マッチングトラブル
ーーーマップロードします。
残念ながら、アンコモンの目論見は外れてしまう。
他のパーティーとマッチングしたようだ。しかも大ハズレ。補充要員としての参加だ。補充要員とは、ランダムマップ等で、何かしらの要因でパーティーメンバーが退出した場合の、システム的な措置。しかも、補充要員は高レベルユーザーにしか行われないメンター仕様な為、F.O界隈では"お助け補充"とか言われている。
「初心者エリアの補充要員なんて、絶対に修羅場だよなぁ。まあ、仕方ない。探してみますか。」
通常ランダムマップは、初期スポーン位置からパーティーで出発し、協力して周囲探索してボスを倒すという流れだ。しかし、補充要員の場合でも初期スポーン位置からスタートする為、追い付く必要がある。
幸い、探索記録や開拓済みのマップはパーティーで共有されている上に、味方位置も常にマーキングされているので、合流は難しくは無い。
(探索記録を見た限りだど、まだ探索し始めて10分も経ってないな?これは…初心者鳥人が置いてきぼり喰らって、揉めたパターンかな?)
アンコモンの種族はオーソドックスな人間だ。秀でた所は無いが、器用貧乏な可もなく不可もない種族。それに、初心者と比べれば操作精度は雲泥の差だ。数分も掛からずに追い付けるが…。
(もう少し状況を把握しておきたいな。…チャットログは……あった。ーーあー…。そういう感じかぁ。)
アンコモンは急いで、他プレイヤーの元へ走り始めた。
ーーー
ーー
ー
「なあ?コッチは急いでるんだけど?」
「さっさと、突っ込んでくれないかなぁ?お前の仕事だろ?」
早速心が折れそうです。キャラメイクを終えて、いざダンジョンに突入したら、キャラクターが遅過ぎて置いてきぼりにされてしまいました。お陰様で、他のプレイヤーから大バッシング。こんな事なら、事前に調査してから来ればよかった…。
(うぅ…怖い…。)
守り人は確かに姉の言う通り、ソロプレイでは有用みたいです。が、パーティープレイに限って言えば、火力が低く探索能力も上位互換が居るので、本当に漬物石みたいです。
それに、未知の敵に突っ込まされるのも勇気が要ります。敵が強かったら死ぬまで放置されますし…。
(……早く終わらせて、キャラメイクし直したい。というか……思ってたよりも…)
ーー面白くない。
視線を落とし大きくため息を吐いた瞬間、変なメッセージが流れて来た。
「システムメッセージ:大怪鳥【ストゥーピッド】が出現しました。早急に逃げて下さい。」
「なんだ、このメッセージ。」「大怪鳥?」
他プレイヤーにも見えているようだが、彼らも何か分からないようだ。
私も、頭に謎マークを浮かべながら足を進めると…。
ギェェェェーー!!
正面から、文字通り大怪鳥と言うべき化け物みたいな鳥が走って来た!
ギョロリとした眼玉、深茶の羽根に大きな身体、蛇みたいな尻尾に、馬鹿みたいに大きな鉤爪。
明らかに正面から戦ってはいけませんという雰囲気が漏れ出ている。なんなら、大怪鳥が現れてから周囲の空間も心なしか暗くなっている気がする…
「う、うわあああ!」「なんだこのイベント!?」
(に、逃げなきゃ…!)
全員が逃げ出すが…、鳥人特有の移動速度に加えて半ばパニックになり、操作も覚束かずに逃げ遅れる。
クェェェ!!!
大怪鳥は、少し留まると口から炎の弾を吐き出し、逃げる二人に対して吐き出す。逃げた二人は堪らずにマップから離脱していくだろう。
(だ、脱出ボタン…!どこ…だっけ!?ーーーぁ。)
とうとう、目の前に大怪鳥が到達してしまった。終わりだ。このまま、あの鉤爪で切り裂かれて、頭でツンツンされて、炎でこんがりされてしまうんだ。
もはや処刑の時を待つだけの、哀れな存在として両腕でガードするようにプルプル震えていると…。
ツンツンと、大怪鳥がカリンの頭を突っついてくるが…特にダメージは無い。
「あ痛っ…!くないけど…わわ…!!」
「おー…。思った以上の反応。これは今年の出し物で使えるな。」
大怪鳥の背中から他のプレイヤーが降りて来た。
カリンは狐につままれたように、ポカンとフリーズしてしまう。
「……あ、でも初心者ギルドでは駄目だなこれ。人によってはトラウマになってしまうわ。もしもし~?お嬢さん大丈夫ですか~?」
「ーーーーはっ!?…私は何を…ぎゃ!?大怪鳥!!」
「落ち着いて落ち着いて。よく見て、これデッカイ鶏。」
「明らかに鶏の大きさじゃないですよ!?それに火も吹いてました!」
言われてみれば…確かに鶏かもしれないが、明らかに違う。可愛らしさの欠片も存在しない。
「これの事?」
「ぎゃぁぁぁ!!」
鶏が、いきなり私目掛けて炎を吐いて来た!ダメージが…無い?
「熱っ…くない?」
「乗り物のエフェクトモーションだからね。派手だし、いきなりダンジョンマップ内だと”攻撃された”と思うよね。」
「…………。」
HAHAHAと目の前の人間男性が笑っている。
少しづつだが、落ち着いて来た。恐らく、目の前の人間男性がプレイヤーで、この鶏(?)は目の前のプレイヤーが扱う存在なのだろう。(使い魔?)
僅かな沈黙の後に、男性……プレイヤーネーム『UnCommon』が声を掛けて来る。
「落ち着いた?」
「………少しは。」
「それは良かった。今、キミに必要なのは落ち着く時間だからね。…ふむ、少し失礼するね。」
アンコモンはメニュー画面を開き、色々と操作をしている。すると、チャットメッセージに新たな表記が流れて来る。
ーーーメンター権限によりパーティーリーダーが、カリンからアンコモンに委譲されました。
ーーーUnCommonにより、NPC:『放浪の探検家』が追加されました。
ーーーUnCommonにより、NPC:『熱心な薬師』が追加されました。
「これで、他のプレイヤーが入ってくる事は無くなった。安心してゲームをプレイするといいよ。」
「……。」
アンコモンさんの左右に、キャラクターが追加される。最初は次の人が来たかと反応したが、幾ら経っても直立不動な姿は、コンピューター操作のキャラクターだと理解できる。それに、アンコモンさんも"ゆっくりしていってね"と言わんばかりに、簡易キャンプの設営までし始めている。
「…ぁ、あの。えっと…。」
「何かな?」
「あ、ありがとう…ございました。」
「気にする必要は無いよ。初心者が楽しめるように配慮するのは、先達者の務めだからね。それに、君は運が悪かったのも事実だ。ゲームを始めた途端に、悪質なプレイヤーに絡まれるのは、堪ったモノじゃないだろうさ。」
簡易キャンプは直ぐに組み上がった。簡単な布のテント、焚火と丸太の腰かけ、テントの縁に鶏も繋がれている。
アンコモンさんから、手渡しにスープの食事アイテムが渡される。ゆっくりと喉の奥に流し込むと不思議と、自身も気が解れたような気がした。




