【電子書籍配信記念】侍女の願い
「旦那様、ほら、ここ! ここにあるでしょう?」
畑にある野菜の花芽がつき、旦那様に見せているのは私が敬愛するお嬢様──いえ、もうすでに立派な侯爵夫人になられた、奥様。
幼少の頃よりお仕えさせていただき、気の赴くまま自由な性分のこの方についていくのは一苦労だった。
……誇張抜きに、本当に大変だった!
畑が呼んでいるから、と朝も早くに叩き起こされ、(当時は私の方が起こされていた)畑に来ればクワを持たされ、耕せと言われ、年がら年中部屋と畑の往復で全く貴族令嬢らしくない。
木には登るし、ドレスでも構わず畑に入るし、少しはおとなしくなっていただこうと思い鎮静効果のある特製ブレンド茶を毎日飲ませていたのに。
「うわぁ! マージ、これすっごく美味しいわ!
毎日飲みたいくらいよ」
なんて明るくニコニコ言うものだから、拍子抜けしてしまうくらいだったわ。
鎮静効果は今のところ全く無い。
私は貴族令嬢付の侍女になったからには、お仕えする主をオシャレに着飾ることを楽しみにしていた。
「今日は~、緑かなぁ。周りの植物に溶け込むの」
んふふ、とニッコニコの笑顔でツバの広い帽子を被り、腕カバーをする。
どこからどう見ても農家のオバチャ……いえ、農家令嬢。
着飾るドレスもなく、そもそもこの方は社交もしない。
お嬢様は……アリアナ様は、本当は、とても可愛らしいのに!
ああ、いつか、いつかせめて誰かと結婚して着飾ることができますように……!
──なんて、思っていた時期もありました。
あれから数年。
アリアナ様はあの頃となんら変わらず、ドレスを着るより農作業服、ほっかむり、腕カバーをして、どこからどう見ても農家の貴婦人。
誰が見ても楽しそうに植物と触れ合い、周りを巻き込んでいつも笑顔で作業している。
そんな奥様を愛おしげに見つめる旦那様も、苦笑しながらも嬉しそうにしている。
結婚した当初は本当に腹が立って、どうしてやろうかと思ったりもしたけれど。
今のところ、奥様が幸せそうにしているから、まあ、今のところは、ね?
私はこれからもこのお二人を見守っていくつもりだ。
きっと、飽きることなく幸せになれるだろうから。
「マージ、お茶の準備をお願いね!」
「承知いたしました」
だから、私は特製のお茶を淹れる。
今度は奥様がいつまでも幸せでいられるよう、願いを込めながら。
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