第1話:王妃追放の宣告
「王妃セレスティア――お前には、不義の罪がある」
王宮の大広間に、王太子アランの声が響き渡った。
玉座の間に集められた廷臣たちがざわめき、冷たい視線を私に向ける。
信じられなかった。
夫であるはずの彼が、義妹リリエッタと並び立ちながら、私を糾弾している。
「なんと……王妃が、不義など……」
「やはり。王太子殿下に寄り添うべき器ではなかったのだ」
廷臣たちの囁きが、刃のように突き刺さる。
私は思わず口を開いた。
「待ってください! 私がそのようなことをするはずが――」
だが、声はかき消された。
証人と称して立ち上がったのは、王宮の有力貴族。彼らは揃って「王妃が密会していた」「証拠を見た」と言い募る。
胸の奥に、黒いもやが渦巻く。
これらは作られた証言――そう直感した。だが、この場で訴えたところで、誰も耳を貸さない。
「セレスティア。お前は王妃でありながら、己の立場を汚した。
よって――追放を命ずる」
アランが冷然と告げる。
その横顔は、氷のように冷たく、かつて愛を誓った男のものとは思えなかった。
私は唇を噛みしめる。
……なぜ? なぜ、あなたが。
背後では、義妹リリエッタが涙ぐみながらアランの袖を掴んでいる。
その光景に、廷臣たちは「新たな王妃に相応しい」と囁き合った。
屈辱。絶望。
だが同時に、胸の奥底で奇妙な違和感が芽生えていた。
――なぜ、アランの瞳が、ほんの一瞬だけ、私を見たときに震えたのか。
冷酷な判決の裏に、何かを隠しているような気がしてならない。
「……承知しました」
私は静かに頭を垂れる。
涙を流すのは、ここではない。
大広間を後にするとき、確かに聞こえた。
微かに、アランが吐いたため息を。