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68話

 この日、わたくしは朝から怒っていた。

「まったくお父様ったら、いくらお忙しいからってわたくしをおいて、さっさと帰ってしまわれるなんて信じられないわ」

 お父様は

 『北の国の王女も味方についてるようだし、何より陛下本人に脈がない。諦めろ』

 だなんて。それでもわたくしの父親なの? そんなことくらいでわたくしが引き下がるとでも思っているのかしら。今に見てなさい。伯爵令嬢なんかにこのわたくしが劣るなんて、絶対にありえないのだから。

 それにしてもこの国の男性ときたら、見る目がないわよね。わたくしの国ではすれ違うたびに皆このわたくしを振り返るというのに、どういうことかしら。

 そういえばあのオリビアとかいう王女のお相手、なかなか寡黙でわたくし好みだったわ。なんならあの方でもいいわ。確かクリス様といったかしら。

 あの王女、わたくしに自分の相手がなびいたらどんな顔をするのか見ものだわ。まあ、見てなさい、そのうち後悔させて差し上げますわ。

 そしてわたくしは王宮にいる、わたくし付きの従者に案内をさせて、クリス様の研究室を訪ねた。なのにクリス様はわたくしに一切気づかず黙々と作業をしていた。 


 そこへ運がいいのか悪いのか、オリビア王女とルイス陛下にアンリ嬢までもがやって来た。

 理由はジョンの治めている領地のブドウの木について、クリス様に呼ばれたからだった

 部屋へと入って来た三人は、中にいたリリアーナ王女に驚いていた。しかしクリス様は王女がいることさえ気づいていないようだった。なので三人もリリアーナ王女をスルーした。


 「クリス様、お話があると聞き参りましたが」 

「あ、気づかず申し訳ない。実は伯爵領のブドウの木のことだが、先日見に行ったところ、あの木はフィロキセラではなくカビの一種で『べと病』というものだ。農薬の中でも殺菌剤が入ったものが有効と思われる」

 と言われ

「なので、それを散布すればなんとかなります」

 と言われた。それを聞いて私は

「ではそう長くはかからないのですね」

 と喜んだ。

 そこで四人の目が初めてリリアーナ王女へと向けられた。

 王女は

「なぜわたくしを無視なさってるのです?」

 と言うので、ルイス様が

「どうしてここに?」

 と聞くと、リリアーナ王女は

「ど、どうでも良いでしょう。このわたくしがクリス様とお付き合いして差し上げてもいいと伝えに来ただけなのですから」

 と言うと、珍しく無口なクリス様が

「は? 私は貴方のことを好きでも嫌いでもありません。何より興味もありませんのでどうぞお引き取りを」

 と言ってしまった。皆んなで顔を見合わせて、心の中は同じ思いだった。(だったらまだ嫌いと言われた方がまし)だと。それなのにリリアーナ王女は

「まあ、嫌いでないならそれでいいわ」

 と言って

「今日のところはこれで帰って差し上げるわ」

 と言って出て行った。残された四人、いや三人は呆然としていたが、クリス様は淡々と

「これが殺菌剤です。硫酸銅と生石灰の混合液が入っています。これを散布してください」

 と言って渡してくれた。私はお礼を言うのも忘れそうなくらい驚いていたが

「ありがとうございます。すぐに領地に届けて参ります。どんなにジョンが喜ぶことか」

 と言って受け取った。そして

 三人はこれからどうなるやらとため息を漏らしていた。

 オリビア様は

「今度はクリス様に乗り換えようだなんていい度胸をしているわ」

 と物騒なことを考えているお顔をしていた。

 しかしクリス様は既に次の作業に取り掛かっていた。

 ルイス様は

「やれやれ、私はどうやら解放されたようだがクリス殿が巻き込まれてしまったようだ」

 とまた、ため息を漏らした。

 

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