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76話

 私はどうしても結婚式の前に報告も兼ね、亡くなった方たちのお墓参りをしておきたくて、エマ先生に付き合ってもらった。

 勿論、護衛の方もつけられていたが、今日は気を利かせて遠くで見守ってくれている。

 まずは私を育ててくれた父とその妻が眠るお墓だ。そのお墓にはもう一人、私が会ったことのない、本来なら私を育ててくださったお父様の本当の子も眠っている。

 お墓に着くとそこにはまだ真新しい花束が手向けられていた。

 きっとジョンと継母が訪れたばかりなのだと思った。

 あれ以来、継母は別人のように、時には優しささえ感じさせた。あの時『気づくのが遅かった』と後悔なさっていた姿が思い出された。 

 そして継母なりに亡くなった私の育ての父のことを本当は愛していたのだとわかり嬉しくも感じた。

 愛とは色々な形があるのだなと改めて思い、私は少なくとも後悔だけはしない愛を貫こうと思った。

 とことんその人を愛して、もしそれがだめだったとしたらその時に諦めればいい。前の私のように途中で諦めていたら後悔を引きずりながら生きていくことになってしまう。だったらとことん自分が傷ついても納得するまで愛した方が、愛が一方通行だった時に、やるべきことは全てやったという達成感でさっぱりと諦めがつくと感じた。

 それを教えてくださったエマ先生にも感謝を伝えたい。

 そんなことを思いながら私は花を手向けた。そして私を実の娘として育てて欲しいと言ってくださった、会ったことのない母へも感謝を伝えたい。

『貴女の優しさが今の私とそしてエマ先生に幸せをもたらしてくれました』と。それから

『今の私があるのは貴女のおかげです。本当にありがとうございました。お陰で幸せをつかむことが出来ました』と手を合わせ、しばらく佇んでいた。

 そしてもう一人、この世で生きることができなかった赤ちゃんには掛ける言葉が最後まで見つからなかった。

 私はただその赤ちゃんにご冥福を祈ることしかできなかった。そしてそれをエマ先生に伝えると

「それは私も同じ気持ちよ」

 と仰った。

 その後、私達は「また来ます」 

 と言って、その場を後にした。

 その次に訪れたのは実の父のお墓だ。

 会ったことはないが、小説を書く楽しさを教えてくれ、ルイス様と出会うきっかけを与えてくださったことに感謝をした。花を手向けながら『おかげで愛する人と一緒になれました。お父様のお陰で諦めかけた私を、ルイス様が引き留め、愛を伝えてくださいました』と心の中でお礼を伝えた。 

 だってルイス様はお父様の書いた本にかなりの影響を受けたと仰っていたもの。

 それから最後はエマ先生のお姉様のお墓だ。

 すると驚くことに、そこには偶然にもその息子でもあり、私の従兄でもあるラナウド伯爵がいらしていた。

 あれ以来だったので少し気まずかったが、伯爵は

「ありがとう。わざわざ来てくださったのですね。きっと母も喜んでいます」

 と仰ってくれた。そして

「結婚、おめでとう」

 とも言ってくださった。私は

「ありがとうございます」

 と一言返すのが精一杯だった。 

 でもあの日とは違うどこか晴れ晴れとしたご様子だった。そして突然

「これからは従妹として宜しくお願いします」

 と言ってくださった。私も

「こちらこそ宜しくお願いします」

 と返した。そんなぎこちないやり取りを見ていたエマ先生は

「従兄妹同士の関係になるにはまだ時間が必要みたいね」

 と仰った。そして私は花を手向けてその場を離れたが、ラナウド伯爵はもう少しここにいるからと一人残っていらした。

 帰り道、エマ先生は 

「彼も少し、大人になったみたいね」

 と呟いた。私は黙って聞いていた。

 エマ先生は

「いよいよ二日後に迫ったわね。どう?緊張しているかしら」

 と聞かれ、私は

「はい、かなり」

 と言うと

「確かに普通の方との結婚とはだいぶ違うもの、当然よね」

 と言って

「だけど本当に好きな者同士が一緒になれるのだからこれ以上のことはないわ」

 と続けた。そして

「母親らしいこともできず、その上貴女の身体に傷をつける原因まで作ってしまいごめんなさい」   

 と謝られた。私は

「何度も言いますが、これは先生のせいではありません。それより一度だけでいいんです、一言言わせてください。お母様、今まで本当にありがとうございました」

 と言うと、先生の瞳には涙が浮かんでいた。そして

「必ず幸せになりますから、どうか心配しないでください」

 とだけ伝えさせてもらった。それを聞いた先生は静かに微笑まれ、目には涙が光っていた。




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