49話
王宮にて
「オリビア王女殿下、アカデミーの方はいかがですかな?」
と尋ねると
「そんな畏まらずにオリビアと名前で呼んで下さい」
と言ってから
「ありがとうございます。とても素晴らしい先生方ばかりで、皆様、音楽に造詣が深く、とても勉強になります」
と答えた。
私は
「ではオリビア嬢と呼ばせてもらいます」
と、言ってから
「ピアノの方はお気に召しましたかな? オリビア嬢の姉上が使われていた物を調律させたのですが」
と言うと
「一音一音がはっきりと聞こえ、にごりのない透明感のある音で、とても気に入りました」
と満足げに返してくれた。
そしてオリビア嬢に
「よかったら是非、今度の舞踏会でその腕前をご披露なさってみてはいかがですかな?」
と聞くと
「よろしいのですか? わたくし、人前でピアノを弾くのが大好きですの」
と答えてくれたので
「それではそのように手配いたしましょう」
と言うと
「それでは頑張ってレッスンに励みますわ」
と微笑んだ。
それからしばらくして、王宮では次回の舞踏会に向けた準備が進められていた。
そんな時、私は考えていた。
『アンリ嬢にも招待状を送ったが、来てくれるだろうか』と。念のため、エマ殿にも送っておいたので、一緒になら来てくれるのではないかと。
彼女とは、先日の王女の歓迎パーティー以来会っていなかった。
あの日、彼女はとても疲れているようでずっと気になっていたが、王女が王妃候補との噂が予想以上に広まっていると聞いて、何となくアンリ嬢と会うのがためらわれていた。その上、ダンスを断られたことにもショックを受けていたので今回、彼女は本当に来てくれるのだろうかと不安に駆られていた。
いよいよ舞踏会当日を迎えた。
すると、いつものように美しいアンリ嬢が、エマ殿と一緒に参加をしてくれた。
ホッとしていると、エマ殿はアンリ嬢を連れて私のところへと挨拶しに来てくれた。
すると口を開いたのはアンリ嬢が先だった。彼女は私の隣にいる王女殿下に向かってカーテシーをしながら
「お初にお目にかかります。エリーヌ家のアンリ・カーティスと申します。以後お見知りおきいただければ幸いです」
と挨拶をし、私に対しても同じようにカーテシーをしながら
「陛下におかれましてはご機嫌麗しゅうございます。本日はお目にかかれて、大変光栄でございます」
と畏まって言われた。私にとって、それはとてもいたたまれない状況だった。
そして、エマ殿とすぐに側を離れて行ってしまった。
その後、大勢の人達からの挨拶を受け、やっと終わる頃にはオリビア嬢のピアノ演奏の披露が始まった。
皆、静かに演奏に耳を傾けて聞いていたが、やがてその曲でダンスをする者達もいて、かなりリラックスした雰囲気となった。そして最後の曲を弾き終えると拍手喝采となって、会場中が沸いた。
そして、それを遠くから見ていたアンリ嬢とエマ殿はいつの間にか王宮から姿が消えていた。