第18話(最終話):真実の旗の下で
王都の空を、戦鼓が震わせた。
城門の前にアールディア軍の旗が翻り、民衆が息を呑んで見守っている。
「進め! 宰相を討ち、真実を取り戻すのだ!」
ジルヴァートの声が響き渡り、兵士たちが雄叫びをあげた。
私もその場に立っていた。
震える手を胸に当てながら、まっすぐ城壁を見つめる。
――ここですべてを終わらせる。
◇
城門が開き、矢の雨が降り注いだ。
だがその混乱の中から現れたのは、エルディナの反宰相派を率いるアランだった。
「兵を退け! 敵は民ではない! 宰相こそ真の逆賊だ!」
兵士たちが動揺する。
「殿下が……王妃殿下と並んでいる……?」
「宰相こそ……裏切り者なのか?」
瞬く間に軍勢の一部が武器を下ろした。
宰相は高台から怒号を飛ばす。
「惑わされるな! 王太子も、追放された女も、反逆者だ!」
その声は、もはや響かなかった。
◇
戦場の中央で、私はアランと再び向き合った。
「……来てくれたのね」
「今度こそ、共に戦うために」
その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
私は頷き、共に城内へと進む。
ジルヴァートが背後で叫んだ。
「宰相の首を挙げよ!」
◇
玉座の間。
宰相は最後の兵を従えて立ちはだかっていた。
「愚かな……王家の血も、異国の王妃も、この手で葬ってくれる!」
剣を構える宰相に、アランが踏み込む。
刃と刃がぶつかり合い、火花が散った。
その背でジルヴァートが敵兵を斬り払い、私を守る。
私は叫んだ。
「もうやめて! 民は血を望んでいない! あなたの欲は国を滅ぼすだけ!」
だが宰相は狂気に染まった目で笑った。
「王妃など、民の偶像にすぎぬ!」
その瞬間、アランの剣が宰相の刃を弾き、ジルヴァートの槍が閃いた。
「これで終わりだ!」
宰相の身体が崩れ落ち、玉座の間に静寂が訪れた。
◇
その後。
民衆の前で、アランと私は共に立った。
「真実を伝えよう。王妃断罪は芝居であり、宰相の陰謀だった!」
「彼女こそ、この国と民を救った旗印だ!」
人々の間から歓声が湧き上がる。
「王妃殿下、万歳!」
「セレスティア様を信じよ!」
涙が頬を伝った。
――あの日、奪われた尊厳が、今ここに戻ってきた。
◇
その夜。
私は城の庭に立ち、月を見上げていた。
背後から足音が近づく。
「セレスティア」
アランだった。
「すべてが終わったな」
「ええ……でも、終わりではなく始まりです」
互いに目を合わせ、短く微笑んだ。
憎しみも、疑念も、すべてを越えて――。
そこへジルヴァートが歩み寄る。
「王妃殿下、これからが本当の戦いだ。国を立て直す戦いが」
「はい。だから、どうか共にいてください」
アランとジルヴァート、二人の眼差しを受けながら、私は胸に誓った。
――もう二度と、この国を闇に沈ませはしない。
翌朝、王都に新しい陽が昇った。
戦火は去り、人々は復興のために動き出す。
私もまた、民と共に歩む未来を選んだ。
「これが……私の、新しい物語」
そう呟いた声を、朝の光が照らしていた。