ロールプレイヤー
サブ職。
生産職とも言われており、戦闘以外で活躍する職業だ。何十ものスキルを組わせて、素材に対応した適切な処置を施す事で、目的の成果物を得る。
例えば木材。基本的に切断のみ。用途に応じて、薬剤塗布、研磨、追加切断が必要だ。氷樹の加工ともなれば、特殊な装備や環境まで必要になる。
サブ職は加工を通じて経験値を得る。製品の完成もすれば、かなり貰える。そしてレベルが上昇すると、新たな加工手段が増えるという訳だ。
アンコモンから欲しい素材を購入し、甘い言葉に誘われて店内を徘徊するカリン。
品揃えは充実を通り越して、百貨店のようだった。もちろん、過半数は高レベル素材過ぎて検討も付かなかったが、自分が理解できる範囲でも、入手が面倒だったモノ、加工が難しいモノ、保存が厳しいモノと勢揃いだ。
それだけに高額だ。高い。具体的には、現状欲しいモノを全て買ったら所持金の八割が消し飛ぶ。それに、このお金は今後サブ職育成や、メインストーリーの進行、遠方への移動費でも使うのだ。そんなにポンポン投げ銭できるモノではない。
「あら?まだ見ていたんだ」
「Lucíaさん…。」
「用事が済んだからね。ふーん。成程なるほど。」
「な、なんですか…?」
顔をジロジロ見られる。そしてルシアは、何か納得したような様子で微笑む。
特徴的なシステム音と共にDMが送られてくる。
『なる程ねぇ。Karinちゃん。彼に、何や言っておきたい事とか無い?例えば…、弟子入りとか?』
『なっ!?』
『流石に、一目惚れ結婚とかは無いと思うけど、UnCommonくんに思う所はあるんじゃないかなぁ?』
『~~~!!ち、ちがっ…第一、結婚って…!!』
『あるよ~?F.Oで結婚に近いシステム。正式名称は永久探索隊契約だけど。』
カリンは図星を突かれて目を回す。一目惚れとまでは行かないが、アンコモンに対して特別思う所はある。
が、改めて他人から指摘されると、再度意識せざる得ないだろう。
完全にフリーズしたカリンが立ち止まっている辺りで、奥から続いてアンコモンが出て来る。
「ん?まだ二人とも居たのか?そろそろ店閉めるから、出てもらえると助かるのだけど。」
「あ、あ、UnCommonさん!」
「?……Lucía。もしかして…。」
慌てるカリンの様子を見て、アンコモンがルシアに視線を移す。まるで"またやったのか?"みたいな視線だ。
「違う違う。誤解だ。今回は、誘った訳じゃない!」
「けどなぁ…。」
「私だって、ゲーム始めたての初心者にロールプレイを勧める程、節操無しじゃないよ!」
「前科が多いからな。お前。」
ルシアが"冤罪だ!"と訴えているが、アンコモンの態度は変わらない。
流石に忍びないカリンが、興味本位で声を掛ける。
「あの…。ロールプレイって何ですか?」
「…珍しく、ルシアが本当の事言ってたらしいな。ほら、ルシア。お前の専門分野だろ?教えてやれよ。」
「絶対後で直訴してやるからなUnCommon…。おっほん。ロールプレイは、ゲームのプレイスタイルの一つだよKarinちゃん!」
恨めしそうな視線をアンコモンに残しながら、一変して太陽のような笑顔を向けて来るルシア。少し怖い。
「『ゲームの中のキャラクターに成りきる事』が、ザックリ行ってしまえばロールプレイに定義されるかな。少なくとも私達の界隈では。」
「ゲームの中のキャラに…成りきる?」
「例えばKarinちゃん。当たり前だけど、プレイしている人間と、ゲーム内で動いているKarinというキャラクターは別の存在だ。現実に羽が生えた人間は居ないだろうしね。」
「そう…ですね?」
少し語弊がありそうだが、感覚的にはカリンも理解できる。自キャラは自分の操作するキャラだが、全てまんまが自分自身という訳ではない。
「つまり、自身のキャラクターに強く感情移入…更には自己投影する行為をロールプレイとしているよ。まあ、結構昔から遊ばれている行為だけどね。大なり小なり、自キャラというのは愛着も湧くし、自分の分身に感じる部分はあるはずだ。なんたって、このMMORPGというゲームジャンルにおいては、自身が一から作って育て上げるからね。」
「なる…ほど…。」
「難しく考える必要は無いよ。このゲームをプレイしているだけでも、ロールプレイの門は既に叩いているようなものだからね。『そのキャラに成りきれ!』とまでは言わないさ。自分のキャラを大切にして、ゲームにのめり込む。それだけの話よ。」
自分のキャラを大切にする。
それはカリンにとって…いや、花澤 凛という人間にとって、非常に不思議な感覚だ。今までのゲーム。スマホでプレイしてきたソーシャルゲームでは、気に入ったキャラはあれど、自分のキャラというモノは無い。自分自身の分身。そう言い得る存在が、ゲームの中を冒険し歩き回る。それは…。
「それは…面白そうですね。」
「だろう!なら、早速…!」
「早速、素材集めを手伝って貰うぞLucía。Karinさんは、自身の思うがままゲームを進めると良いよ。コイツの言い分に乗っかるのは気に入らないけど、このゲームは自由度の高いゲームだ。楽しみ方は多い。自分なりの方法で楽しむといいよ。それじゃあ。」
店から出ると、Lucíaは首根っこ掴まれて連れて行かれる。門を出たタイミングで、光りの柱に飲み込まれ姿を消す。
カリンは、ルシアの言葉を反芻しながら、その日はログアウトした。
◆◇◆◇◆◇
ルートレスとは異なる、深々とした森に二人は降り立つ。エリアには『常夜の深森』と書かれている。
「いい子じゃないか、Karinちゃん。」
「お前と違ってな。まったく。あのままだと、お前間違いなく"設定詰め"から"成りきり"まで紹介していただろ。人によっては嫌悪感になるから、本当に気を付けろよ。」
「はいはい。…『相変わらずの過保護なのも、どうかと思いますよ?アンコさん?私としては、ちゃんと探検隊まで案内するべきではなくて?』」
「……『確かに探索隊に入隊した方が、色々効率はいいだろう。だが、決めるのは彼女だ。強制するべきではない。』」
「『最近は物騒な探検隊も増えているわ。それに、彼女は貴方に執心してるのよ?』」
「『まさか。それは無い。』」
「『……朴念仁。もし、彼女が弟子入りを志願してきたら、どうするのかしら?断るの?』」
「『然るべき探検家を推薦するよ。私よりも、優れて説明が上手い奴は、いっぱい居る。』」
「『ーーそういうのじゃないと思うのよねぇ。』」
処置無しという表情で引きずられるルシア。しかし、一種の予感はしている。そう遠くない内に、カリンはアンコモンの協力を求めて尋ねに来るはずと。
ルシアは、何人かのフレンドにメッセージを送る。件名は…。
【面白そうな事件の予感】と。
[新緑の守人槍](要レベル15/レア/専装)…チュートリアルダンジョンを終え、二つ目のダンジョン『ルートレス・ハイヴ』のクリア報酬。通称《新緑シリーズ》。最大HP・攻撃力に大幅補正もありレベル20中盤まで使える優秀装備で、愛着を持つプレイヤーも多い。レベル30になると《深緑シリーズ》を作る為の素材にもなるので、捨てないように注意が必要。




