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作者: ひかめさん

「フローレンス・アリスドール嬢」

昼休み。学園の中庭で読書をしていた女子生徒ーフローレンスは読みかけの本を閉じて立ち上がった。

あぁ…良いところだったのに。巨大な蛇に丸のみにされたマシューはこれからどうなるの。

「…御機嫌よう、ランディール公爵令息様」

フローレンスは内心迷惑この上ないと思っている事を顔には出さず、けれども愛想も浮かべず男子生徒にカーテシーをして向き合った。

「貴様に訊ねたい事がある」

「何でしょう」

「リリーが女生徒から遠巻きにされている理由に心当たりはあるか?」

面倒な事になった、とフローレンスは内心で盛大な溜め息を吐いた。

「リリーという方はリリーアンヌ・ブランリュート侯爵令嬢の事でよろしいでしょうか?」

「そうだ。他にいないだろう」

いやいるだろう。リリーなんて愛称でも名前でも珍しくない。

「なぜ、そのような事を私に?私はブランリュート侯爵令嬢とあまり接点は御座いませんが」

あまり所か全く無いが、わざわざ煽るような言葉を言う必要もない。

「だからこそだ。貴様には嘘を吐く理由がない。リリーのフォローをしていない事には目を瞑ってやるから正直に答えろ」

寄子でもないのにフォローをする義務も義理もないのだが。

うっかり口から滑りかけた言葉を呑み込む。質問に対する解答はすでに出ているがそれを告げる前に確認しなくてはならない。

「お答えする事はできますが、その前に」

「何だ、褒美か?意外とがめついな」

無視して帰ってやろうか。

「違います」

「褒美じゃないならなんだというんだ?」

「私の返答がどういうものであれ、不敬に問わないと約束して頂けますか?」

「不敬となる発言をするという事か?」

「受け取り方によってはそうなるかと」

「いい度胸だな?」

嘘を吐く理由がないと言ったのに、この態度は都合の良い嘘を吐けという事なのだろうか。これだから階級社会は。けれども、夜寝る前にもやもやするからできるだけ嘘は吐きたくない。

「了承して頂けないようですね…それでは仕方ありません。不敬罪で私の首を刎ねた場合花壇の水やり係の引き継ぎをお願いします」

「……は?」

「ブランリュート侯爵令嬢が女生徒から遠巻きにされている理由でしたね。お答えできるのはあくまで私個人の見解となります事を念頭にお入れ下さいませ」

「お、おい…?首を刎ねるとか花壇がなんとか」

「まず一つ目。リリーアンヌ・ブランリュート侯爵令嬢様の母君は後妻であるアンナ侯爵夫人です」

「それがどうした。侯爵が自分の血を引いていると認めているんだ。血筋に問題はない」

「前侯爵夫人であるアントワネット様とのお子であるヴィオレッタ様とリリーアンヌ様の年の差は一つ。前侯爵夫人が亡くなられたのは三年前で、現侯爵様自らリリーアンヌ様との血の繋がりを認めたという事はリリーアンヌ様は不貞の末にできたお子であるという事です」

「貴様っ!リリーを侮辱するつもりか!!!」

「侮辱ではありません。単なる事実です。それとも、すでに婚姻しており妻が存命中に他の女と子作りをするのは不貞と言わないのでしょうか?」

「それは…だがリリーは悪くない!!」

「ええ、お生まれになっただけのリリーアンヌ・ブランリュート侯爵令嬢に罪はありません。ですが、不貞の末にできた事実も変わりません。アントワネット様が亡くなった日を捏造でもすれば表面上は不貞ではなくなるかもしれませんがね。その場合は別の罪が生まれます」

「……」

「話はそれましたが、アントワネット様の喪があけると同時に待ってましたと言わんばかりにお二人は再婚なさいました。まあ、不貞なんて貴族だろうが平民だろうが一定数ある話です。とはいえ貴族なら外聞は大切ですからね普通は数年落ち着くまで待つものですが、ブランリュート侯爵は立場の割に醜聞になるのを気にもとめない精神の持ち主のようですね。そうしてリリーアンヌ・ブランリュート侯爵令嬢は婚外子という立場から養子となった訳です」

「……」

「ですが、少々裕福な平民からいきなり侯爵令嬢となったにも関わらず現侯爵様は最低限のマナーも身に付けていない状態で学園に放り込みました。目に入れても痛くないほど溺愛しているとはいえば聞こえは良いですが……身分は高位貴族の令嬢…本来皆の手本となるよう育てられる存在です。常識があれば下位貴族以下のマナーもなくその他の教養も乏しい娘を他の貴族令息令嬢が集まる所に交ぜるなんて事はしないでしょうね。恥でしかありません」

