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《完結》とんでもない侯爵に嫁がされた女流作家の伯爵令嬢  作者: ヴァンドール


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55/85

55話

 早速、王宮にオリビア王女の想い人であるクリス殿がやって来てくれた。

 彼女は朝から念入りに身支度を整え、本当に嬉しそうだ。

 思っていた通り、彼は貴族というより、いかにも研究者然とした雰囲気の人物だった。

 だが可哀想なことに、あれほどめかし込んでいる彼女に対して褒め言葉の一つもなく、到着するなり仕事の話を始める始末である。


 さすがにそれはあまりに酷いと思い、私は彼に声をかけた。


「これはこれは、遠いところをお越しいただき感謝します。オリビア嬢も、朝から貴殿に会えるのを楽しみにしていたのですよ」


「これは国王陛下、大変失礼いたしました。お初にお目にかかります。どうぞ、私のことはクリスとお呼びください。なにぶん、せっかちなもので……申し訳ありませんでした」


 そう挨拶されたが、オリビア嬢はすっかり慣れているようで、特に気にしていない様子だった。

 きっと二人の間では、これが当たり前なのだろう。


 確かに、これではあちらの国王が兄として心配する気持ちも分からなくはない。だが、当の本人たちが良いのであれば、周囲が口を出すことでもあるまい。


 彼は本当にせっかちな男で、到着するなりブドウ畑へ案内してほしいと言い出した。

 それならばと、先日視察した畑ではなく、王領から少し離れた、特に被害が酷いと聞いている地域を見てもらうことにした。


「もちろん、どこへでも行きます。早速向かいましょう」


 そう言って歩き出す彼の後を、普段着のドレスに着替えたオリビア王女もついて来た。

 現地に着くと、彼はブドウの木を一本一本丁寧に調べ、とりわけ根の部分を掘り返して念入りに観察していた。そして一通りの調査を終えると、きっぱりと言った。


「すぐに我が国から、別の品種のブドウの木を取り寄せましょう」


 そう言って、王女に視線を向ける。


「オリビア嬢、至急手配をお願いします」


 彼女は得意げに頷いた。


「任せてちょうだい。必要な量は、あとで詳しく教えてね」


 彼の説明によれば、自国で発見されたフィロキセラ耐性のあるブドウ品種を台木にし、その上にこの国のワイン用ブドウを接ぎ木する方法が有効だという。フィロキセラは土中に生息するため、殺虫剤による駆除は非常に困難らしい。


 王宮へ戻ると、彼は王女に取り寄せるブドウの品種やおおよその数量を次々と指示していた。

 その様子を見ながら、私は思わず、王女を顎で使う貴族が本当に存在するとは、と呆気にとられてしまった。


 その夜、歓迎を兼ねた晩餐会を開き、我が国が誇る最高級のワインを彼に勧めた。


「素晴らしいワインですね。かなりの老木から造られたものでしょう。この澱を見れば分かります」


 澱とは、ワインの底に沈殿する成分で、高級なワインほど見られるものだ。確かに老木は根が深く、さまざまな地層からミネラルや微量要素を吸収できるため、結果として質の高いワインに仕上がる。


 さらに彼は、この国の気候がワイン造りに非常に適しているとも語った。自国では朝夕の寒暖差が乏しく、寒い季節が長すぎるのだという。


 確かに、昼夜の寒暖差はブドウの甘みを引き出す重要な要素だ。彼はブドウだけでなく、他の農作物につく害虫や細菌についても詳しく語り、本当に研究熱心な人物だと感じた。


 私は、彼のような人材が側にいればどれほど心強いだろうかと思った。そして、これほどの男を正当に評価されていないと嘆いていたオリビア嬢の気持ちが、たった一日で十分理解できた。なぜ隣国の国王が彼を評価しないのか、不思議でならなかった。


 私は近々、隣国の国王に会いに行くつもりでいた。台木は相当な量が必要になるだろう。無償というわけにはいかない。何らかの見返りを用意する必要がある。


 だが、立憲君主制となった我が国では、国王はあくまで象徴であり、政治に直接口を出すことはできない。そこで私は、隣国との友好を深めるための訪問という形を取ることにした。

 実際の交渉内容は、帰国後に議会で審議されることになる。私の独断で決めたことが議会に認められなければ、隣国との関係に影響が出かねない。しかし、今回は民が苦しんでいる状況だ。ある程度は理解を得られるだろうと踏んでいる。


 まあ、やれるだけやってみるか。


 とはいえ、これではまたアンリ嬢と会えない日々が続いてしまう。このまま放っておくわけにもいかない。せめて手紙だけでも渡したい。

 そして帰国した暁には、ゆっくり話がしたい。私の想いを、手紙に認めることにした。


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