6話
エマ先生のお屋敷の馬車で王宮に着くと、馬車を降りる際、先生のご子息がエスコートをして下さった。
そしていざ中に入ると、そこは別世界のようだった。
デビュタント以来だったせいもあり、少しの緊張を覚えた。
エマ先生の周囲には沢山の貴族達が集まり、それぞれに挨拶をされていた。
皆さんには私のことを、エマ先生の知り合いの娘さんだと紹介してくれ、私に対しそれぞれ賛美の言葉を送ってくれた。
暫く会話を楽しんでいると、私の形だけの旦那様がマリアさんを連れ、周りの人達に
「この度結婚した元伯爵令嬢のアンリです」
と紹介している。
私は心の中で
『アンリは、わ・た・し』
なんですがと叫んでいた。
それを側で見ていたエマ先生は私を連れ、旦那様の元へ行き
「初めまして、ウィンチェスター侯爵」
と声をかけた。
すると旦那様は隣りにいる私をじっと見つめ、興味を示した。
そしてエマ先生がすかさず
「私が伯爵家で長年アンリさんの家庭教師をしておりました、ルイノール子爵家のエマと申します」
と旦那様に言うと、旦那様は冷や汗をかいてその場を後にした。
そして、慌てて王宮からも出て行った。
その後ろから私の継母が旦那様を見つけ、後を追っていく。
それを見ていたエマ先生は
「あの人達はどうやらグルね」
と言った。私は思わず
「なんか楽しい小説が書けそうだわ」
と言うと
「貴方を連れて来た甲斐があったわ」
と微笑んでいたが、顔はとても怖かった。
その後、私達は陛下の御言葉が終わるのを待ってからエマ先生のお屋敷で着替えをし、いつものアンリの姿に戻り、旦那様のお屋敷へと帰った。
私より早く帰っていた旦那様は、私を見ると何処へ行っていたのか聞くこともなく
「エマという女性は君の家庭教師だったのか?」
と聞いてきたので、私は
「はい、長年色々と学ばせていただきました」
と答えた。
そして今日の一連の出来事を私に説明して、明日早々にエマ先生の所へ行き、口止めをして欲しいと頼んできた。
そして、君の頼みは何でも聞くからとも言ってくれた。私は
「それではお言葉に甘えて、自由に行動をさせていただければそれ以上は望みません」
と返したら
「そんな事でいいなら好きにするといい」
そう言ってくれた。
私は嬉しくて叫び声を上げそうだったが堪えた。
そして次の日、堂々と侯爵家の馬車でエマ先生のお屋敷に向かったのだった。
エマ先生のお屋敷に着くと、先生はラミナさんの元に使いを出し、すぐに来るようにと頼んだ。
そしてすぐにラミナさんはソラさんも連れて来て下さった。
私達は昨夜の事を話し合い、これからどう対処すべきか話し合ったが、私は今のところ、この環境が仕事を続けていくのに最も適しているので、暫くはこのままでいいとお願いをした。
そして頭の中にある新しい作品の構想を皆さんに聞いてもらうと、それはとても面白そうな作品が期待できるわと言ってくれた。
只、ラミナさんはそのジャンルには一人、かなりの強豪がいるという。
ペンネームしか分からず、多分内容を見る限り、やはりどこかの貴族であることは間違いないという。
そしてかなりの部数を売り上げているが、サイン会なども一切行われていないという。
その上その方の出版先はラミナさん達の出版社の一番のライバル社だという。
それを聞き私は、今度の作品はやはり読む人が読めば貴族が書いたものだと分かってしまうかもしれないと思った。
今のところ、私自身も自分の身分は秘密にしてもらっているが、次回作ではそうもいかないと思った。
最も身分が分かってしまっても誰が書いたかまでの特定はできない。
それよりもこれからは、執筆活動に専念できる喜びでいっぱいだった私は、この時その方が私の生涯にライバルとして、そしてそれ以外にも色々な関わりを持つことになるとは夢にも思っていなかった。