「マナーくらいこれから学べばいいだろう」

「心が大海原のように広ければそう思われるかもしれませんが……礼儀のない対応を続けられれば不愉快です。品位のない行いは本人だけでなく関わる相手の価値をも下げます。教養のない相手との会話は退屈でしょう。どれか一つでもあれば違ったかもしれませんが…いえ、『他人の意見に耳を傾ける』素直さがあれば状況も少しずつ変わったかも。ですが、彼女にはどれもありませんでした。あるのは可愛らしいお顔とメリハリのあるお身体に殿方を喜ばせる手管のみ。親切心からの忠告も『意地悪』。それを見た男性陣も『醜い嫉妬』と便乗してくる始末。女性陣が関わりたくないと思うものも無理ない事かと。だって面倒臭いのですもの」

「…面倒……」

「マナーも授業があるにも関わらず入園して半年経つのに全くの進歩なし。いくら元平民とはいえ半年ですよ?カーテシー一つできないのは問題としか言いようが御座いません。これで成績が良いのなら『勉学に割いていて余裕がない』という言い訳も立ちますが…常に下から数えた方が早いご成績。マナーも勉学もそれ以外の教養も進んでいないのに……言い換えるなら『貴族としての義務は放り投げているのに権利だけは享受している』方と関わりたい人なんて周りが見えない愚か者だけなのですよ」

「……愚か者…」

あらいけない。口が過ぎてしまいました。やはり首ちょんぱでしょうか。そうなればウィル兄様に謝らなくてはなりませんね。

「…時間を取らせた。失礼する」

声を掛けてきた時の傲慢さすら感じさせる堂々とした態度はすっかり鳴りを潜め、萎れた花のような哀愁を漂わせる背中を見送った。


それからだいたい一月後の本日。

リリーアンヌ・ブランリュート元侯爵令嬢は退学となった。昨日ヴィオレッタ様が十六歳のお誕生日を迎えられ成人となり正式にブランリュート侯爵と認められた。するとどうなるか、婿養子でしかなかったブランリュート現侯爵様は元侯爵となり、夫人娘共々縁を切られ追い出されたのである。ブランリュート侯爵家はアントワネット様の血筋。万が一ヴィオレッタ様が不幸な事故に遭われて家督が継げなくなった場合は一時王家の預かりとなり親戚筋から後継者を選ぶ事となる。つまり、ブランリュート元侯爵はあくまで代理。老後も安定した生活が送れるかはヴィオレッタ様との関係次第。にも関わらず何故あれほど大きな顔をしていられるのか疑問であると社交界では常々囁かれていた。そして、ヴィオレッタ様が成人したら終わりだろうとも。それが現実となっただけである。

学園内はお騒がせの元凶がいなくなりずいぶんと落ち着いた。一部の男子生徒が針の筵状態となっているが自業自得。何人か名簿から名前が消えていたりもするが誰も気にしない。


平穏な学園生活を中庭で満喫しているとランディール公爵令息が再び現れた。そして、

「以前失礼な態度を取って申し訳なかった」

と頭を下げた。

直情的だと思っていたがその分素直でもあるらしい。まだ十五歳。失敗しても人の話を聞いて考えを改められるなら将来は明るそうである。

「頭を上げて下さいませ。私の方こそ失礼な物言いをして申し訳ありませんでした」

「いや、あれほどはっきり言ってくれなければ気づけなかっただろう。感謝している」

すっかり目が覚めたらしい。ランディール公爵も安心している事だろう。人にも自分にも厳しいが家族を大事にしている事でも有名だ。

「……その、君が家督を継ぎたくて他の兄弟を追い落としたという噂があるのだが実際の所どうなのだろうか」

あら、呼称が貴様から君になりましたわ。しかし、それ本人に直接訊ねる事かしら?

