第17話:決戦前夜、王都を目指して
天幕の中、私は深呼吸をしてから言葉を紡いだ。
「宰相がすべての黒幕です。追放も、断罪も、暗殺も――彼の仕組んだことでした」
軍議に集う将軍たちの間に、ざわめきが広がった。
「やはり……!」
「王妃殿下を狙う理由はそこにあったのか」
ジルヴァートは腕を組んで私を見据えた。
「証拠は?」
「今は言葉だけです。ですが、アラン殿下自身が認めました」
その名を出すと、一層のどよめきが起こった。
敵国の王太子と通じるなど、軍にとっては危ういこと。
だが私は逃げなかった。
「この戦を終わらせるには、宰相を討ち、真実を暴くしかありません」
◇
ジルヴァートは沈黙ののち、力強く頷いた。
「……分かった。ならば我らの目的は明確だ。宰相を討つ」
将軍たちが次々に賛同の声をあげる。
「宰相を倒せば、戦の火種は消える」
「王妃殿下を旗印に進軍すべきだ!」
私の胸に重責がのしかかる。
だが同時に、不思議なほど心は澄んでいた。
――逃げる時は過ぎた。
今こそ、立ち向かう時。
◇
その頃、祖国エルディナ。
王都の街角では噂が飛び交っていた。
「宰相が王妃を追放したのは謀略だった」
「王太子殿下は本当は王妃を守ろうとしていた」
兵たちの間にも動揺が広がる。
「俺たちは誰のために戦っているんだ」
「宰相のためじゃないはずだ」
宮廷に届く民の声は日に日に強まり、宰相の眉間の皺は深まっていった。
「くだらぬ噂を……誰が流している!」
だが止められない。
民衆はもう、王妃を亡霊ではなく希望として語り始めていた。
◇
王太子の執務室。
アランは地図を睨みつけていた。
「このままでは王都も宰相の手に呑まれる。……俺が動くしかない」
幕僚が慌てて声を上げる。
「殿下、それでは反逆と見なされます!」
「構わん。真実を知らぬまま戦を続ければ、この国は滅ぶ」
その瞳は決然としていた。
「セレスティア。必ず、お前と並び立って宰相を討つ」
◇
一方アールディア本陣。
私は兵士たちに向けて演説を行った。
「我らの敵はエルディナそのものではありません。民でも、兵でもありません。
――真の敵は、宰相ただ一人!」
兵たちの目が燃えるように輝いた。
「王妃殿下に続け!」
「宰相を討て!」
声が大地を揺らし、結束が強まっていく。
ジルヴァートが私の肩に手を置いた。
「進軍の時だ。王都へ」
私は頷いた。
「はい。真実を暴き、すべてを終わらせるために」
◇
夜明け。
アールディア軍と、アランに率いられた反宰相派の兵がそれぞれ動き出す。
異なる道を通りながらも、目指す先は同じ――王都。
遠くに見える城壁の影が、朝日に染まって輝いていた。
――決戦の時が近い。