表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/85

58話

 思っていたほど、一人暮らしは苦に感じなかった。大抵のことは一人でこなせたし、不便も特に感じずに済んでいた。

 思わず、これは継母のおかげかしらと皮肉にも思ってしまった。

 執筆も今まで通り進んでいた、そんな時、突然扉をノックされ、外から

「エマ様という方がお見えですがいかがいたしますか?」

 と管理をしてくれている女性から声をかけられた。私は驚いて

「どうしてここが」

 と呟きながら

「すぐにお通ししてください」

 と伝えた。

 そして中に入ってこられた先生に、別に隠すつもりはありませんでしたが、落ち着いたらご報告に伺おうと思っていたのでと、謝った。

 エマ先生が、私がここにいることを知ったのは、ラナウド伯爵が公爵邸へと先触れを送ったところ、既に公爵邸にはいないと手紙が来たので

『エマ先生だったらご存じなのでは』

 と伯爵自らエマ先生を訪ねて行かれたからだった。

 そして驚いたエマ先生は公爵邸を訪れ、ロザリーさんから居場所を聞いたという。

 ロザリーさんは伯爵には居場所を教えなかったらしい。それを聞いて私が思わず笑ってしまうと「笑い事ではありませんよ」

 と叱られてしまった。


 その後、私はエマ先生に公爵邸を出るに至った心情を全て語った。

 それを聞いたエマ先生は

「貴方の気持ちは理解できるわ。でも陛下から手紙が届いたのだから、戻られるまで待つべきだったわね」

 と言われた。しかし、それは、その内容が陛下にとって言い難いものだったとしたら、申し訳ないと考えてのことだった。

 エマ先生にしては珍しく、そんな私に言い聞かせるように話し始めた。

「人を好きになったのなら、自分が傷つくことを怖がらないで。傷ついたっていいじゃない、とことん突き進んで。それでだめだったなら、その時に諦めればいいのよ。傷つきたくないからと逃げてしまったら、必ず後で後悔するわ」

 そう語ってくれた。確かに私は自分が傷つくのが嫌で逃げてしまっていたので、先生の言葉が心に刺さった。

 そして

「陛下がお戻りになったら、本当の自分の素直な気持ちを伝えなさい」

 とも言ってくれた。

 そう、私は素直になれなかったのだ。その時、本当に大切なことに気づかされた。

『恋とは人を臆病にさせてしまうものなのね』


 そしてふと口にした

「そう考えるとラナウド伯爵ってすごいわ」

 と。

 何度断られても平気な顔をして話しかけてくる。すごい勇気だと。色々な方がいるけれど、私は少し臆病過ぎた。伯爵を見習ってみるのもいいのかもしれない。

 今度陛下とお会いしたなら勇気を出して伝えてみようと思った。

 もう逃げたりせずに素直な気持ちを。駄目ならその時はすっぱりと諦めればいい、エマ先生の言う通り後悔だけはしたくない。

 するとエマ先生が

「んー、私の甥は少し違うような気がするので、あまり参考にはしないようにね」

 と微笑まれていた。私もつられてつい笑ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