「家督を継ぎたくて追い落とした……そんな事をすれば私の両親は泣いて喜ぶ事でしょう。いえ、家族総出かもしれません」

「泣いて喜ぶのか?」

「ええだって、うちは代々誰が家督を継ぐ羽目になるのかで熾烈な譲り合いが行われていますので」

「熾烈な…譲り合い?よくわからないが、それならなぜ末娘の君が後継者に?」

「長男のゼオ兄様は魔法の素質があり『冒険者になって自分の限界に挑戦したい』と身一つで家を出ました。

次男のウィル兄様はウォールウィリー辺境伯に応援に行った際に辺境伯当主様の戦いぶりに感銘を受け、『ガイゼン団長について行く!』と辺境伯騎士団に入団しました。

長女のミラ姉様は隣国に留学した際に好きな方が見つかったらしくそのままあちらで学院を卒業し嫁ぎました。

次女のフィー姉様は皆様のご存知の通り第二王子殿下と婚約しておりますから当主にはなれません。

つまり、本来跡継ぎになる筈もない五人兄弟の末娘たる私が後を継ぐ他ないのです!

私個人としては養子を取ってその方が継いで下さっても何の問題も無いのですが…五人子どもがいて誰も跡継ぎにならないのは今まで血を繋いで来た歴代当主様達に申し訳が立ちませんので……というか陛下にお伺いを立てたのですが却下されたのですよねぇ…私に後継者としての能力が無ければ可能性があったらしいのですが一応ありますので。無いのはやる気だけですわ!」

「やる気がなくて大丈夫なのか」

「大丈夫です!うちは代々やりたい事がない者か最後の一人となってやむを得なくなった者が家督を継いでいますので!代々やる気が欠落しております!でなければ建国より絶えず血を繋いでいる我が家が子爵止まりな筈が御座いませんでしょう?面倒事は御免だと陞爵を断ってきたお陰で領地は増やされておりますがそれだけで済んでいるのです。これに加えて議会だなんだと呼び出されるなど堪ったものではありませんわ」

「その物言いは王族に対しても不敬だと取られかねないぞ」

「ええ自覚はしておりますけれども…家督を継ぎたくないから首ちょんぱして下さいと言っても応じて下さらないのですもの……」

「…死んだら好きなこともできないんじゃないか?」

「ですが、重苦しくて面倒臭い義務が私の代で終わるわけです。私は来世に懸けます!」

「いや、他の血縁者が継ぐだろう?」

「首ちょんぱの条件に爵位返上がありますから大丈夫ですわ!」

「なぜそこまで爵位が嫌いなんだ…」

「わかりませんが物心ついた頃にはすでに『貴族とは権利と引き換えに義務が付きまとう。窮屈』という認識でしたわね」

「そうなのか……君の家は建国から続いている名家だ。だが、それ以外の事が調べても大した情報が集まらない。だから不躾に訊ねたのだが」

「そうなのですか?特に隠すような事もありませんが…社交にほとんど参加しない上領地も辺境だからでしょうか?私がお答えしても構いませんが……ランディール公爵様に伺ってみては如何でしょう。我が家の当主は毎年陛下に謁見を申し込むのですが、その際必ず陛下の隣にいらっしゃいますから」

「父上が?」


帰宅後。父親に面会を申し込みアリスドール家の事を訊ねたが「明日王宮で陛下と王太子殿下を交えて話す」と言われ疑問ばかりが増える事となった。


次の日。

「アランよ久しいな。私的な場としているから畏まる必要はない」

シンプルだが最高品質の家具が配置されている室内には、国王陛下ーグランド、王太子ーアルフォード、ランディール公爵ーギルギア、ランディール公爵令息ーアランの四人のみ。侍従や騎士も人払いされていた。

アランはグランドとギルギアが疲れとも深刻とも異なる微妙な雰囲気になっているのが気になった。

「アリスドール子爵家の話だったな……」

陛下が切り出した。

「あそこは建国以来、国に利益をもたらし続けている」

「え?」

「あそこは代々やる気がないが…義務を果たす義理堅さは頑固なまでに持ち合わせていてな。そして、何かしらの才能に恵まれる者が多い。家を継がなかった者達も魔物の素材を融通したり、嫁ぎ先の国と我が国の交易路を開拓したり、新薬の開発、魔道具の発明…全ての功績を挙げるのは不可能な程だ。表立って子爵の功績となっているものはほぼないが」

「なぜですか?」

「本来はアリスドール子爵家が一度はその権利を手にするものなのだが…功績をその折々の子爵当主に持っていった親族達は、『豊かになった分増える仕事は誰がするのか。そんなに継ぎたいなら今すぐにでも手続きするぞ』と脅されたらしい」

