第16話:二度目の密会、揺るがぬ真実
「アラン殿下との密会だと……? 冗談ではない!」
ジルヴァートの声が天幕に響いた。
報告を受けた彼は、憤りを隠さなかった。
「前回の襲撃を忘れたのか。奴は宰相の監視下にある。会えば、また命を狙われるのは目に見えている!」
私は静かに首を振った。
「それでも……確かめたいのです。真実を」
彼の瞳が揺れる。
「……まだあの男を信じるのか」
「信じているわけではありません。ただ、このままでは戦も終わらず、宰相の思うつままです」
沈黙。
やがてジルヴァートは深く息を吐いた。
「……ならば、せめて護衛を」
「いいえ。今回も私ひとりで行きます。誰かを巻き込むわけにはいきません」
私の言葉に、彼は苦渋の表情を浮かべた。
「……必ず、戻ってこい」
◇
夜。
月明かりに照らされた森の小道。
私は一人歩みを進めていた。
――再び罠かもしれない。
そう思いながらも、胸の奥では確信に近い直感があった。
彼は、私を欺くためだけに会いを求めてはいない。
やがて木立の影から、低い声が聞こえた。
「……セレスティア」
アラン。
姿を現した彼は、前回よりもさらにやつれていた。
だがその瞳は、迷いなく私を見つめていた。
「来てくれたのだな」
「……話を。真実を聞かせて」
◇
二人は月下に向き合った。
沈黙を破ったのはアランだった。
「あの日の断罪。すべて宰相が仕組んだ罠だった」
「罠……?」
「宮廷で勢力を増した宰相は、お前を最も警戒していた。王妃としての人望と才覚が、自分の権力を脅かすと」
私は息を呑んだ。
「では、私は……」
「お前を守るため、リリエッタと共に芝居を打った。俺が冷酷に見せれば、宰相は満足し、お前への矛先を鈍らせると考えたのだ」
その言葉に、心臓が大きく打ち鳴った。
――芝居。
裏切りではなく、守るための偽り。
「……なら、なぜ真実を教えてくれなかったの」
思わず声が震える。
「孤独に、屈辱に、押し潰されそうになったのに!」
アランは目を伏せた。
「お前を巻き込むわけにはいかなかった。だが……それが愚かだった」
◇
その瞬間、背後で草を踏む音がした。
「っ……!」
アランが剣を抜く。
闇の中から現れたのは、やはり黒衣の影だった。
「また宰相の……!」
私は息を呑む。
刺客は迷いなく刃を振り下ろす。
アランが剣で受け止め、火花が散る。
「走れ、セレスティア!」
「いいえ、今度は逃げません!」
私の叫びが森に響く。
だが影は次々と現れ、数は増えていく。
「……くそっ!」
アランの額に血が滲む。
私は咄嗟に拾った枝を振るい、影の手を払った。
恐怖で震える体。それでも、もう無力でいるわけにはいかなかった。
◇
やがて、遠くから角笛の音が響いた。
「アールディア軍だ!」
影の一人が叫ぶ。
刺客たちは互いに目配せをし、素早く撤退していった。
森の奥に闇が溶け、静寂が戻る。
荒い息を吐きながら、アランは剣を収めた。
「……まただ。宰相の目は常に俺たちを見ている」
私は震える唇を噛み締めた。
「ならば、これ以上隠れていても同じこと。いずれ正面から向き合わねば……」
アランは深く頷いた。
「そうだ。次こそは、宰相を討ち、真実を明らかにする」
◇
夜明け。
私は天幕に戻り、包帯の手を見下ろした。
――二度目の密会。
真実の一端は明かされたが、宰相の影もまた深まった。
心の奥で揺れる。
ジルヴァートの誓い。アランの愛。
どちらも偽りではないと分かるからこそ、答えを出せない。
だが一つだけ確かだった。
――次は、宰相との全面対決になる。