82話
エマ先生のお屋敷に行ってから一週間ほど経った頃、先生から
『陛下と私、そしてリリアーナ王女とラナウド伯爵に集まってほしい』との連絡があった。
私はルイス様のご都合を聞いてからエマ先生へと手紙を出し、明日の午後、王宮での話し合いが行われることになった。
そして話し合いの当日、五人が揃った。
まずはエマ先生が何故集まってもらったかを説明し始めた。
次にリリアーナ王女にエマ先生は
「ラナウド伯爵より、王女様から王配になってほしいと言われたと相談を受けました」
と仰ってからリリアーナ王女に
「そのことについては事実で間違いはありませんでしょうか?」
と尋ねられた。するとリリアーナ様は
「はい、間違いありません」
とお答えになった。その会話はまるで裁判で行われる尋問のように始まった。そして先生は続けて
「ラナウド伯爵が王配になられ、他国へ行くということは廃絶を意味することをご理解しておられますか?」
と問われた。するとリリアーナ様はルイス様に
「そうならないよう陛下にお力添えをお願いしようと思っていたところです」
と言われた。そしてリリアーナ様は
「わたくしたちが婚姻して子供ができるまで王家で伯爵位を預かっていただけないでしょうか?」
とルイス様に言われ、ルイス様は
「立憲君主制になった我が国は王の権限でそのようなことはできない、やってはならないことだ」
と仰った。私は心の中で『当然そうなりますよね』と思った。
リリアーナ様の国は絶対王政なのであまり理解はできていないようだった。なのでルイス様は
「リリアーナ王女の国では国王の権限で特例としてできるだろうが、我が国では全ては議会が決定権を持つ。なので特例はまず認められないだろう」
と言い聞かせた。すると今度はラナウド伯爵が
「どうかリリアーナ王女、ご理解ください。私は父、いや、先祖代々受け継いだこの爵位を守っていかねばなりません。自分の意思は二の次なのです」
と告げた。するとがっくりと肩を落とし、言われた言葉に驚いた。
「これはアンリ様が初期に書かれた小説の中にあった『貴族の恋は必ずしも愛する人と結ばれるとは限らない』ということなのですね」
それを聞いた四人は口をポカンと開けてしまった。
リリアーナ様はまるで悲劇の主人公に浸って満足しているようにも見えた。
そしてリリアーナ様は
「仕方ないですわね。それではわたくしは愛する方の為に身を引きますわ。そして次の恋を探すことにいたします」
と言われた。
それを聞いて私は思い出した。
最初はルイス様を慕い、次にクリス様、そして今回はラナウド伯爵。
つまりは諦めも早いということを。そういえば元々執着しない方だったわ。
ただ何故か私の小説にだけは、長く親しんでくれているのが不思議に思えた。そして
『ああ、それは私がリリアーナ王女を否定しないせいだからだ』
と理解した。そう、彼女は否定されたことへの諦めは早いポジティブな方なのだ。
もしかしたらリリアーナ様は私の小説を恋愛の参考書とでも思っているのかもしれない。
こうして一瞬で嵐になる前に全てが解決をした。そして私は
『余計な心配だったようで良かったわ』と胸を撫で下ろしたのだった。
その後、リリアーナ様はあっさりと自国へと戻られた。
しかし、その時最後に残された言葉が気になった。
「それでは皆様、次はオリビア王女の結婚式でお会い致しましょう」
と言われてから
「わたくしもその時は素敵な殿方と出席致しますわね」
と仰った。私はやはり
『思った通り、切り替えの早い方なのね』と納得していた。
残された私たちは
『あの心配はいったい何だったのかしら』
と呆気にとられていた。




