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84話

 ついに初孫がお出来になったラナウド伯爵のお父様は、何でも領地で知り合った平民の女性と恋に落ち、今ではとても幸せに暮らしているという。

 私は、先日エマ先生と共に出産のお祝いを届けるためラナウド伯爵邸へと顔を出した際、そのお話を聞いた。

 なんでも伯爵のお父様は今ではすっかり気持ちも若返り

「彼女のためにもせめてあと三十年は頑張らねば」

 と今は領地でその方と一緒に畑仕事もなさっていると聞いた。そして伯爵は

「あんなに生き生きとした父上を見たのは初めてだ」

 と喜ばれていた。そういえばエマ先生のお姉様であるシャルロット様を亡くされてからずっとお一人を通されていた。

 そのお父様は、先日こちらにその女性と初孫のお祝いにいらしたという。そしてシャルロット様の肖像画をお二人で見ながらその女性は

「とても素敵な方ですね。こんな素敵な方のあとでは他の誰かを愛することは難しかったのですね」

 とポツリと言われたそうだ。

 それを聞き、ラナウド伯爵は

「いいえ、今の父上を見ていると間違いなく貴女を愛しているのが分かります」

 と伝えたという。それを隣で聞いていたお父様は

「もう二度と誰かを愛することはないと思っていたよ。そう、君と出会うまでは」

 と照れながら仰ったそうだ。

 それを聞いた私は

『人は幾つになろうと愛する気持ちは若い頃とはなんら違いはないのだわ』と思った。そして老いるのは外見だけのことで心は、恋をすれば若い時と同じで臆病にもなるし、その恋のために強くもなるのだと感じた。

 エマ先生は甥であるラナウド伯爵に

「きっとシャルロットお姉様も天国で喜ばれているはずよ」

 と仰って微笑まれた。

 そういえば恐妻家だと言われていた伯爵だが、赤ちゃんを抱いている奥様は伯爵の隣で優し気に微笑みながら皆さんの話を聞いていた。

 人の噂とはあてにならないものだと思った。もっとも、お二人になったら違うのかしら? ということは今は考えないでおこう。


 そして伯爵の話の中で私の弟である(血縁関係はないが)ジョンにもやっとお付き合いをしているご令嬢ができたと聞いたが、あの継母が例の如く、妨害をしていてジョンが困っていたという。

 確か継母は心を入れ替えたはずなんだけれどと思ったが、やはり一人息子を取られたと寂しい気持ちなのかもしれない。

 私は近々ジョンのところへも顔を出さなければと思わず苦笑してしまった。


 ラナウド伯爵邸の帰り道、エマ先生と私は馬車の中で色々と話しながら

「先生も是非、新しい恋をしてください」

 と言うと先生は

「恋なんてしようと思ってできるものではないのよ。気づいたら恋をしていたというのが本当の恋だと思うわ」

 と仰った。それを聞き『私もまだまだだわ』と納得していた。

 そして先生は

「私はもう十分幸せな人生だったわ、だって貴女のお父様やルイノール子爵を愛せたのだから」

 と言われ

「それにもう愛する人を失う悲しみは味わいたくないの」

 とも仰った。それから私に、愛する人を失った時に

「この世にこんなにも深い悲しみがあるのだと初めて知ったの」

 と言ってから、勿論お姉様や両親が亡くなった時もとても悲しかったけれど、それとはまた別の深い悲しみだったと言った。

 そして最後は明るい表情で

「でも人は、いつ何処で新しい恋に落ちるかわからないのだけれどね」

 とも仰った。それを黙って聞いていた私にエマ先生は

「もしかして今の会話、小説のネタになるって考えていた?」

 と聞かれ正直、苦笑してしまった。

「流石は私のお母様」


 そんな会話をしながらいつか私にもそんな時が訪れてしまうのね。

 こればかりは生きていれば誰もが平等に通る道。ただそれがあまりに早いとその悲しみはより深いのかもしれない。エマ先生はそんな早い別れを二度も経験なさったのだからその悲しみは計り知れない。

 だから私は家族の健康を祈りながら後悔のない生き方をしようと心に誓った。


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