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ライヒンデルツ魔法学校。

その創立は王国の建国初期にまでさかのぼり、代々官僚や優秀な魔法使いを輩出している名門校である。


(懐かしいなあ……)


と、私は10数年ぶりにその大講堂の天井を見上げた。

吹き抜けの天井は遥か高く、たくさんの使い魔達が空中を飛び、訪れた保護者達に花を配っていた。

あちこちにある豪奢な壁画や壮大なパイプオルガンよりも、今はそちらに目がいってしまうのだから、職業病というか何というか…。


パチン


「「ギャッ」」


すると、ふいに足元で何かがぶつかるような音と、小さな悲鳴がした。

見れば、小人のトムテが蜂型妖精(メリサ)にぶつかって尻餅をついている。


「〜!〜!ー!」

「…、…、;」


小人のトムテがボンヤリしていたのだろうか、蜂型妖精はすごい剣幕で怒りながらブゥンブゥンと羽を震わせている。

一方、小人のトムテは種族のトレードマークでもあるとんがり帽子を落としたまま項垂れるばかり。

その肩の落とし方が私はとても気の毒になった。


「まぁまぁ、トムテもきっと、わざとじゃないんだから。ね、これで許してあげて?」


ポケットから飴を差し出してそう言うと、途端に蜂型妖精はブゥンと羽の音を変えた。

花の茎を抱えたまま手のひらに乗ると、器用に残りの手足で飴をつかんで、あっという間に飛び去っていく。


「……」


私はその小さな体を見送ると、項垂れたままの小人に飴を差し出した。


「はい、あなたにもあげる」

「……!……、」

「いいのいいの。たまたま持っていただけだから」


嘘だ。

本当は懐かしい使い魔がいたらあげようと思って、ポケットに忍ばせてきていた。

でも、こんなに人も使い魔も大勢いたら、分かるはずもない。

……そもそも、会えるはずもなかったのだ。


「だから……もらってくれると嬉しいわ」


微笑みながらそう言うと、小人のトムテは目を輝かせた。

使い魔は人間のお菓子が大好きだから。

何度も帽子を下げてお辞儀をする小人に手を振って、私はもう一度座り直す。


(もうそろそろかな)


そう思って懐中時計を出そうとした時、ふいにあたりが真っ暗になった。


「新入生諸君……」


穏やかなしゃがれ声が講堂に響く。

水を打ったように静まり返る会場。

するとパッと壇上に光が集まり、瞬きをする一瞬の間に、そこに教師服を着た仮面の大人達が現れた。

転移魔法。

高位魔法使いしか使えない、高等魔法だ。

息を呑む観衆の前に、教師陣がぱっとその仮面を取る。


「「「ようこそ、ライデンヘルツ魔法学校へ」」」


わぁ、と歓声が起こり、割れんばかりの拍手が巻き起こる。

私も大きな拍手を送りながら、遠くからじっと教師陣の顔を見ていった。


(あ、あれ、ペルセウツキ先生じゃない……?!わぁ〜ぜんぜん変わってない!……って、えっ……?うわっ!もしかして真ん中にいる人って、ザハロフ先輩……?あ、そうか、そういえば代々教師の家なんだっけ。あいかわらずキラキラ……うーん、えー、それから……)


1人、2人……と、お世話になった先生や見知った顔を見つけ、ついに右中央にいたその人を見た瞬間、私は思わず口を覆った。


「っ……」


言葉が出なかった。

瞬きを忘れた私の眼球がその姿を捉える。

新入生を祝福するように目尻の下がった金の瞳。

拍手をするたびに揺れるカラスのように黒い髪。

その端整な顔立ちと、均整のとれた体躯に似合わない、病人のように白い肌。


私は知っている。

その黒い手袋の下にある爪の形まで。


「……ッアクセス……!」


アクセス。

アクセス・フォン・ギルフリート。


(どうして、なんでッ……魔法学校に……!?)


手のひらから溢れた小さな悲鳴に、前のご婦人がちらりと私を振り返る。


「っ……!」


私はハッと我に返って、顔を伏せた。

猛烈に恥ずかしかった。


(何をしているのよシンシア……!こんな所でアクセスを見つけたからって、今さらなんだって言うの?!貴女はここに何をしに来たの。お嬢様の晴れ姿を見に来たんでしょう?!)


こんなことでは、怪我で入学式に来られなかった奥様に申し訳がたたない。

私は震える手を握りしめて、顔を上げた。

まだ拍手が鳴っている。

誰かが指笛を吹いている。

使い魔達が天井から花びらを降らせ、雪のように舞い落ちるそれが視界を遮る中、スポットライトに照らされた貴方は――貴方は、私を見ていた。


「っ!」


大きく見開かれた金の瞳。

薄く開いた唇。

拍手していた手は止まり、信じられないとでも言うように、その目は私を見つめている。

この群衆の中、私だけを。


「諸君らの輝かしい未来に!」


銀色のローブを着た校長先生が進み出て、パッと空中に花火を打ち上げた。

割れんばかりの歓声の中、私は目もそらせずに、そっと唇を噛みしめる。


ああ、どうか、お願いだから。


(貴方まで、そんな顔をしないでほしい。)




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