62話
早速、城へ戻った私はすぐに宰相たちを呼ぶよう指示をした。宰相は大臣と共にやってきて私に事の詳細を報告した。
それによると、先王を崇拝していた一部の貴族が監視兵を買収して東の国への亡命をだいぶ前から企んでいたという。
東の国は絶対王政の国で、先王が在位していた頃から親交があった国だが、今更先王の亡命を受け入れて何の得があるというのか? それがどうしても引っかかる。まさか我が国を元の体制に戻そうとしているのか? だとしても、それはあまりにリスクが高い。
我が国は隣接する南の国と北の国と和平条約を結んでいる。要は三国を敵に回すようなものだからだ。
私はすぐに南の国と北の国に事の詳細を記した書簡を送った。そして、手助けをしたという貴族の洗い出しもするよう指示して、宰相たちにはすぐに議会を召集して今後の対策を検討するようにと頼んだ。
「立憲君主制でなかったなら私が直接議会で指示できるのだが、それが叶わぬのが歯痒い」
私はそう宰相に愚痴った。
「陛下のお立場は理解しておりますので、何かお考えがあるのならアドバイスくだされば私が動きます」
と言ってくれた。宰相は頭の切れる男だ。彼に任せておけば大丈夫だろうという安心感はある。
私は次にオリビア王女とクリス殿のところへ向かい、ブドウの接ぎ木の進み具合を見に行かねばと思い、二人の元に向かった。そして、その道すがら、これからのことを考えた。
何年かかるかわからないが、私は王室独自のワイナリーを持ち、そこで得た利益を少しずつ蓄え、未曾有の災害などが起こった時に少しでも国民の助けになればと思っている。無論、ワイナリーに限らず、他にも王室として利益をもたらすものはないか、考えなければと常に思っているのだが、利益に繋がるにはまだまだ先の長い話だなとため息をついた。しかし、今の私にはアンリ嬢という存在がいる。彼女のためなら頑張れる。この国が平和な国であり続けるよう、できる努力はしていきたい。
『恋とは別の意味でのやりがいを引き出してくれるものなのだな』と心からで感じた。
今までは使命感のようなものに突き動かされていたが、今ではそれに守りたいという感情が加わった。
これからは、彼女に寄り添い、共に生きていける日が一日も早く訪れるよう、できることから片付けていかねばいけない。そして今度こそ二人揃って、自由な小説が書けるよう、その日のためにも努力を重ねていこうと決意した。
その後、オリビア嬢とクリス殿のところに着くと、二人は農民たちに混ざって作業まで手伝っていて驚かされた。
クリス殿なら分かるが、あの王女然としていた彼女が、今では普段使いの服装でどう見ても王女とは思えない格好で働いていたのだ。
思わず私は『やはり恋とはすごい力があるのだな』と改めて感じた。
そして二人を呼び寄せ、先ほどの先王の件を簡単に説明をしてから接ぎ木についての進行具合を聞いた。
二人はまだまだ台木の数が足りないと嘆いていたが、私は一朝一夕でできるわけではない、これからは我が国で台木そのものを栽培していこうと提案した。するとオリビア嬢は一瞬ため息をついた。
「そうなると先はまだまだ見えませんね」
するとクリス殿が諭した。
「研究と同じです。時間はかかりますが、諦めずに私と共に頑張っていきましょう。諦めたらそこで全てが無駄になってしまいます」
「まあ、クリス様がそう仰るなら」
とまんざらでもない様子だった。
そんな王女を見ていると『きっと彼女なりの苦労があったのだろう』と推測された。何故なら、彼女はこの普通の生活に幸せを感じているように見える。
普通が一番幸せだと分かっている人は、それなりに辛い日々を経験しているはずだ。現にこの私も、国王であった父とその妻であった母を同時に失った時に感じた感情だったからだ。
当たり前のように過ぎていく普通の日常がどれほど幸せだったのかを、失って初めて気づかされたのだ。だからこそそれを奪ったであろう先王である異母兄が憎い。
易々と亡命などさせてたまるものか、なんとしてでも阻止してみせると心に誓った。