「……それが脅し文句になるのですか?」

普通領地が豊かになれば嬉しいものではないだろうか。

「なるんだよ…あの家ではな。後継者争いどころか押し付け争いが代々あるんだ」

「押し付け争い……」

熾烈な譲り合いがどうとか言ってたが…押し付け争い…。

「後を継ぐなんてとんでもないと、慌てて王に謁見して権利ごと丸渡ししてくるから国としては潤っているんだが…利益にはそれなりの報酬を与えるべきだろう?だが陞爵しようにもな…王命を出しても逆に首を差し出してくる始末……何で生まれも育ちも貴族なのにあそこまで権力嫌いになるんだ………」

「…貴族相手にはやや品位が欠けますが金品での還元などは」

「それもな…『自分達が管理したくない事を押し付けているのに報酬など受け取れない』と断ってくるのだ」

「最早謙虚を通り越して無礼なのでは」

「本人達も自覚があるようで『なぜ今まで没落していないのか不思議でならない』と代替わりがある度に言われる」

「……無礼よりはるかに利益が勝ってるからなぁ」

「そうなんだよ。その癖他領が災害やらスタンピードやらで被害にあった時は真っ先に物資や人員派遣に動くしなぁ…その上支援が理由で自分達が貧しくなっても領民が誰一人文句を言わない。しばらく辛抱すればまた元の生活に戻るとわかっているんだ。まあ、アリスドール家からすると『支援が遅れた所為で一時的にでも領地の管理を任されたら堪まったものではない』というのが言い分らしいが」

「いっそ清々しいですね」

「あぁ、だが助けられた領地の者はそうは思わないだろう?仮令思惑を知っていても助けられた事実は変わらない。あいつら利子も取らないしな……議会にでて意見を言えば呆気なく過半数が子爵の意向に賛同するくらいの恩を振り撒いている」

「恐ろしいですね」

「全くだ。過去には反逆を疑った王もいたらしいが……『反逆?そんな暇があるなら執務室の植物達に話しかけた方が有意義だ』と返されたらしい」

「……王座が植物以下…………」

「それでもその代の王は疑って問い詰めたらしいが…『そんなに心配なら今すぐここで首を刎ねればいいでしょう。その代わり私が死んだ後植物の世話を代わりにする者の手配をお願いします』と言われてバカらしくなったそうだ」

「やはり植物以下………なぜ貴族なんです?」

「我が国最大の謎だ。とはいえ、建国以来、謀反もなく不正もなく利益ばかり貢献してくれているから王として感謝しかないのだが……毎年あの手この手で爵位返上を申し出て来るのがなぁ……それだけがなぁ……」

「しかし、それほど爵位が嫌なら子を作らねば良いのでは」

「『子ができない』を理由にすれば不名誉を被るのは夫人だ。あそこは恋愛であれ政略であれ代々夫婦仲は良好だからな…かといって一人だけにすると『絶対に継がなければならないという苦痛』を幼少期から味わう事になるから駄目に決まっているだろうと五代前の王が言われている。とりあえず、たくさんいたら誰か一人くらい『仕方ない』と受け入れる子がいるだろうという考えから代々子沢山だそうだ」

「…確かにフローレンス嬢も『仕方ない』とは言ってましたが」

「歴代そうやってどうにかこうにか血を繋いでいる」

「あの…単なる興味なのですが長子が継いだことはあるのですか?」

「ああ一度だけあったらしい。なんでも苛烈な押し付け争いの末決闘に発展しかけたらしくてな、流血騒動は後処理が面倒だと言った当時の当主によりじゃんけんで勝ったものとされ見事勝利してしまったらしい」

「じゃんけん…」

どこまでもぶっ飛んだ家系である。

「お前がいずれ王になった時はフローレンス嬢が相手だな…あの娘も食い下がる質だ。覚悟しておくといい」

「……婿養子に期待します」

「まだ婚約者が決まっていなかったな。学園での評判はどうなんだ?」

「次男、三男からちょこちょこ話題には上がっているようなのですが…愛想に乏しく見た目も華やかとは言い難いので積極的に声を掛けている者はいませんね」

「あの家は裕福だが、嗜好品にあまり金をかけないからな…贅沢できないと思われているのも一因かもしれん」

「学園での成績も常に十位以内には入っていて婿候補になりえる生徒より良い事も要因かもしれません。一部ではその事を妬んで勝手な事を噂している輩もいるようですね」

「選り好みする輩が多いな……若いから仕方ないと言えなくもないが…」

「…彼女は、そんなに人気がないのですか?」

意外だとアランが口にすると三人の視線が集まった。アルフォードが「意外なのか?」と訊ねる。

「華やか、とは確かに言い難いですが十分整った顔立ちでは?それに愛想はなくとも真っ直ぐこちらを見て話してくれるのは好感が持てます。少々率直過ぎる所はありますが、嘘や煽てがない言葉は信用できますし、やる気はなくとも義務を果たそうと勉学に励むのは尊敬できます。魅力は十分、だと、思ったの、です…が」

