78話
朝食を取るため二人で下へ降りると、もう既に皆様がお揃いで朝食を食べていた。
北の国王は
「昨夜からだいぶお疲れのようなので、先に朝食を頂いてしまいました」
と意味深な言い方をされ、恥ずかしくて俯いていたらルイス様が
「それは勿論、新婚なもので。それよりオリビア嬢とクリス殿はどうなさいましたか?」
と尋ねると、急に不機嫌になられて
「なんだか二人で朝の散歩をしてから食べると言っていたが」
と答えた。
それを聞いた私とルイス様は、散歩というより毎日ブドウの木の観察を日課としているクリス様にオリビア様がついて行っただけなのを知っていたが、あえて言わずにおいた。
私とルイス様は朝食を食べるためテーブルにつくと、そこへ噂をすれば何とやらで、オリビア様とクリス様が戻っていらした。
オリビア様は私に
「昨日はお疲れになられたでしょう? もう少し休まれていればよろしいのに」
と言われたので私は
「いいえ、よく眠れましたので大丈夫です」
と答えていると、ちょうど朝食が運ばれてきた。なぜかもうとっくに召し上がり終わったオリビア様のお兄様である北の国王も、そのまま席についたまま、メイドに
「紅茶のおかわりを頼む」
と言った。私は心の中でルイス様から聞いていた『シスコン』という言葉が頭をよぎった。なので私は皆様の前で
「クリス様、先日は我が弟の領地のブドウ木をカビ菌から守っていただきありがとうございました。クリス様がいらっしゃらなかったら全滅するところでした」
と感謝を述べた。するとクリス様ではなくオリビア様が
「お兄様、お聞きになって? クリス様はすごいのですよ」
と得意気だ。そこでルイス様が援護するように北の国王に
「オリビア嬢に提案したのですが、クリス殿の今までの研究を特許の取れるものは全て取り、それを各国へ提供したら国として大きな利益と尊敬を得られますな」
と付け加えた。そしてオリビア様は
「お兄様、わたくしそれを全て論文としてまとめましたので、国に帰ったら特許法に則り申請いたしますわ」
と言った。国王はムッとしながらも
「まあ、確かに国としては有り難いことだがな」
と答えた。したり顔のオリビア様は私にアイコンタクトを取った。そして兄に向かい
「お兄様、権利は全てクリス様のものです。そこは分けてお考えください」
と中々強気だ。すると国王はバツが悪そうに席を立ち
「私は部屋で着替える、オリビア、お前も国に帰る支度をさっさとしろ」
と言って出て行かれた。まだ紅茶も飲んでいないのに。
残った私たちは『やったわね』と顔を見合わせた。しかし、クリス様は黙々と食事をなさっている。私は内心『このお二人、本当に大丈夫かしら』と心配になった。
今度はそこへ、リリアーナ王女が
「皆さん、お相手がいてよろしいですわね。なんだか楽しそうですわ」
と呟いた。私は
「リリアーナ様、お父様はご一緒ではないのですか?」
と聞くと
「お父様は仕事が忙しいと朝早く発ちましたわ」
と答えたので、すかさず私は
「でしたらリリアーナ様はもう少しゆっくりなさっていかれたら宜しいのに」
と誘うと、とても嬉しそうに
「え? 宜しいのですか?」
と聞かれたので、私は
「勿論です。前回はあまりご一緒出来ませんでしたから、今回は色々と案内させてください」
と、答えた。今回のリリアーナ王女はかなり素直になられていて少し驚かされた。そして
「では、お言葉に甘えて宜しくお願いします」
と返された。すると今度はルイス様が『コホン』と咳払いをした。私は内心『意外と大人気ないわね』と思い苦笑した。
そしてオリビア様とクリス様は一旦自国へ国王と共に帰ることになった。私たちはしばしの別れを惜しみながらも
「頑張ってくださいね!」
と言って送り出した。