表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/18

第12話:密会、揺れる真実

 深夜。

 天幕の中で、私は震える手で文を読み返していた。


 “真実を知りたくば、密かに会え――アラン”


 その文字は確かに彼の筆跡だった。

 冷酷に私を断罪したあの日の人と、同じ手が書いたとは信じがたい。


 「……本当に、彼が」


 だが心臓は早鐘を打っている。

 恐れと期待、憎しみと渇望――あらゆる感情が絡み合い、私を突き動かしていた。


 ◇


 翌日、私は密会の意をジルヴァートに伝えた。


 「無茶だ! 敵国の王太子と会うなど、命を差し出すようなものだぞ!」

 「それでも、行かねばなりません」


 彼の瞳が鋭く光る。

 「……まだ、あの男を信じているのか」

 「信じてはいません。ただ、確かめたいだけです」


 沈黙ののち、ジルヴァートは深く息を吐いた。

 「ならば私の護衛を連れて行け。ひとりでは危険すぎる」

 「いいえ。これは私自身の選択です。誰かを巻き込むわけにはいきません」


 私の言葉に、彼は苦渋の表情を浮かべた。

 「……必ず、戻ってこい」


 その言葉に私は頷き、夜の闇へと身を投じた。


 ◇


 森の奥、月明かりだけが差し込む小道。

 約束の場所には、黒衣の影が立っていた。


 「……セレスティア」


 その声。

 忘れようとしても忘れられなかった声。


 「アラン……」


 闇の中で見えた彼の姿は、戦場で見た冷徹な将軍ではなかった。

 やつれた頬、血走った瞳。その表情には苦悩が刻まれていた。


 「来てくれてありがとう」

 「……なぜ今さら」

 「すべてを語るには時間が足りない。だが一つだけ言わせてほしい」


 アランは歩み寄り、低く告げた。


 「あの日の断罪は――芝居だった」


 ◇


 胸が凍りつく。

 「芝居……? では、あの冷酷な言葉も……義妹との密会も……」


 「すべて、宰相を欺くためだった」

 アランの瞳は真摯だった。

 「リリエッタも協力してくれた。お前を宮廷から遠ざけるために。陰謀の矢が、真っ先にお前を狙っていたから」


 私は言葉を失った。

 あの日、すべてを失ったと思っていた。

 だが、それは――守るための偽りだったというのか。


 「信じろとは言わない。ただ……」

 アランは苦く笑った。

 「私は今も、お前を愛している」


 胸の奥に、どうしようもない熱が込み上げた。

 だが同時に、怒りもまた湧き上がる。


 「そんな言葉で……十年の孤独が消えるとでも?」


 ◇


 その時だった。


 茂みが揺れ、無数の矢が闇を裂いた。

 「っ……!」

 アランが私を抱き寄せ、身を挺して矢を弾く。


 「伏せろ!」

 闇の中から黒装束の兵が現れた。顔を覆い、印章も持たぬ者たち。


 「宰相の……刺客!」


 アランが剣を抜き、私の前に立つ。

 金属の音が夜気に響き渡る。


 私は震える声で叫んだ。

 「どうして……! 宰相は和平を望まないのね……!」


 矢が再び放たれる。

 その中でアランの声が響いた。


 「セレスティア、逃げろ! 必ず真実を掴め!」


 私は振り返り、必死に走った。

 背後で剣戟の音が遠ざかっていく。

 振り返る勇気はなかった。


 ◇


 天幕に戻った私は、崩れ落ちるように膝をついた。

 全身が震えていた。

 彼の言葉――「芝居だった」という真実。

 そして、宰相の影。


 「アラン……無事でいて」


 夜空に滲む星々に祈りながら、私は己の心が揺れていることを痛感していた。

 憎しみと愛情、疑念と希望。

 そのすべてを抱えたまま、私は再び戦いに臨まねばならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