33話
7月5日より毎日4話ずつ投稿させていただいています。
やはりどうしてもエマ先生と、あのウィンチェスター侯爵様との婚約を破談にした子爵令嬢との関係が気になって仕方がない私は、思い切って今日エマ先生のお屋敷にお邪魔する約束を取り付けていた。
お屋敷に着くといつものようににこやかに迎えてくださったエマ先生だったが、私が真剣な眼差しで
「先生、私ずっと気になってお伺いしたいことがあったんですが、何となく聞きづらくて今日まできてしまいました」
と切り出した。すると先生は
「どうしたの? そんな深刻な顔をして」
と仰ったので、私はいつか目にしてしまったお二人のことを口にした。すると先生は
「そう、見られていたのね」
と仰ってから話し始めてくださった。
その内容は驚くことに、全て私のことを思って、許せなくてしてくださったことだった。
愛人がいるのにお金の力で貴族令嬢なら誰でもいいと娶って、その人に愛人の子供を産んだことにさせようとしたことや、挙句に外見が気に入らないからといって追い出しておいて、気に入った貴族令嬢ができた途端に長年一緒にいた愛人を追い出すだなんて、人としても許せなかったという。
だからここで痛い目に遭わせなくては気が収まらなかったと言い、子爵令嬢を呼び出し全てを話して、破談にさせたという。もっとも彼女のためにもそれは間違いではないと確信してやったことだと言った。
確かにあの男だったら、何度でも同じことを繰り返すのは目に見ていた。
そしてマリアさんのことは、最初こそ嫌な女性だと思っていたが、好みの子爵令嬢が現れた途端に邪魔者扱いして追い出したのを知って、哀れに思えてしまい、会って事実を伝え、アドバイスをしたという。
純潔を失ってしまった上に侯爵から捨てられたという噂は広がっていたから、身を立てて生きていくためのことを提案したという。
それにしても高級娼館だとは驚きましたと言うと
「それに関してはマリアさん自身が言い出したことなの」
と仰った。全てを聞き終えた私は
「そんなふうに思っていただける方がいるなんて、とても嬉しいですし、心強いです」
と答えた。するとエマ先生は
「少しやり過ぎてしまったかしらね」
とも仰ったが、私は思わず
「その程度で反省する男ではないと思います」
と本音が出てしまった。するとエマ先生は吹き出すように笑われていた。
でも私は、そんなふうに私より腹を立ててくれたエマ先生の存在が嬉しくて、少し涙目になってしまった。
そしてその後、エマ先生は
「それより殿下とは上手くいっているの?」
と聞かれた。私は
「まあ、今のところ新たな小説の出版は様子を見ている状況ですが、あとは陛下の出方次第です」
と答えると
「そうではなくて、二人の関係性を聞いているのよ」
と仰るので、私は
「関係性とは?」
と聞くと
「まあ、もういいわ。あなたらしいわね」
と呆れたように言われてしまった。
私はよく意味が分からなかったが、とりあえず今日はずっと気になっていたことが解決したのですっきりとしていた。
その後、先生のご子息夫妻が入ってこられて挨拶をしてくださり、いよいよ来月がご出産予定だと伺った。私は
「元気な赤ちゃんを産んでください、楽しみにしています」
と言うと
「ではごゆっくりなさっていってください」
と言って仲良くお散歩に出かけられた。
「これでやっと先生にもお孫さんができるのですね」
と言うと
「そうね、とっても楽しみだわ。でも息子の孫も可愛いけれど、娘の孫はもっと可愛いと世間の皆さんは仰っているのよね」
と言われた。私は
「先生、それは贅沢というものです」
と言うと、なぜか寂しそうに
「それもそうね。私が望んではいけないことね」
と言われた。そして私は
「先生にはご立派な跡継ぎがいらっしゃるのですから」
と言ってからエマ先生のお屋敷を後にした。
私はきっとエマ先生は女の子のお子様も欲しかったんだわ、と思いながら公爵邸へと帰った。