21.本当の妻になりました
朝の陽射しに誘われて、窓の外から小鳥の囀りが聞こえてくる。
肌寒さを感じて掛布を引くと、隣に湯たんぽがあって思わず抱き締めた。
「……ん? 固い……?」
抱き枕にしては固く骨張ったような感触は昔々に感じたことがある。ただしこんなに滑らかではなかったし独特のにおいがあったはず。
違和感を払拭しようと朧気に目を開けると、そこには整った顔が寝息を立てていた。
「……!!??」
叫ばなかった私を褒めたい、というよりも、叫び声が喉奥に消えてしまうほど驚いた。
なぜなら、ブルルが、裸で寝ていたからだ。
よくよく見てみると私も裸だった。どうりで寒いはずだ。
完全に目が覚めると朧気に昨夜の記憶が蘇ってきた。
そうだ。
昨夜私はあのままブルルにお持ち帰りされた。
そしてそのまま夫婦の寝室に連れて行かれ、身包みを剥がされたあと……どうしたっけ。
起き上がって身体を見てみればそこかしこに散らばる虫刺されのあと。
裸で寝るから言わんこっちゃない。
起き抜けだから今はかゆくはないけれど、今のうちにかゆみ止めを塗っておこう。
健やかに眠るブルルを起こさないようにそっと抜け出し、日頃の農作業のせいか遅れてやってきた筋肉痛になった重い下半身をひきずりながら簡易的に服を着てから部屋を出た。
急いで使用人を探すと、マージがいてくれた。
「おはようございます、奥様」
「マージ! よかった! 虫に刺されたみたいなの。かゆみ止め貰える?」
着崩れたドレスから虫刺されを見せると、マージは目を見開いた。
「とりあえずお部屋へ。これは虫刺されではないようですね」
「違うの? 起きたら裸だったのよ。ブルル……旦那様は大丈夫みたいだったけど」
「まあまあまあ! それは良きことですわ。放っておいても害はございませんのでご安心ください」
マージの言葉に安心して着替えることにした。
改めて見てみれば色んなところに痕があって、かゆくならないか気になった。
完全に目が覚めてしまったので、マージには止められたけれど、しばらく見てなかった畑に行くことにした。
畑に行くと、朝も早いのにダニーはじめ使用人たちが畑に集まっていた。
「奥様!? お戻りでしたか」
「奥様!! お帰りなさいませ!」
「みんな来ていたのね。あなたたちのおかげで畑の子たちも元気だわ。留守の間ありがとう」
「いえ! お戻りになって良かったです」
みんなが口々に喜んでくれて、勝手に出て行ったのに私の居場所を守ってくれたことにありがたいと思った。
「おはよう、アリアナ。ここに泊まった、ってことは侯爵と仲直りしたんだな」
使用人たちに紛れてなぜかグレイまでいた。
「仲直りできたか分からないけれど、また一緒に寝たわ」
笑顔で答えるとグレイの顔がひきつった。
そしてなぜか項垂れてしまった。
「奥様、そろそろ秋に植えた野菜でこの辺りなんか収穫できそうですよ」
見てみるとハクサイが食べ頃を迎えているようだった。豚肉との相性も抜群だし、料理長に使ってもらおう。
「よっし、収穫しようかな! 手伝ってくれる?」
「もちろんです!」
「グレイも暇なら手伝って」
早速みんなで収穫しようとしていたら、屋敷の方からものすごい勢いで誰かが走ってきた。
「アリアナ! ぜい、ぜい、なんっ、ぜぇ、おき、いなっ」
「だ、旦那様、落ち着いてください」
ブルルは室内用のローブを羽織っただけのようで寒そうだ。よく見ると足元はスリッパだった。
「良かった。起きたらいないから……昨夜のことは夢かと……」
安堵しながら抱き締められて、耳元で囁かれた。
「昨夜……そう言えば、私たちは裸踊りをしたのでしょうか? クラバットは無かったようですが……」
周りのみんなの動きが一瞬止まった。ブルルもそのまま固まってしまった。昨夜のことは覚えてないなんて言えなかった。
「アリアナ……まさか、覚えていない?」
「ドレスを脱がされたのは覚えているのですが、その後はさっぱり……」
笑ってごまかせばなぜかブルルに横抱きにされてしまった。
「記念すべき夜を覚えていないなんて、夫として由々しき事態だ。再現するから覚悟するように」
「えっ」
笑顔を浮かべてブルルは畑から遠ざかる。
使用人たちは生温かい目線を向けてくるし、グレイは廃人になったように魂が抜けかけていた。
「我が主の花嫁は月の妖精ではないと思っておりましたが……これから羽化するのですね」
セバスさんはハンカチを片手にホロリとし、その隣でマージもやれやれ、と肩を竦めた。
再びベッドに降ろされて、眼前にブルルの稲穂が近付いてくる。
「ち、近い、近いです旦那様」
「ブルルとは言ってくれないのか?」
「バッファローよろしく突進してこないでください」
迫り来るブルルを両手で制しながらベッドヘッドに後ずさる。
そんな私を軽くいなし、とうとう横たえられてしまった。
「アリアナ、愛している。初夜明けに畑に行くのもきみらしい。きみを知れば知るほど愛しさが増していく」
「あ、あなたは……趣味悪いんじゃない?」
「そうかな? 素晴らしい女性と結婚できたと思っているよ」
間近で囁かれて顔が熱くなる。ブルルのくせに生意気だ。
「きみだけ見ていないといけないから、第二夫人も愛人もいらない。だから、俺の恋を応援するなら、アリアナが相手になってくれ」
熱を帯びた瞳で、黄金の髪を垂らしながら言うのはズルい。
「わ、私は……農作物が好きです」
「知っている」
「あなたは……麦や稲穂と同じ黄金の髪だから……好き、かもしれません」
「今はそれでいい」
額に柔らかな唇が触れる。
「私は……他の女性よりきらびやかではないですよ?」
「構わない。そんなきみだから好きになったんだ」
甘い口付けも、柔らかな眼差しも、私だけに向けられていることが嬉しくて。
「ドングリの木が大きくなったら、一緒に登ろう」
「大きくなる頃にはもう体力も落ちてそうですが……」
「きみの子は登るだろうから今から体力を付けておくよ」
そう言われて、未来があることに胸の奥が疼く。
「アリアナ、愛している。これから先も変わらない思いをきみに伝えていくよ」
「……お手並み拝見しますわ」
照れくさくて顔を逸してしまった。そんな可愛げもどこかにやってしまった私に、ブルルはふっ、と笑った。
「俺は雑草並にしぶといからな。今から覚悟しておいてくれ」
「では私は旦那様の恋を応援しましょう。……飾らない、妻として」
満足そうに笑みを浮かべたブルルの顔が近付いて、そっと唇を重ねた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
最近殺伐としたお話ばかりだったので、楽しんでいただけるお話を書こうと思い立ったのがきっかけで生まれた二人。
麦という強敵を越えられないまま稲というライバルが現れたブルル。
中々素直になれないアリアナから「愛しています」と言われるように頑張れ〜と生温かい声援を送りながら、このお話は終わります。
皆様もお楽しみいただけたなら幸いです。
お付き合いいただき、ありがとうございました(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
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