57話
ようやく北の隣国へと、到着した。私は大量の台木を輸出してもらうため、オリビア嬢の兄である隣国の国王に会いに来た。
往復の日数を考えるとアンリ嬢に伝えておかないと不安だったため、予め手紙を送っておいた。おかげで、幾分安心してこちらに向かうことができた。
隣国の国王は友好的に出迎えてくれ、我が国の害虫対策に協力的だった。
こちらの国でも長きにわたり悩まされてきた問題であったようで、接ぎ木の技術が普及するまで多くの畑が失われてしまったという。まさに今、我が国が陥っている状況と同じように。
そこで私は、かねてより不思議に思っていたことを尋ねてみた。
「確かその技術を発見したのはクリス殿だと聞き及んでいますが、なぜかあまり評価されていないとオリビア嬢から聞かされましたが?」
「オリビアからはどの程度まで聞いています?」
「まあ、粗方のことは」
「あいつも考えたものだな、隣国の国王を味方につけるとは……」
ひとりごとのように呟いた。
そして話を続けた。
国王は、クリス殿を評価していないのではなく、あくまでオリビア王女の婚姻相手として反対しているだけだと言う。そして私に尋ねてきた。
「あの二人の様子を見ていて、オリビアが女性として幸せになれると思われるか?」
私は正直に言った。
「オリビア嬢は全てを受け入れた上で慕っているようでしたが」
「だったらあの二人を見ていて、将来、子供を作り幸せに暮らしていけると想像できるのか?」
と怒って言う。確かにそれは想像し難いことではあるのだが。
恋愛小説を書いていた私は、こう返した。
「そこは男と女です。それなりに一緒に暮らしていけばなるようになるのでは? 何より、二人が共に好意を持っているのは感じましたからな」
「それはオリビアが一方的なだけではないのか?」
私は断言するように言った。
「いいえ、クリス殿もオリビア嬢を慕っているのは間違いありません。ただ表現力があまりに乏しいだけです」
と庇った。そこで私はふと思った。この国王は、万が一相手が私に決まったとしても同じように妨害してくるのでは? と。そして一つの結論に至った。
『ただのシスコンなのでは?』と。
私は心の中で、ならば帰国したらオリビア王女に何とかなると伝えようと思った。
それからは、仕事の話になり、私はクリス殿が言っていた、我が国の気候でワインを生産すれば最高品質のものができるということをこちらの国王に伝えた。
そして今回提供してもらう台木のお礼として、我が国が輸出するワインには、これから先、未来永劫、一切の関税はかけないということを約束した。
こちらの国王はそれを大いに歓迎してくれた。私は心の中で『今回の件は、きっと議会も認めてくれるだろう』と考えていた。
その後、私の歓迎会のために夜会を開いてくれた。こちらの国王はまたもや、話はオリビア王女のことに戻っていた。
『やはりシスコンで間違いないな』と思ったが、口にはしなかった。しかし、今度は私に王女を勧めてくる。なので私は、はっきりと言った。
「クリス殿ほどの適任者はいますまい。あれほど国民のためになる研究をされて、その上、研究一筋でオリビア嬢以外の女性には目もくれない、そんな男はそうはいませんぞ」
と続けて
「オリビア嬢に女の苦労はさせたくはないでしょう?」
と付け加えた。すると国王は黙ってしまった。そして私はダメ押しに言ってみた。
「好いた者同士一緒になるのが幸せというものです。今の時代、我が国だって貴族同士でも恋愛結婚が多いのですよ」
と言った。少し嘘だが。そしてその後は私に王女を勧めることはなかった。
私は、何とか納得してくれたようで安心した。
次の日の朝、スッキリとした表情の国王が声をかけて来た。
「では早速、約束の台木を送るので成功を祈っている。オリビアにはしっかりと学ぶよう伝えてくだされ」
と晴れやかに送り出してくれた。
「今度はぜひ、我が国にもお越しください」
そう言って、北の国を後にした。
そして『これでやっとアンリ嬢に会えるな』と、期待に胸を躍らせた。




