77話
いよいよ結婚式当日を迎えた。私は朝早くからロザリーさんや侍女の方たちに念入りに磨かれた。
そして扉の外ではルイス様が待っている。何度もノックをしては、その度にロザリーさんに
「もう少しお待ちください」
と言われている。私が
「そろそろ中に入ってもらっても大丈夫です」
と言うと
「まだです。完璧に仕上がるまでもう少しお待ち下さい」
と譲らない。それからまたノックをする音が聞こえたが、今度はロザリーさんは無視を決め込んでいた。そしてようやく許可が出て、ルイス様が中へと迎えに来て私を見ると、とても驚いた表情で固まっている。私は
「ルイス様、お待たせして申し訳ありませんでした」
と謝ると
「綺麗だ。とてもよく似合っている」
と褒めてくださった。私も
「ルイス様も素敵です」
と言ったが、まだ固まっていた。
そうして私たちは屋根のない馬車で王都にある教会へと向かった。沿道には大勢の人たちが溢れかえり、感嘆の声を上げていた。
教会に着くと神父様がいらして、私たちは大勢の人たちに囲まれながら神父様により誓いの言葉を述べた。そしてその後、ルイス様は私のベールを上げ、緊張している私にそっと誓いの口づけをした。
教会での式を終えた私たちは今度はパーティのため、また王宮へと戻りながら沿道の人たちに手を振った。
そしてようやくパーティが始まると、親しい人たちに囲まれて沢山のお酒を次々と注がれた。
その中にはオリビア様とクリス様、そしてリリアーナ王女の姿もあり、皆が心の底からこの結婚を祝ってくれているのを感じ、幸せに浸っていた。
ふと見るとオリビア様とクリス様の間に割って入ろうとしている一人の紳士の姿があり『きっと、あの方がオリビア様のお兄様ね』と微笑ましく感じた。
そして私はまだ皆様へのご挨拶から戻られないルイス様を待たずにオリビア様の側に行き、そのお兄様に
「お初にお目にかかります」
と言って自己紹介をしてから
「遠いところお越し頂き感謝いたします」
と、続けて
「オリビア様とクリス様の結婚式で北の国へお邪魔できる日を心より楽しみにしています」
と伝えると急にムッとしたお顔をなさったが、すぐにそれを隠すように
「未だ何も決まってはおりませんが、是非我が国にも陛下とお越し下さい。楽しみにしています」
と返された。すると後ろでオリビア様が嬉しそうに私にアイコンタクトを取った。
それから楽しく皆で歓談をしてから次の方にご挨拶に向かった。
大勢の方々の祝福の言葉を聞きながらパーティはとても盛り上がっていた。しかし私は疲れもあってか、酔いが回ってきたのでバルコニーに出て少し休んでいると、大勢の人たちに挨拶を終えたルイス様が迎えに来てくださり、私たちは先に会場をあとにした。パーティは夜通し行われるというが、新郎新婦は適当なところで退室するものらしい。
私たちは二人の寝室へ向かいながら、私が先程の北の国王とのやり取りを話すとルイス様は
「随分と大胆な行動を取ったな」
と仰ったので
「不味かったでしょうか?」
と心配すると
「いいや、その会話の時の国王の顔が想像できて可笑しいだけだ」
と笑っておられた。そしてルイス様が国王に挨拶された時もクリス様のことを誉めると、やはり複雑そうなお顔をなさったと言う。
そんな会話をしながら、二人の寝室に着くと、着替えのために侍女たちが入ってきたが、ルイス様は
「あとは私が手伝うから大丈夫だ」
と言って侍女たちを帰してしまわれた。私は
「ルイス様、本当に大丈夫なのですか?」
と聞くと
「なんとかなる、それより早く二人きりになりたかっただけだ」
と言われ、私は思わず恥ずかしくて黙ってしまった。
そしてルイス様は私をバスルームに連れていき一緒に湯浴みをしようとしたので
「無理です。侍女を呼んでください」
と言うと
「大丈夫だ。私がやるから」
と言いながら、私のドレスを脱がし始めた。私はもう観念してそのままお任せした。
そうして恥ずかしがる私を丁寧に洗ってくださり、一緒にバスタブに浸かりながら今日一日を振り返った。そして後ろから肩を抱かれ、背中の傷に優しく口づけをした。
それから私を抱きかかえ、ベッドの上に降ろされると、何度も口づけをしながら優しく抱かれた。
最後まで愛おしい気に抱かれた私は初めての痛みを感じたが、それも一瞬で過ぎ、酔いも手伝ってか、いつの間にかルイス様の腕の中で眠りに落ちていた。
朝日がカーテンの隙間から差し込み、目を覚ますと、隣にはまだ目覚めないルイス様が、小さな寝息をたてていた。このところずっと忙しくしていたのでかなりお疲れのはずなので、私はもう少しそのままルイス様の顔を見つめていた。
しばらくすると目を覚ましたルイス様は
「いつから起きていたのだ?」
と聞かれたが
「ほんの少し前です」
と答えると
「私は随分前から起きていたがな」
と仰ったので、思わず
「寝たふりだったんですか?」
と怒ると
「すまんすまん」
と笑顔で謝るものだから、なんだか私も笑ってしまった。そして『こんな幸せもあるんだわ』と、改めて感じた。
私はこんな幸せな日々がこれからもずっと続きますようにと願わずにはいられなかった。そしてそんな余韻に浸っているとまた後ろから抱きしめられ、昨夜の続きが始まってしまい、私の抵抗など、ないに等しかった。