7話
侯爵邸に戻ると早速に旦那様がやって来て
「それでどうだった?」
と聞いてきたので
「きちんと口外はしないようお約束はしていただきましたが、王宮はいくらなんでも不味いと仰ってました」
と言うと、確かにご自分でもそう思われていたようですが、どうしてもとマリアさんにせがまれて断れなかったようです。そして
「そういえばそのエマ先生という方には娘さんがいるのか?」
と聞かれたので
「どうしてそんなことを?」
と尋ねると
「いや、昨夜王宮で隣りにいた女性がだな、いや、なんでもない」
と何だか歯切れが悪くて苦笑してしまった。
そんな会話をしていると、怖い顔をしたマリアさんがやってきて
「随分と楽しそうね」
と嫌味を言ってきた。
すると旦那様は
「分かってるだろ? 私がこんな外見の女性に興味がないことくらい」
と言ってのけた。
するとマリアさんは満足気に微笑んだ。私は
「はいはい、承知致しております。では失礼致します」
と部屋を後にした。
扉を出るとリサが控えていて、
私室に戻りながら
「その眼鏡と前髪をとって見せて差し上げたいです」
と呟やいてくれた。私は
「それだけで十分よ」
と返した。
そして着替えをする時は声をかけて欲しいと頼まれたが、私のドレスは普段使いの物ばかりだから一人で大丈夫よと言うと、それでも声をかけて下さいと言われてしまった。
どうやら今朝、一人で着替えて出かけたのがいけなかったのかしら? と思いながら、何だかこちらに来てから全てが変わってしまい、まるでお父様が生きていらした時のようだわと懐かしく思い出していた。
その後、私は執筆活動に励みながら、先日ラミナさんが口にした貴族らしき作家さんの書いた本を手渡されたのを思い出し、鞄の中から取り出した。
そして、休憩を取ってる時にどんな内容なのかと読み始めた
『何々、題名は{公爵令嬢の裏事情}もしかして本人が書いてたりして』
と心の中で呟きながら読み進めた。
しばし、集中してあっという間に読み終えた。
短編小説なのだが、とても読み応えのあるものだった。素直に面白いと思えるもので、思わず主人公に自分がなった気分にさせられた
『勉強になるなー』
と一人言を言いながら、自分の作品に取り掛かかった。
暫くするとリサがお茶のご用意をしましたが、いかがなさいますかと聞いてくれたので
「ちょうど喉が渇いていたの。ありがとう」
と言ってお願いした。そして
「いつも何か書かれているようですが、小説ですか?」
と聞かれたので
「暇つぶしに書いてるだけよ」
と言ったら
「出来上がったら是非読ませてください」
と言われたが
「駄目よ、恥ずかしくて人に見せられるようなものではないもの」
と返した。すると
「残念」
とひとことだけ言われた。
何だかリサとの会話は心が和むなーと言うと、顔を赤らめて喜んでくれた。
そして私は、先ほどまで読んでいた小説をリサに見せて
「これでも読んでみる?」
と言って本を手渡すと
「やだー奥様もこの本読んでいるんですか?」
と喜んでいる。
そしてリサはこの作家の本は全て読んだと言って、その為に働いているようなものですと、冗談か本気か分からない受け答えをした。
私は心の中で
『そうかーそんなに人気の作家さんなんだ』
と呟いた。
そして私も頑張らなくてはと気合いを入れてまた書き始めたのだった。




