66話
今日はラミナさんとソラさんに今まで起きた全ての出来事を打ち明けるため公爵邸へと来てもらった。
後でエマ先生もいらっしゃるので全ては先生がきてから打ち明けることにした。
しばらくするとロザリーさんがエマ先生の到着を知らせてくれた。四人で顔を合わせるのは随分と久しぶりなので、私たちは久しぶりの再会を喜び、会っていなかった間に起こった様々なことを話した。
それは陛下が王弟殿下だった頃に頼まれて書いた小説の話から現在に至るまでの話を私とエマ先生と代わる代わる(かわるがわる)話した。
流石にかなりの驚き方をしていたが、最後にソラさんに
「ということはアンリ先生は王妃様になるということなのですか?」
と聞かれ私は照れながら
「ええ、結果的にはそうなるのかしら」
と答えた。するとソラさんは
「それではこんなお側でお話なんて畏れ多くてできなくなりますね」
と言うので
「私たちの関係性は今までと同じ、何も変わらないわ」
と言ったらラミナさんが
「いくらなんでもそうはいかないわ」
と言うので
「だったらせめてこの四人で会う時だけでも今まで通りでお願いします」
と頼んだ。そしてエマ先生も口添えをしてくださり、このメンバーで会う時だけは今まで通りということにしてもらえた。
そしてずっと隠していたことを謝るとラミナさんは
「それに関しては怒ってなんかいないわ。だって二人は私たちを厄介事に巻き込みたくなくてしてくれたことだもの」
と言ってくれた。そして私はルイス様と結婚しても小説は書き続けると伝えたらかなり驚いていたが
「貴女ならそういうと思っていたわ」
とも言われてしまった。それから茶目っ気たっぷりに
「これからもうちの出版社を宜しくね」
とも言われた。私は
「勿論お願いします」
と返した。その後、私の作品の話しになると、驚いたことに隣国でも私の小説が発売されているという。ラミナさんは
「あなたに報告すべきだと思ったのだけど、忙しそうだったのでごめんなさい、事後報告になってしまったわ」
と謝られた。もっとも、私がラミナさんのいる出版社との最初の契約で、会社の判断に任せる項目にサインをしているので問題はなかった。それよりも驚いたことは、私の作品が隣国でも人気だと言われたことだった。
この時代では書籍の大量生産も可能になり、外国の書籍も広く流通し始めた頃だった。言葉の違いがある国へは翻訳した書物も流通し、買うだけではなく貸本屋も広く影響力を与えていた。
これほど自由に流通できるようになったのも全ては国王が代わり、国の在り方そのものが変わったせいでもある。
そんな中で、私が今書いているシリーズ物の作品が特に人気があると聞いて嬉しく思った。
ラミナさんは
「あなたの表現力が最初の頃と比べて格段に上がったわ。それに心情の種類も随分と増え、読者の心に響いているのよ」
と言ってくださった。そして
「芸術家もそうだけど、例えば画家だって初期の作品と後期の作品には皆違いが出てくるのと同じよ。音楽家だってそう、初期に比べたら音色によく言われる深みが増すとかね」
と言った。
それを聞いて思わず私は
「それって熟成をしていくワインのようですね」
と言うと、今度は思い出したようにエマ先生が
「ワインで思い出したのだけど、先日ジョン君がたまたま貴族会で会ったうちの息子に、ブドウの木が害虫の被害にあって領地の半分くらいの木がだめになってしまったと肩を落としていたそうよ」
と言われた。
私はすぐにでもジョンの手助けをしなくてはと思った。
それはエマ先生も同じで、私を本当の娘のように育ててくれた人の息子だもの。それに継母は憎いけれど、ジョンは私を育ててくれたお父様と同じでとても優しい子だから、なおさら助けてあげなければと思った。
私はお屋敷に帰り次第、先触れをロザリーさんにお願いして送ってもらおうと思った。継母には会いたくないので、公爵邸に来てもうようにしなくては。
その後は皆さんで軽めの食事を共にして
「今日はとても楽しかった」
と言ってくださり、今後の私の作品がどんな進化を遂げるか楽しみだと言ってくださった。それは私自身も感じていたことだった。
自分で自分の先が楽しみに思える幸せをくださった多くの人たちに感謝をしたかった。そして検閲のことも気にせずに自由に表現できる今のこの国を築いてくれたルイス様にもそのことを伝えたいと思った。
最後にエマ先生が茶目っ気たっぷりの笑顔で
「私の甥は貴方に振られてしまい落ち込んでいるでしょうから私が励ましておくから心配しないで」
と言ってお帰りになられた。
それを聞き私は『ラナウド伯爵にもいつか感謝を伝えられたら』と思うのだった。




