45話
7月5日より毎日4話ずつ投稿させていただいています。
就任式から四日後、陛下は公爵邸へと来られた。
そして、ロザリーさんに
「すぐ彼女を呼ぶように」
と怒っているご様子だったので、ロザリーさんが心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫ですか? 何かあったのですね。すぐ下へ降りた方がよろしいですよ」
そう心配そうに言ってくれた。
ロザリーさんと共に客間へと入ると、陛下はいきなり
「何故、奴がエスコートをしていたのだ! 先日の従兄とはどういうことだ?」
と聞かれ、私はそんなに怒られるようなことをしたかしらと思いながらも『こんなにいきなり聞いてくるなんて、この四日間、よほどお忙しかったのだわ』と思った。だって陛下の性格だったら、次の日にでも確かめないと気が済まない方なのだから。
そして私は陛下に、先日エマ先生にご一緒してもらい、ラナウド伯爵邸で起こった一連のことを事細かに説明した。
エマ先生の名誉もあるので全てを話すのは憚られたが下手に隠し事をして誤解をされては却って面倒なことになると思い、エマ先生には申し訳ないが許可も取らずに全てを話した。
すると陛下は、少しの間沈黙をなさってから
「そうか、そんなことがあったのか。まさかあの小説の作者が君の父上だったとは。やはり君とは不思議な縁を感じるな」
そして
「しかし、あの男と従兄ということは、確かに血は近いが婚姻対象にはなるのだな」
と訳の分からないことを仰るので
「その件は前にも言った通り、お断りしてますから」
と返すと
「いや、奴は絶対、まだ諦めてはいないはずだ」
と言われた。私は少々呆れ気味に
「はいはい、そうなのですね。陛下の中では」
と答えた。そして暫くして、ふと
「やはりエマ殿は君のお母上だったか」
と、いかにも知っていたふうに言われたので
「え? 殿下は、ではなくて陛下は知っていらしたのですか?」
と聞くと
「いや、確信はなかったが、ずっとそんな気がしていた」
と言われた。私は、本人よりずっと鋭い感性の持ち主だと感心してしまった。
そして陛下は
「殿下だの陛下だのと間違えて呼ぶくらいなら、いっそ名前で呼んでくれればいい。ルイスと」
私は
「そんな畏れ多いこと言えません」
と言うと
「その都度、間違えるよりずっといいと思うがな」
と言われた。私はそんなものかと思い
「ではルイス様ではいかがですか?」
と返すと
「まあ、様は余計だが、今はそれでも構わない」
と仰った。そして
「是非、君に生き写しだという肖像画を私も見たいものだな」
と言って
「だが奴に頼むのは嫌だな」
と言われた。思わず『子供みたいなところもあるのね』と心の中で笑ってしまった。
そして、余程お忙しい中来られたようで
「残念だが、今日のところはこれで失礼するよ。またすぐに会いに来る」
と仰ってから去って行かれた。
私は失礼だけど、なんとなくそんなお姿が可愛いく思えてしまった。そしてお忙しい中、たとえ僅かな時間でも私のことを気にして会いに来てくれたことが嬉しく思えた。