52話
オリビア王女の視点
『なんて幸運なのかしら。これで堂々とクリス様をこちらの国にお呼びできるわ』と心の中で叫んだ。
お兄様である国王は、わたくしがクリス様のことをお慕いしているのを知っているくせに、こちらの国の国王に嫁がせようとしている。絶対、そんな策略になんて乗らないわ。
確かに、侯爵であるクリス様に比べたら、こちらの国王と一緒になれば両国の為になるのかもしれない。けれど、わたくしはそんなの認めない。だって、クリス様だって自国の役に立っているじゃない。
あれほど熱心に植物の病害虫の研究をなさったおかげで、どれほど我が国の農作物を救ってきたか、お兄様も分かっているくせに、『そんなの貴族がすることじゃない』なんて、はなから否定なさるのはおかしいわ。確かに彼は研究のこととなると他が目に入らなくなってしまうほど熱中する方だけど、本人であるわたくしが良いと言っているのだから何の問題があるのかしら?
『あんな研究バカでは、お前は女としては幸せになれない』なんて、勝手に決めつけて欲しくはないわ。もう会わせないつもりでこちらの国に留学させたようだけど残念でした。
今回ばかりは、こちらの国王の頼みだもの。聞かないわけにはいかないはずよ。
『あー、早くお会いしたいわ』
そういえば、こちらの国王にもお好きな方がいらっしゃる気がするわ。これは女の勘ってやつなんだけれど。今度、何かの機会にお話ししたいわね。
そしてわたくしが協力をする代わりにクリス様とのことも協力してもらえればお互いが幸せになれるわ。何とかお兄様を説得してもらいましょう。
それにしてもクリス様ったら、わたくしがこちらに来てしまったのに寂しくないのかしら? わたくしがもう何度もお手紙を書いているのに、一度しかお返事がきてないのよね。それとも、また何か新しい発見でもなさって他が目に入らないのかしらね。
クリス様に限って、他の女性にうつつを抜かすことはないと思うけれど。
それにしても、この間のお手紙の内容には驚いたわ。ほとんど研究のことばかりで、わたくしには何が何だかよくわからなかったけれど、最後に一応は『お慕いしています』と書かれていたわね。クリス様らしいといえばそうなんだけど。
さあ、お兄様へのお手紙にどう書こうかしら? こちらの国王にも一言でいいから書き添えてもらえれば流石のお兄様も断れないわ。後でお願いしてみましょう。