39話
ルイス王弟殿下視点
全く、あのラナウド伯爵とは何を考えているのだ? 我が公爵邸まで来て、堂々と私の前でアンリ嬢に婚姻を申し込むなんて。
普通、あれだけ私が睨みをきかせたら怯むはずなのに、少しも怯まず、むしろどこ吹く風と受け流されている気さえする。その上、大して親しくもないくせに彼女を名前で呼ぶなどもってのほかだ。こんなにも腹立たしいのに、肝心の彼女は私の気持ちなど気づきもしない。鈍感にもほどがあると、最近では思わず八つ当たりをしそうになる。
ただ、こんな気持ちを知られてしまった時の彼女の反応も怖い。これほど女性に自信がない自分は、正直初めてだ。
もし私の気持ちを知ってしまったとして、その時、この屋敷を去ることにでもなってしまったらと思うと、今どう接することが正解なのか分からない。
そういえば、最初の相手があんな男だったせいでもう結婚はこりごりと言っていたことがあったな。
世の中の男が皆、同じように見えているのだとしたら、私が何としてでも正さないといけないのだが、どうしたら良いものか? このまま静観していては、この間のラナウド伯爵のような男がいつ現れてもおかしくない。何故なら、彼女をエスコートしていく社交界では、男達の視線が通り過ぎる彼女の姿を追っているのがわかる。
当の本人はまるで気づきもしていないようだが。
尤も、エスコートしているのが私だからなのか、直接彼女にアプローチしてくる男はいないのだが、この間の伯爵は彼女の継母経由でアプローチをしてきた。それがかえって逆効果になったのは、実に笑える。しかしあの男、まだ彼女を諦める様子がまるでない。あれほど面と向かって断られたというのに、心が強いというか図太いやつだ。
きっとまた彼女に接触してくるはずだ。今度はどう対処すべきか、考えておかねばならんな。
しかし、このままでは私自身も平行線だ。もし機会があったなら、彼女が母のように慕っているエマ殿にそれとなく私の気持ちを伝えてみるのも良いかもしれない。しかし、それはそれで男として情け無いと取られはしないか?
あの男でさえ堂々と気持ちを伝えているのだ。やはり自分の気持ちはきちんと本人に伝えなければあとで後悔する。同じ玉砕するにしてもその方が諦めがつくというものだ。いい年をしてと思う反面やはり恋とは幾つになっても皆同じなのだと改めて思うのだった。




