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《完結》とんでもない侯爵に嫁がされた女流作家の伯爵令嬢  作者: ヴァンドール


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84/85

84話

 ついに初孫がお出来になったラナウド伯爵のお父様は、なんでも領地で知り合った平民の女性と恋に落ち、今ではとても幸せに暮らしているという。


 私は、先日エマ先生と共に出産のお祝いを届けるためラナウド伯爵邸へと顔を出した際、そのお話を聞いた。


 伯爵のお父様は今ではすっかり気持ちも若返ったという。


「彼女のためにもせめて、あと三十年は頑張らねば」


 そう言って、今は領地でその方と一緒に畑仕事もなさっているらしい。ラナウド伯爵は笑顔で語った。


「あんなに生き生きとした父上を見たのは初めてだ」


 そういえばエマ先生のお姉様であるシャルロット様を亡くされてからずっとお一人を通されていた。

 そのお父様は、先日こちらにその女性と初孫のお祝いにいらしたという。そしてシャルロット様の肖像画をお二人で見ながらその女性はポツリと呟いたそうだ。


「とても素敵な方ですね。こんな素敵な方のあとでは他の誰かを愛することは難しかったのですね」

 

 それを聞き、ラナウド伯爵は静かに答えたという。


「いいえ、今の父上を見ていると間違いなく貴女を愛しているのが分かります」


 それを隣で聞いていたお父様は少し照れたように


「もう二度と誰かを愛することはないと思っていたよ。そう、君と出会うまでは」


そう仰ったそうだ。


 その話しを聞いて私は思った。


『人は幾つになろうと愛する気持ちは若い頃とは何も変わらないのだわ』と。そして老いるのは外見だけのことで、心は恋をすれば若い時と同じ、臆病にもなるし、その恋のために強くもなれる。それは、きっと誰にとっても同じなのだ。


 エマ先生は甥であるラナウド伯爵に向かって


「きっとシャルロットお姉様も天国で喜ばれているはずよ」 


 と、優しく微笑まれた。 

 

 そういえば、恐妻家だと噂されていた伯爵だが、赤ちゃんを抱いた奥様は、伯爵の隣で穏やかに微笑みながら、皆の話に耳を傾けていた。


 人の噂とは、本当に当てにならないものだ。

もっとも、二人きりの時はどうなのかしら?

……そのことは、今は考えないでおきましょう。


 そして伯爵の話の中で、私の弟である(血縁関係はないが)ジョンにもやっとお付き合いをしているご令嬢ができたと聞いたが、あの継母が例の如く、妨害をしていてジョンが困っていたという。

 確か継母は心を入れ替えたはずなんだけれどと思ったが、やはり一人息子を取られたと寂しい気持ちなのかもしれない。

 私は近々ジョンのところへも顔を出さなければと思わず苦笑してしまった。


 ラナウド伯爵邸の帰り道、エマ先生と私は馬車の中で色々な話をした。


「先生も是非、新しい恋をしてください」

 

 そう言うと、先生は少し考えてからおっしゃた。


「恋なんてしようと思ってできるものではないのよ。気づいたら恋をしていたというのが本当の恋だと思うわ」


 その言葉を聞き『私もまだまだだわ』と妙に納得してしまった。

 そして先生は静かに優しく微笑んだ。


「私はもう十分幸せな人生だったわ、だって貴女のお父様やルイノール子爵を愛せたのだから。

それにもう愛する人を失う悲しみは味わいたくないの」


 一瞬の沈黙のあと


「愛する人を失った時に、この世にこんなにも深い悲しみがあるのだと初めて知ったの」


 先生は、勿論お姉様や両親が亡くなった時もとても悲しかったけれど、それとはまた別の深い悲しみだったと言った。

 それでも最後は少し明るい表情で


「でも人は、いつ何処で新しい恋に落ちるかわからないものよ」 


 とも仰った。黙って聞いていた私にエマ先生はふと、微笑みながら尋ねた。


「もしかして今の会話、小説のネタになるって考えていた?」


 「……さすがは、私のお母様です」


 私は正直に、苦笑するしかなかった。


 そんな会話をしながら、いつか私にもそんな時が訪れてしまうのね。と、思った。


 こればかりは生きていれば誰もが平等に通る道。

 ただそれがあまりに早いとその悲しみはより深いのかもしれない。

 エマ先生はそんな早い別れを二度も経験なさったのだから、その悲しみは計り知れない。

 だから私は家族の健康を祈りながら後悔のない生き方をしようと心に誓った。


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