どうにか言いきったものの三人の視線の強さにたじろいでしまう。

「よし!明日一番にフローレンス嬢に婚約打診だ!」

「は!?」

「お前が婿になってくれるなら俺の代は安泰だ!頑張ってフローレンス嬢の心を掴んでくれ!」

「え、いや、」

「…アリスドール家か……まあ、爵位の話をしなければ付き合う分には益しかない。爵位は低いが歴史を考えれば不満も出るまい。完全なる中立派なのも都合がいい。婚姻と同時にアランに管理を任せる予定の領地をそのまま持たせるか」

「お、それなら本来渡す予定で却下された報償金も持たせよう。それにアランの真面目な気質が少しでも子に継がれればもしかするかもしれん」

「俺、彼女に失礼な態度を取ってたので嫌われている可能性の方が…」

「とりあえず当たって砕けろ!」

「そんな無茶な!」

ばっさり振られたら立ち直れない、と泣き言を言うアランに三人は好き勝手なアドバイスをした。


それから三ヶ月、アランは中庭に顔を出してはフローレンスに声を掛け続けた。一緒にお菓子を食べたり、お互いのおすすめの本を読んだり、課題について話したり実に微笑ましい交流を続けた。

「フローレンス嬢…」

「はい。アラン様はいつもセンスがありますよね。今日のお菓子もとっても美味しいです」

「そ、そうか!よかった。いや、そうではなくて」

下手にシチュエーションに拘っても失敗するだけだと散々言われて、いつも通りの交流の中で婚約の打診をしたい事を伝える事となった。が、いざその時になると予想の数十倍の緊張に吐きそうだった。

「つ、伝えたい事があって」

「何でしょう」

あまりにもいつも通りのフローレンスに「これは脈がないのでは」と弱腰になるが今日言えないならずっと言えない気もする。

「……だ」

「え?何ですか?」

「好きなんだ!…っその…政務が!」

今なんて言った!?馬鹿なのか俺は!せめて何か、何かこうもうちょっと何かあっただろう!?

「…………政務が好き…」

「いや、あの」

俯いて呟くフローレンスにアランが慌てて近づき弁明しようとして、

「なんっって素晴らしいのでしょう!!!」

勢いよく顔を上げたフローレンスに驚いて仰け反った。

「権利と義務にまみれた楽しいことなど一つもない、普段は誠実さと堅実さを求められ、時代によっては急に革新的な変化を求められる理不尽極まりない!政務がお好きだなんて!!!」

「…偏りすぎではないだろうか。やりがいのある仕事だろう」

「なんて真面目でいらっしゃるのでしょうか!是非、是非とも私の旦那様になって下さいませ!」

「だ、旦那様…」

満面の笑顔でプロポーズされてうっかり頷いたアランはあっという間にフローレンスの婚約者となった。そして、成人を迎えると同時にとりあえず婚姻届を提出し、卒業と同時に結婚式を挙げた。

アランは驚きの早さで隠居の手続きを済ませたフローレンスの父より当主の座を譲られ、慣れないながらも政務をこなし、フローレンスはそんなアランを支えながらも諦めていた植物研究を小規模からはじめた。


二人の子どもの内一人が『当主ってそんなに苦痛な仕事かなぁ。それなりにやりがいありそうだけど』という思考を持って生まれ、王族が諸手を挙げて喜ぶ事になるのはまだ先の話。


最後まで読んで頂きありがとうございます。


誤字報告ありがとうございます。

名前間違い。ビオレッタ→ヴィオレッタ訂正しています。



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― 新着の感想 ―
無事アランのDNAか反映されたようで、良かった良かったw そういえば、蛇に丸呑みされたマシューはどうなったのか、きになる。。。
>アランは驚きの早さで隠居の手続きを済ませたフローレンスの父より当主の座を譲られ ?????? ヴィオレッタもフローレンスも女性当主になるわけですよね? だとすればアランは養子になる必要がありません…
「後を継ぐ」なんてとんでもないと、慌てて王に謁見して権利ごと丸渡ししてくるから国としては潤っているんだが… この場合、家を継ぐって意味だから、「跡を継ぐ」の方では無かったかしら…
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