75話
もうすぐ結婚式というある日、オリビア様が私の部屋を訪ねて来られて
「お兄様が陛下の結婚式に参列するためこちらの国に来るのだけれど、結婚式が終わったらわたくしに一緒に北の国に帰るようにと手紙がきたの」
と言ってきた。私は
「だってアカデミーはまだ卒業ではないのですよね?」
と言うと、元々は陛下と結婚させるための留学だったので、もう必要ないと言われたらしい。
でしたらクリス様も一緒に帰られて自国での結婚ということですか? と質問すると、お兄様がクリス様とのことを認めてくださるかわからないという。
そこで私は、先日言っていたクリス様の今までの研究についての論文をもとに、特許をとってから各国への出版物を輸出するという件はどうなっているのか尋ねると、オリビア様は概ね出来上がっていて、あとは申請をするだけだと言う。だったら何んの問題はないのでは? と思い
「いくらお兄様だって認めざるを得ないはずですから、もっと自信を持って下さい」
と伝えた。
いつもは自信に満ち溢れた方なのに、愛とはこんなにも人を臆病に変えてしまうものかと改めて思った。しかし、逆に強くする力を持っていることも知っている。だから私はオリビア様に
「ここで勇気を出さなくていつ出すのですか? クリス様のためにもここが頑張りどころです」
と言わせてもらった。するとオリビア様は
「そ、そうよね。ここまで頑張ってきたのだから無駄にはしないわ」
と言った。そしてルイス様の言っていた『北の国王はシスコンだ』ということを思い出していた。
私はオリビア様に、もしもお兄様がお許しにならなかったら、クリス様とこちらの国で暮らすと言ってみてはと進言させてもらった。
するとオリビア様は
「それはとても効果的だわ」
と喜んでくれた。確かにクリス様という貴重な存在を他国に取られたくはないはず、心の中ではクリス様のことを誰よりも認めているとルイス様からも伺っていた。
そして何よりシスコンの兄は妹を側におきたいはず。
オリビア様は部屋を訪ねて来た時とは別人のようにやる気に満ち溢れ
「やれることは全てやってみるわ」
と言って出て行かれた。
そして入れ替わるようにルイス様が尋ねていらして
「オリビア嬢が来ていたようだが?」
と聞かれたので、たった今話した内容を伝えると
「それは名案だ。きっとオリビア嬢がこちらに来てから寂しくて仕方ないのだろうからな」
と言ってから
「同じきょうだいでもうちとは大違いだ」
と寂しそうに言われた。
兄である元国王はこれからも生涯北の塔に幽閉され続けるのだから。
その話には、かける言葉が出てこなかった。でもルイス様はそのことは既に吹っ切っているようにも感じた。
「さあ、もうすぐ待ちに待った結婚式だ。その前に、やれることは早く片付けないとな」
と言って仕事に戻られた。
『? 一体何の用だったのかしら』