36話
その後、四人での話し合いの中で、驚くべき事実が殿下より明かされた。
それは、殿下の亡くなった母である隣国の第二王女の実の兄弟、つまり、現在の国王とその弟との繋がりについてだった。
ご兄弟と、その父である当時の国王は、殿下の母が先王と共に暗殺されたのではないかと考え、常に殿下の身を案じていたという。
それ以来、定期的に手紙のやり取りが続いているそうだ。
実は、先王と殿下の母が亡くなられた際、今は亡き隣国の先王が、孫である殿下を引き取りたいと申し出たことがあった。
しかし、それを拒否したのは、今の国王陛下だったという。
もちろん、それは愛情からではなく、いざという時に人質として使えると考えたからだそうだ。
それ以来、殿下は、実の祖父であった隣国の国王が亡くなられた後も、伯父たちが変わらず心配してくれていると話された。
そして、心から信頼しており、何かあれば必ず助けに来ると約束してくれているのだという。
ただ、殿下は極力迷惑をかけぬよう、我が国の現状をすべては伝えていないとも仰った。
できる限り、自国で解決できるのであれば、それに越したことはないからだと。
今回の隣国侵攻は、表向きは収まったものの、またいつぶり返してもおかしくない状況だ。
こちら側でできることは対処するが、どうしても無理な場合には、頼れる隣国がある、そのことを私たちに伝えておきたかったのだと、殿下は仰った。
そこで私は理解した。
殿下が王位継承権を放棄したと見なされる形で公爵となった今も、あの疑い深い陛下が、なお殿下を気にかけ続けている理由を。
そうか、いざという時の人質に使うつもりなのか、そして、だからこそ生かしておくのだということを。
その後、さらにもう一つ、驚かされる事実を聞かされた。
国の大きさから考えれば、いざという時の軍事力は、我が国の方がはるかに上だと思っていた。
しかし実際には、保有している武器の質や、他国から雇っている強力な傭兵団の数を見ても、我が国は隣国に太刀打ちできないということだった。
それにもかかわらず、陛下がその事実を把握していないと聞き、私は本当にこの国は大丈夫なのかと不安になった。
殿下は、その点を陛下に進言し、武力侵攻を諦めさせることも考えたという。
しかし、殿下の言葉は『隣国の回し者』と受け取られるだけで、かえって逆効果になると判断し、断念したそうだ。
話し合いの末、私たちは、しばらく静観することに決めた。
この状況では、次の小説を書いたとしても厳しい検閲に引っかかり、出版は見込めない。
ましてや、陛下はそれを殿下が書いていると思っているのだから、なおさらだ。
そうこうしていると、扉がノックされ、執事のノアさんが入ってきた。
「アンリ様に、ラナウド伯爵様より、三日後にお会いできないかとの先触れが参りましたが、いかがいたしましょうか」
驚いた私は、どう返事をすべきか迷っていると、突然、殿下が答えてしまった。
「分かった。では、三日後の午後に我が公爵邸でお待ちしていると伝えてくれ」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「では、そのように」
そう言って、ノアさんを下がらせてしまった。
残された私たちは顔を見合わせていると、エマ先生が不思議そうな表情を浮かべた。
「どうして、こちらにアンリさんがいることをご存じなのかしら?」
一同、皆、不審に思っていた。
そして殿下が、物騒なことを口にされた。
「奴も、彼女が私のもとにいると知ったうえで、こんな先触れをよこすとは、なかなかいい度胸をしているな」
その言葉に、私たちは唖然とした。




