37話
7月5日より毎日4話ずつ投稿させていただいています。
あの日から三日後。ラナウド伯爵が公爵邸へとやって来た。応対に出た私と、なぜか隣にいる殿下を見た伯爵は
「これは殿下、お会いできて大変光栄でございます。ですが、ここからはアンリ嬢と二人でお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」
と頼んだ。すると殿下は
「先日、舞踏会で会った時にも言ったはずだが、彼女とは名前で呼ぶほど親しい付き合いではないはずだが」
と言い、続けて
「私がいたら不味い話でも? それから、気にすることはない。ここは我が公爵邸だ」
と仰った。何を言っても無駄だと思われた伯爵は
「それでは単刀直入に、カーティス伯爵令嬢、私との婚姻を考えて欲しいのです」
と仰った。いきなりの言葉に驚いた私だったが
「そのお話しは、継母に直接お断りさせていただきましたが」
と言った。すると
「いえ、私は何も聞いておりません。何度か尋ねたのですが、『もう少し待って欲しい』との繰り返しだったもので、だったらと直接ご本人にと思いまして参じた次第です」
と言われた。私は
「それは存じ上げませんで、大変失礼いたしました。ですが、気持ちは継母に告げた通り変わりません」
と言うと
「その答えは想定内です。今日は直接私の口から本心を伝えたくてお会いしたかっただけですから」
と言われた。そして、殿下の元にいることを継母に教えておいたとも言っていた。なぜなら、その方が継母が下手に私に近寄ってこないからだと言われた。伯爵は私が継母を嫌っているのを異母弟から聞いて知ったそうだ。そういえば、ジョンは伯爵自身はお優しい方だと褒めていたことを思い出した。確かに悪い人ではなさそうだけれど、今の私は婚姻など考える気にはとてもなれない。だいたい最初があんな相手だったせいか、結婚そのものに何の魅力も感じなくなっているのだから。
伯爵は、今日は気持ちを伝えられただけで満足だと言って帰って行かれた。なぜか不機嫌極まりない殿下が隣を離れない。そして
「何なのだ、あの男は」
と独り言のように言う。思わず私は
「さあ?」
と答えた。




