。

 妄想のみでこんなにうれしいのだから現物は最高でしかないだろ。

 一回酒池肉林計画は破滅しているのだが、それでも夢はを追いたくなるものだ。

 さてえ。いつもの通り貯金箱……ではなくて、モノノベ財閥の本社に行きますか。行って金でもたかりに行きますか。


「無理ですが」

「はいはい。受付嬢さん。俺のこのスタイリッシュな容姿に惚れちゃったからって」

「いや、別に……。かなり小太りな、そこまで容姿の悪くない人に見えますが……と、言うのは置いておいて、無理ですよ……」 


 なんだかなり要らない文章が挿入されていたけれど、まあ、良い。金が貰えないのは受け付けない。


「はあ?ふざけんな。たかが一千万ぐらいいいだろ。俺はモノノベ財閥の血縁者だぞ?見なくても分かるだろ」

「すみません。先日からこの仕事に就いたもので……すみません」と涙目で何度も謝罪をした。

 よく見たらいつもの人ではない。解雇でもされたのか?とやや疑問を抱いた。 


「えっと名前をお伺ってもよろしいですか?」


 彼女はビクビクと怯えながら聞いてきた。完全に俺は恐れられる立場になったらしい。そんな高圧的な態度だったろうか。


物部もののべチハヤだ」

「えっとちょっと…待ってくださいね…」


 彼女はそういってパソコンで検索を掛ける。


「あの。そんな名前ないんですが。同じ名前で姓が違う人なら岡村チハヤがいますが…」

「ああ。それも俺の名だ」

「はあ?姓名詐称ですか?」

「どうでもいいだろ。過去の名前を遡ればそうもできるんだよ」

「でも、登録が…」

「ごちゃごちゃうるせー。前は貸してくれただろ。良いから通せ」とこの際強硬突破だ。


 俺は阻む受付嬢の手を振り払って、奥へと進もうとした。

 そしたら警備員がスタンバイしていたのかと思えるほどすぐに出てくる。ササっと数十人程度が俺の周りを取り囲む。

 抵抗するなと。

 そんな目を向けられては抵抗したくなる。

 だが、抵抗しようかと思った最中俺は視界に入った一人の人間を確認して体が静止してしまった。

 カツカツとローファーを鳴らしてひげを生やしたいい年したおじさんがこちらへ歩を向けてくる。


「しゃ、社長……⁉」

「久しぶりだね。会いたかったよ。チハヤくん。元気にしていましたか?」

「ええ。おかげさまで」


 本当におかげ様で。


「ちょっと、久しぶりでね。懐かしがてら奥でお話しましょうか」 


 おお。ラッキーじゃんか。あの受付嬢らは通してくれなかったが……やっぱ社長は話が分かる。受付嬢め。覚えてろよ。ぐっちゃぐっちゃのあられもない姿に変えてやる。グフフフ……。楽しみが増えた。

 わっくわっくしながら社長に付いていき俺は社長室に招かれた。


「少し待ってね。今にお茶を用意させるからね」

「はい」


 この部屋はいつ入っても落ち着きやしない。豪華絢爛に装飾され、俺の家との所得格差が感じられるのだ。悲しくなってしまう。


「どうぞ」


 しばらくすればかわいい召使が紅茶とお茶菓子を持ってよこした。全く遠慮もせず、豪快に頬張った。

 紅茶や、クッキー。一瞬変な味がしたものだが最近いいものを食べていないから慣れていないだけだろう。

 このうまさに時期に慣れることだろう。


「おいしいですか?」

「勿論。ここから出でくる食べ物全てがおいしい」

「そうですか」


 にっこりと張り付けたようにな笑顔をしている。

 この人はいつもそうだ。全く何をしたいのかつかめないのだ。


「最近どうですか?」

「最近ですか……。楽しくやってますが?社長の方はどうなんですか?」

「最近ねえ。貴方のせいで散々ですよ」

「へ?」

「貴方の罪をもみ消すのにも大変苦労するんですよ。なんでしたっけ。詐欺、恐喝……今はなんですか。親族相盗例ですか?貴方の人格破綻ぶりも大概ですよ」

「でも、そんな俺でもそうやってもみ消してくれる社長大好き。一生ついていきます」

「いいや。その必要はなくなった」


 ここ一帯が凍ったような緊張感があった。流れが変わった気がした。俺はしばし動けるような気がしなかった。

 恐る恐る「どういうことですか」と尋ねてみる。


「私は何でももみ消せる国家権力にも等しい力を有してしますよね」

「はあ。そうですが……」

「貴方の両親は貴方を一族の恥だと。一族から不要な人物であると。そう私に提言してきています」

「まさか」


 紅茶やクッキーが変な味がしたのは。


「ええ。まさかですよ」


 この食い物に毒が……。急に苦しくなってくる。耐え切れず地面にうずくまってしまう。 


「ふざけるな。ふざけんな」

「貴方の両親が貴方の排除を要求して来たんです。私を恨むのはお門違いですから。ええ」


 冷静な社長の声がこの部屋に響く。

 それに俺は怒りが湧いて仕方がない。 


「畜生……畜生……」

「私は待ってました。貴方が欲深くここにきてくれるのを待ってましたよ」


 ああ。まんまと罠に嵌められたと言うわけではない。


「まあ。最後に8181《ばいばい》。これが私のクレジットカードの暗証番号」

 はあ。今教えんなよ。


「ちくしょおおおおおおお」


 俺は何でも持っている。

 金も、地位も、名誉も、人から羨ましがられるものは大体全て持っているのだ。

 そして、羨ましがられないものも全てもっている。

 それが俺だった。

 その人生が終わった。



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