34話
公爵邸に戻った私は、ロザリーさんにお茶を淹れてもらいながら世間話をしていた。
今日の外出はきちんと告げて、従者もつけての外出だったので、ロザリーさんは何も言わない。
今までは、一人でこっそりと外出していたので、その度怒られていたが、少しずつこちらでの生活にも慣れなくてはと、今ではきちんと告げるようにしていた。
それに、殿下にもいつ何があるかわからないので慎重に行動するようにと注意もされていたので、気をつけるようにしていた。
しばらくすると殿下が戻られたので、いつものように一緒に夕食を取っている。
「今日はエマ殿のところへ行っていたそうだか、何かあったのか?」
思わず『何でも知っているのね』と心の中でつぶやいた。
そして隠す必要もないので、エマ先生との会話をそのまま伝えた。
すると殿下は
「いつも思うのだが、エマ殿は君の母上のようだな」
と仰った。
「はい、いつでも一番に私を心配してくださいます。エマ先生がいなかったら今の私はいないと思います」
そう答え、先生が私の家庭教師を始めた頃の話に遡った。
そして私が小説家になれたのも、先生が勧めてくださった一冊の本がきっかけだったと話した。
「それはどんな本なんだ?」
「『必然だった出会い』というタイトルの本でした」
するととても驚いたお顔をなさった。
「その作者は〈ジャン・ポール・サルドン〉ではないのか?」
「殿下もご存知なのですか?」
「ずっと昔だが、感銘を受け、私の考えの根底となった作家だ。私が読んだ本とは違うが、同じ作家だ。もしその作家が生きていたなら、もっとたくさん、彼の作品を読んでみたかった。彼の最後の作品となってしまった本は特に素晴らしいものだった」
「そうですね。私が初めて読んだ時には既にお亡くなりになっていました」
「ああ、随分と昔に黒死病という当時の流行病で亡くなったと聞いている」
そして彼の作品はきっと今の国王の元では検閲に引っかかって出版できなかっただろう。先王の時代だったから出版できたのだと言われた。
確かに私が読んだ作品も恋愛小説でありながらもかなり政治的要素が含まれていた。それは私が先日書いた物よりもずっと具体的な物だった。
国王が変わっただけで読めなくなってしまう本があるなんてあまりに理不尽だと思った。
もっと自由に思ったことが堂々と書ける国であって欲しいと心から思う。
きっと亡くなったその作家さんも同じように思われる筈だ。
だからこそ私は、その作家さんが引き合わせた運命のようなものを感じた。
そういえば、いつだったか殿下とエマ先生と三人で初めて語り合った時に感じた使命を思い出した。そして私が初めて感動を覚えた小説のタイトル『必然だった出会い』そのままの意味のような気がした。
そしてやはり戦争になりそうになっている今、止められる側の人間として私達は選ばれたのだと自覚しなくてはいけないと改めて思った。
殿下にその気持ちを伝えると、やはり同じように思ってくれていた。
これからどんな試練が待ち受けているのかわからないが、どんなことが起きても立ち向かえる強い自分であろうと思っていた。
そして話をしている途中で扉が大きな音でノックされ、執事のノアさんが慌てて入ってきた。
「今、殿下の使者の方がみえて、編集長が王宮の警備隊に連行されました」
殿下は驚きと共に
「すぐ支度を、王宮に行く。すまないが屋敷で待機するように」
私は心の中で『ついに始まってしまった』
と覚悟を決めた。そして殿下の今の気持ちを思いやって、どんなに心配なさっているのかと心が痛んだ。
私は夜中まで起きて待っているが、今だになんの連絡もない。『ただ祈ることしかできないなんて』
と、気持ちだけが先走る。




